第10話 俺たちのオリエンテーション

 まあ、このことをラブコメ的展開というのだろう。今日はオリエンテーション2日目。入学して4日目にして陰キャにはキツイ行事が来てしまった。昨日は校内の説明で、今日はグループワーク。グループは近くの席の人、つまり、有田さんと同じグループだ。あとは熊野さん、海南うなみさん、そして加太くん。全員陽キャと呼ばれる人たちだ。うちのクラスは出席番号順ではなく、担任の粋な計らい(?)のおかげで、ごちゃ混ぜの席になっている。


「何気に由良と話すの初だわ〜。」

「奏っちもなんだ。私も私も〜。」

「みぎどー。」


加太くんのフルネームは、加太奏太郎。まだつるめそうな少年っぽい感じのやつだ。まあこの先話すこともないだろうが。


「桜は?」


頬杖をついて訊くのは海南楓。小動物的愛されキャラとでも売っているのだろう。陰キャにとってはウザキャラでしかないのだが。


「私はまあ話す方だと思うけど…隣だし…。」


どうやら有田さんは俺達の関係については話したくないらしい。今更だが有田桜。このクラスのマドンナだ。クラスでは容姿端麗の誰とでも気楽に接する人って感じだが、家での姿は、あぁ…って感じだ。


「だよね〜、一応ね〜。」


少し口角を上げながら言うのは熊野さん。熊野音羽。三人の中では静かな方だが、ノリは陽キャ寄りで、いざとなった時のツッコミ役だ。


「まあね。」


有田さんはテキトーに返した。


「ところでさ、由良っち『ワンピ』読んでんだよね。好きなシーンは?キャラは?」

「それあたしも気になった。」

「私もだよい。」


加太くん、熊野さん、海南さんがずいっと前に乗り出してくる。勿論、海南さんはアイタされてるわけだが。


「えと、好きなキャラはサボで、推しはうるちゃん。好きなシーンは兄弟盃だけど。」

「分かるわ〜。そのあと3人の昔の話だよな。」

「うるちゃん推し?ホント?本当?」

「サボはカッコよすぎ。」


何やかんやで盛り上がった。


 講堂に移動して先生達のつまらない話を聞き流す。さすが大学の併設校といったところだ。将来の補償はしっかりされている。だが同じような話を何回もされているうちに、夢の中に潜ってしまった。


目覚めたときには部活動紹介ムービーが流れていた。ちなみに隣の有田さんはまだ寝息を立てている。ラグビー部の紹介が始まったところで、有田さんも目覚めた。


「おはよ。今どこらへん?」

「もうそろそろ終わるとこ。」

「そう、ありがと。久志くんも寝てたでしょ。」

「寝てたよ。成績の決め方の話ぐらいから。」

「私も。」


ふふっと口を押さえて有田さんは笑った。そうこうしているうちにオリエンテーションは終わりぞろぞろと教室に帰り始めていた。ひとまず、その波が収まるまで待つことにした。すると、


「桜〜、寝ちゃった〜。」


案の定、有田さんに海南さんが抱きついた。目を擦る様子を見ると熊野さんも加太くんも寝てしまったようだ。


「うわ〜ん。この後の作文絶対やばいよ〜。」


そうこのグループが作られたのも、今日の作文を通して高校生活をどうしたいか、所謂『抱負を書け』的な作文を書くためだ。それをグループ内で回し、仲を深めようというのだが…。


「まあ、どうにかなるだろ。」

「えぇ?そうかなぁ?奏っちの言うことだしな?」

「何だよ、バ楓。」


こんな会話を右目に『別に必要なくね?』と考える今日この頃の俺。


「あの2人ね、幼馴染なんだ。とってもお似合いだと思わない?」

「確かに、あのつねり合いは癒される。」


有田さんが教えてくれて、俺はそれに同意。隣で聞いていた熊野さんも大きく頷いている。そして、3人でハイタッチした。


「えっ?何?そういう空気?」


海南さんが両手を構える。俺たちはそれを無視して席を立った。


「みんなひどいよ〜。」


そのあともワイワイ騒いで教室に戻った。

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