第9話 俺たちはショピング

 只今、俺たちは近くのショッピングモールに来ている。


○○○○○


これは1時間ほど前のこと。


 杏はショピングモールに着くなり、


「今から別行動ね。」


と言ってきた。何のことか分からなかったので、


「何で?」


と素直に訊いたところ。


「言わせるな。」


の真顔の一言。俺に1000のダメージ。いつもの『バカ兄』がない分1.2倍ダメージ。さらに横で有田さんがジト目で見てきて2倍ダメージ。俺はとっくの昔にKOされていた。作画崩壊した俺はフラフラと歩き、ス○バに入る。アメリカンのアイスを注文して、空いている席に座った。現代っ子の性だろうか、スマホを取り出し競馬の予想アプリを開く。勿論、現金は賭けていない。慣れた手つきで今週のG1レースの血統と騎手のページを行き来していた。


○○○○○


 これが約1時間前の出来事。今は有田さんを絶賛着せ替え中だ。


「桜さん、これ着て〜。」

「これもこれも〜。」


杏が何回も何回も持ってくる服を1着ずつ着て、俺がアリかナシかを言っていく。デニムや部屋用のスウェットは先に決めたので、今はTシャツやパーカーだけ。


「こういうパーカーなら、部屋用だったらグレーとかで、外用だったら黒とか白とか。杏、前開いても違和感のないシャツ持ってきてくれ。」

「了解しました、隊長!」


杏はビシッと敬礼をして、店内に飛び出していった。


「いいのに、そんなにしなくたって。」


彼女は困り顔をカーテンから覗かせた。


「いや、俺の方が困ってる。有田さん、何着せても似合うから、マジヤバい。全部苦渋の決断。あと…。」

「もういい、もういいから。」


彼女は顔を真っ赤にして、左手でストップをかけている。


「は、恥ずい…。」

「何イチャコラしとんじゃわれぃ。」

「「あっ。」」


そこには数着のTシャツを抱えた杏がいた。


「あんた達ね、私はまだ慣れてるけど、他の人まで砂糖でぶん殴ったら殺人罪で訴えられるよ。」

「「すみません。」」

「まったく、ちょっと目を離した隙に…。」


杏は呆れ顔で言う。


「とりあえず、桜さんはこれ着て。杏は自分の服買ってきます。」


『くれぐれも甘々な空気にはなるなよ』と目で言っているのが解った。あと

買いに行くその背中にも『くれぐれも』と書いてある紙が貼られているように見えた。


「気をつけようか…。」

「うん…。」


よほど恥ずかしかったのか、彼女はすっとカーテンを閉めた。


 結局、1週間分くらいの服は揃えた。できるだけリーズナブルな服を買ったり、隣の古着屋で同じようなものを買ったりしたので、値段は抑えることができたが、それでも現役男子高校生にとっては痛すぎる出費だ。


「今日は楽しかったね、桜さん。」

「そうだね、杏ちゃん。」


まあ、この笑顔が見れたので、今日のところは良しとしよう。

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