第2話 俺たちは入学式②
真っ黒な自転車にまたがって、学校の方へ走り出す。涼しい風を受けながら15分間、1度も止まらなかった。自転車を置いて、教室に上がる。俺のクラスは1–Cだ。教室には誰かがいた。気づかないふりをして自分の席に座る。数分経ってぞろぞろと人がきた。五月蝿い…。
「お、おはよう。よろしくね。」
声のする方をパッと見た。隣の席には、JKが座っていた。まあ当然だが。
「よっ、よろしく。」
声が裏返った。俺の頬は熱を帯びていった。
「声、裏返ったね。ふふっ。」
煽っているように見えたが、目を見たら悪気はなさそうだ。
「あっ、忘れてた。私は有田桜。君は?」
「俺は由良久志。」
「じゃあ、改めてよろしくね、由良君。」
そう言うと、彼女は去っていった。彼女のような人のことを陽キャというのだろう。弱みを見せないようにしよう。そう決心した。
今日はこのような感じで終わり、帰路につく。夕飯の買い物をしてから帰ったから2時過ぎになっていた。クラスの陽キャどもはもう友達を作って飯に行ったらしい。勿論、俺は誘われていないが。誰もいない街角を鼻歌交じりに歩いていると、遠くに見覚えのあるJKがいた。有田さんだ。買い物袋を提げている。勿論、声はかけない。絶対に、絶対に、だ。
―ピチャン
そう思っていた矢先だった。水たまりに足を突っ込んでしまったのだ。静かなので、音が余計鮮明に聞こえてくる。やってしまった、と思ったときにはもう遅かった。有田さんが笑顔で手を振っている。
「はぁ。」
俺は大きなため息をついて彼女に駆け寄った。
「由良君って家、こっちの方なの?」
「うん、目と鼻の先だよ。」
そう、有田さんがさっき立ち尽くしていた家の3軒隣が俺の家だ。
「ねぇ、入っていい?」
「ダメだ。掃除していない。」
「ケチ。」
彼女は頬をぷくぅと膨らませる。そこには何もつっこまず、ドアを開ける。
「また機会があればな。」
まぁそんなことはないだろうけど、という言葉を呑み込んだことを彼女は知らない。彼女は、ぱぁと目を輝かせ、うんうん頷いている。それが許されるのは君が可愛いからだよ、と心の中で呟いた。
バイバイと大きく手を振ってくる彼女に小さく手を振り、ドアを閉める。リビングに行って、鞄をソファに投げ捨てて、その隣に埋まる。
「んあぁ。」
久しぶりに疲れた声を出した。ああ今夜はよく眠れそうと天を仰ぎ、手で目を覆う。一息ついたところに杏がやってきた。
「あぁ、バカ兄。ようやく入ってきたんだ。」
杏はバスタオルで髪をくしゃくしゃしている。シャワーを浴びたところだろう。下着のまま出てきたが、一切興奮しない。なんせ妹なんだから。これが有田さんなら…って俺は何てことを考えているんだ!
「いつまで惚気ているんだか。はぁ、これだからバカ兄は。」
杏は呆れた顔で言う。確かに話しかけてもらって嬉しかったが、そんなスウィートな空気は出してないぞ。俺の無言の訴えも杏には届かず、髪を乾かしに風呂場に消えていった。
「俺も入るから、できるだけ早くしてくれ。」
その声は杏に響いたのか、俺は知らない。
結局、杏は髪を乾かすのに5分ほどかかった。なんせ長いもんね。そのあとお気に入りの服に着替えていた。シャワーを浴びて髪を乾かす俺に、どいてと言わんばかりの目で睨んでくる。ため息を1つついて、場所を譲ると、嬉しそうな顔をして、髪を結い始めた。えっ?誰かとデート行くの?お兄ちゃん泣いちゃうよ。そんな目をしたが、杏は振り向きもしなかった。もう1度ため息をつき、リビングのソファに座る。テレビをつけると、某有名サスペンスをやっていた。途中からだから、全く面白くない。スナック菓子をポリポリと食べる。刑事が『僕としたことが』と有名なセリフを言ったところで、杏がリビングに来た。無言でこっちを見つめてくる。
「あぁ、似合ってるよ。うちの妹は世界一可愛い。」
「エヘヘ。ありがとう。でも、世界一はキモいからやめて。」
笑顔で言われる。その無邪気な笑顔が世の中の男をダメにするんですよ、杏さん。
そのとき、インターホンが鳴った。
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