陰キャの陰キャによる陽に限りなく近い陰キャのための救済措置〜俺の3年間が青くなってしまった件〜

136君

Polyphonic

ハジマリ

第1話 俺たちは入学式①



―人は間違い続ける生き物だ。これは人間の摂理であるが、ある時期だけは例外である。それこそ青春だ。この期間では“陽“と“陰“という二つのグループに分けられ、格差社会が形成される。陽グループ(所謂“陽キャ“)では間違いは肯定化され、記憶の奥底深くに封印される。しかし、陰グループ(所謂“陰キャ“)では間違っても、身内では気にならない。ただ、陽キャにバレると、そのことを問い詰められ、従わざるをえない状況が作られる。だから俺はそんなものには染まらない。つまり、俺に青春など必要ない。―




 これを書く数日前に遡る。


「―きろ。起きろ。」

「んんっ。」

「起きろ、バカ兄。」


ゴンっと背中に衝撃が走る。思わず押さえてうずくまった。


「痛ぁ。ったく、そのパワーどこでつけたんだよ。」


俺は顔を歪めながら、体を起こす。すると、妹の杏が人差し指を突き出して言う。


「バカ兄が起きないのがいけないんだからね。あと、杏は可愛くてか弱い女の子です。」


ウインクしながら言うから、発言と相まって余計あざとい。


「今日、入学式でしょ。杏は部活あるからもう行かなきゃだけど、遅れないようにね。」

「おう。」


そうして、杏はパタパタと音を立てて出ていった。


 ちなみに俺の名前は由良久志。今日から高校1年生だ。趣味はぼっちでいること。特技は気づかれないこと。座右の銘は『孤高こそ人類の叡智である』だ。我ながらなかなかいい響きだと思う。高校生活の目標は、誰にも支配されず過ごすこと。校則は例外として、だ。


 静かになったリビングでコーヒーを一杯飲む。ニュース番組をつけて、今日の話題になりそうなものを探す。まぁ、喋る機会がないんだが、一応な一応。白いカッターシャツにアイロンをかけ、袖を通す。あらかじめトースターに入れておいた食パンが焼けた音がした。バターを薄く塗り、頬張る。そして、カットしたリンゴを食べ、洗面台に向かう。寝癖を直していると、歯を磨いていないことに気がつく。てへぺろをして鏡の自分とにらめっこ。独りでに吹き出す。真面目な顔に戻り、誰もいないリビングに戻る。時間を見る。7時30分。中学生の頃なら始業ギリギリに行っていたが、高校生になったし、って早く家を出た。

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