第12話

私が12歳の時に銀眼が両目に現れた。


そう、私の一番最初の神託はこの時に下った。


漠然と感じていた不安は12歳の時に現実となり。両目として現れた銀眼は隠されることになる。


私の神託の相手は12歳一回り違う歳で産まれたようだ。


私が29歳の歳まで出会うことはないだろう。


女性なのか男性なのかもわからない。どこの国にいるのかもわからない。


でも、ある日神託がくだるのだというのだから待つしか無い。




ただ待つだけだったこの間にたくさんのことがあった。






父が亡くなり、母が宮殿を去り、兄が国王になった。


すべてのものを引き受けるように仕事に没頭する兄を心配しながら私は必死で帝王学を学び


兄のそばにいることだけを夢見た。


兄を支え、兄のために生き、私の疾患を治すのではなく兄を治してもらおうと頼むつもりで


生きてきた。神託なんぞくそくらえだと思っていた。


兄は父のぬるま湯だった国政を一掃しようと必死になっていた。それもこれもきっと


私のためだったのだろう。


自分が亡き後でも私を支えることができる人材を必死で作ろうとしていたのだと思う。


そして。


その心労もたたったのか兄の病は悪化の一途をたどりはじめた。


私の拙い力ない手で一生懸命つなぎとめようとしても兄の命は零れていった。




逝かないで、一人にしないで。寂しい。


ルーゼ兄様がいればそれでいい。一緒にいたい。兄様・・・。






でも、兄が息を引き取りアンジェが後を追った後。


そういった感情はその時に捨てた。




16歳にして私はこのドゥーゼットの国王になったのだ。








優しく頼りなく、兄に甘えていた私は巷では冷酷な心を開かない国王だと言われるようになった。


兄がいない。大事な人がいない。


だから愛想を振りまく必要もない。心を開けば誤解を生む。


特に女性は苦手だった。




自分の見た目になんの興味もなかったが、女性たちにはそうではなかったようだった。






どれだけ冷たくしても、どれだけ無視しても近づいてくる。


薬が効かないと知らない彼女たちは色んなものに薬を混ぜてくる。


特に媚薬は最悪だ。


私の体に変化は現れないが、とてつもない吐き気に襲われるのだ。


これが夜会のたびに繰り返される。




頭が痛くなる。


馬鹿なのか?




一度手を付けたからと言ってどうして王妃になれると思うのだろう。


逆に薬を盛ったのだとしたらそれを逆手に処分してしまえばいい。


だいたいそんな身持ちの軽い女を王妃にするわけがないだろう?アホなのか?


女性は嫌いだ。香水の匂いも私には苦痛だった。


まいど繰り返される吐き気のために、流石にこちらも手を打つようにした。


影であるアンヌに夜会のパートナーを頼むこともあった。


きちんとレオルドも私の護衛についているし、私には姉のような存在だし。


都合よく影を使うのもどうかと思ったが、私にはなぜか女性が寄ってきてしまう。


国王というだけではなく、きっと何かの力も働くのかなんなのか。


この銀眼のせいかもしれない。魅了後からでも働くのか何なのか。


でも私には全くなんの興味もなかった。ただ避けたかった。






それだけでは避けきれない。無視をしても冷たくしても素気無く扱ってもこりない。


令嬢たちはあらゆる意味でハンターのようだった。


だから私はいやいやながらも処世術を身につけた。






無視をせずに優しく受け入れる。ダンスも踊るしお茶も飲む。


手を取ることもあるし肩を抱くくらいだったらどうとでもできる。我慢すればいいだけだ。


ただそれ以上は許さない。それ以上に私に触れることは許さなかった。


私の身にあちらから触れることは許さず、私がとった距離に近づくことも許さず


笑顔で躱し、笑顔で拒否をした。






いつの間にか私は孤高の国王陛下と言われるようになっていた。






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