第11話

「許しておくれ、エルン。私はもう助からないよ。」


「嫌です。ルーゼ兄様、諦めないでください。自分は一人では無理です。私は・・・」


「エルン・・・私のたった一人の弟よ・・・。」


「嫌です。逝かないで・・・おいていかないでくださいルーゼ兄様・・・」






「ルーゼ兄様!!」




自分の声ではっとして、目を覚ます。


額に汗をかいている


ああ、いつもの夢だ。今日もまた兄を引き止めることができなかったから。




そして思い知るのだ。私はもうひとりなのだと。






私が物心つく頃には兄が私のそばにいてくれた。


私の父と母はドゥーゼットの国王と王妃だったが、どちらかというと平凡な両親だった。


愛情を受けたことはあまり覚えていない。


政略結婚だった両親は私を産んだ後に義理は果たしたとばかり疎遠になってしまっている。


父とは交流があったが、母とはほぼ会ったことが無い。


父は亡くなったが母はまだ生きている。だが会うことはない。


二度と。二度とだ。




アンヌの母が乳母として兄を育て、私を育てた。


アンヌの家は元々は王家に仕える影の一族として伯爵領を賜っているがほとんどが


王家につきっきりで領地運営などはしていないし領地自体を必要としていない。


そのためほぼアンヌの一族はこの王家に一番近いながらも影ということを知られてはならないため、


ほとんどが名前だけの伯爵家。


として護衛、乳母、乳兄妹として王家に入っている。




アンヌの姉のアンジェは兄、ルーゼハルトの恋人だった。


兄は国王として22歳のときより国を率いたが婚姻はしなかった。


たった一人だけを愛し、そしてアンジェ以外を望まなかったからだ。


婚姻を結ぶにはアンジェは伯爵令嬢であったとしても反対も多かった。影だということは


公にすることはならず、父も認めなかったからだ。


そして、もう一つ理由がある。




兄も片方の目が銀色だったのだ。


この銀の目は天を統べるものと言われる。


兄は私が生まれるまで片目だけだがこの兆候があったため、それを隠しながら皇太子として


過ごしてきた。


だがこの兆候があるものは疾患を抱える。


兄は体が弱かった。


10歳の時私が産まれたのだが、私は兄と同じように銀眼をもっていたが私は運悪くというか


何ということか両目に12歳の時に兆候が現れたのだ。


そしてそれ故、次の子は健康であってほしいという願いも虚しかったのか母は。


完全に私達から目を背けるようになり疎遠になっていった。




父は無くなる直前に私を皇太子にすべきだと考えたようだったが私は幼かったため、


その間を次ぐようにと兄が皇太子のままだった。


でも、兄はどんどん悪くなっていく体調を押して、私を護るようになった。


そして、悪意を持つものから、無関心な母から、都合よく私を扱おうとする父から。


私を護ろうと決めていたのだった。






兄は分かっていたのかもしれない。神託を受けるのは自分ではないと。


信託を受けなければ命を助けるものは現れない。


信託を受けたものには信託を受ける対のものがいる。


そのものが助けてくれることだけは知らされていた。


でもそれは相手が17歳にならないと神託として下らないのだ。




その相手が何歳なのかもわからない。


だから、私達銀目のものは待ち続けるのだ。そのものが現れるまでは命は尽きない。


それだけは確かだから苦しみながらでも待ち続けるしか無い。


ただ、片目だけが銀眼であったのはいまだかつて兄しかいなかった。


そのために神託のものが現れるのかわからない。






神は最初に決めたのだろうか。


どうして、何故兄には両眼の銀眼を与えなかったのだ。


どうして片目だけを与えたのだ・・・。




そしてアンジェももういない。


兄に沿うように、兄が息を引き取ると同時に命を絶った。


どれだけやめてくれと頼んでも、アンジェは迷うことなく兄の後を追った。


最後にルーゼ兄様の願いを聞き笑顔で見送り。そして迷わなかった。






「エルン様、あの方のお側に行きます。あの方のもう片方の目になりに行きます。


二人で見守っていますから。あなた様には神託の方が現れます。それまで。それまで耐えて


くださいませ。お許しください。」






くっと唇を噛み締めた時には。


奥歯に仕込んであっただろう薬が彼女の命を連れ去った。




兄の側で笑うアンジェを見ているのが幸せだった。


恋だったとは思わない。ただ、兄を幸せにしてくれる彼女が大好きだった。


ルーゼ兄様の一つ歳上の美しい人だった。


そしてその姉を見送ったアンヌは私の影になった。


兄の護衛を務め、兄の一番の理解者であったレオルドは、そのまま私の護衛についた。


兄を守れなかったからなのか私に対して大層に過保護な男だった。






影であるアンヌとレオルドは惹かれ合い、夫婦となった。


兄たちが婚姻が許されない分、代わりのように彼らが結ばれるのを兄達は喜んだ。


彼らの子供が産まれたのを殊の外喜んでアーノルドという名前まで与えた。


今その子は私の近衛騎士として正式に護衛として付いてくれている。


母が影だからと言っても父は護衛騎士なのだからそちらに習うべきだと私は伝えた。


その意志を持ち、レオルドは私の一番の側近の護衛騎士として。


アンヌはずっと変わらず影で有り続けてくれている。






何故このような夢を見たのだろうか。




理由はわかっている。








ナディアレーヌ・エミィ・オーウェン。


17歳の神託が下ったのはエルロッドウェイ皇国の第一皇女だった。


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