第25話 こけら落とし -1
それから日々は瞬く間のように過ぎていった。リアはアルたちがきりきり舞いで働いている場に行き、勲章のデザインの相談をした。アルもこれまでのことですぐに了承してくれ、そうして流石に積んできた経験が違う彼から出てくる具体的な助言も、発想にもリアは舌を巻いた。迷っていた部分、悩んでいた部分が瞬時に決まっていく。制作者として彼の名前を出すことも、自分は途中から加わっただけだとかなり渋られたが最終的に呑んでくれた。
彼が語った過去は、おおよそはレオとリアが予想をしていた通りだった。芸術界の政治に興味がなかったあまりに、その才能だけでは場を確保することができず、またそこまでしてとどまりたい場所でもなかった。何もかも嫌になって街を旅していたところ、今の現代劇の語りに会い、その能力からほとんどリーダーとなっている状況だった。
レオにもアルの案を伝え、自分の工場でできる細工とも兼ね合いを探しながらすべてが決定した頃、予定を巻き返して進んでいたアルたちの劇場は、予定よりも2か月の遅れをもってして完成と、劇場で行われる初めての語り(こけら落としというのだとレオに教えてもらった)の日を迎えていた。
高鳴るを通り越して痛い心臓を抑えながら、リアは馬車に乗る。乗った馬車がフェイトンのものであることを確認して腹は立ったが、それでもレオの公演を初めて観た日のこと、そしてあの高揚を思い出していた。
かくして迎えた劇場前は、華やかに賑わっていた。見渡せば豪奢な服を着ている人などはほとんどおらず、この街の人が中心なのだろうと思われた。人が集まっているのも無料で招待したからなのだと、出迎えたミネットが教えてくれた。首都なんかでは全く話題になっていない、と呟く。
せっかくだからと同じく招待してもらったエセルとフレードも、目を輝かせていた。彼女たちもそもそも語りを観ること自体も初めてである。街の人が簡単な飲み物の屋台を出していて、そのお祭りのような雰囲気も盛り上がらせた。
緊張していても、あっという間に本番はやってくる。三人横一列に並び、端の方ではあるがいい席を用意してもらったリアたちは、語りが始まればどんどんとその世界に夢中になっていった。
首都のヴィラージオの公演に比べれば質素だが、それでも光り輝く衣装。そして何より、物語の分かりやすさがあった。声の出し方もかなり現代の言葉に近づけられていて、コミカルな動きもありながら、迫力が劣りはするが美しい舞も続けられる。わかりやすい笑いどころでは、客席の子どもの笑い声も弾けた。
物語としては神話を絡めながらもより現代に近い時代の、古い遠方地方の争いを基に、悪役に攫われる恋人を助けに行く、勧善懲悪の物語だった。はらはらするような展開をおさえ、仲間を集めながら主人公が悪役の屋敷に進んでいく。
舞台の色が変わり、悪役が出てきたとき、演出通りに一瞬すべての音が止んだ。
そうしてその間は、観客が息を呑むひと時とも完璧に一致していた。
事態を呑み込み始めた観客のうちの一人の女性から、ひっ、と悲鳴のような声が飛んだ。そうしてそれはまごうことなく、悲鳴だった。ただし歓喜の。
「レオ・ヴィラージオ!?」
悲鳴は電波して黄色い声へと変わり、重ねてどよめきになった。何某か大人が騒いでいるということで、レオを知らない子どもたちも騒ぎ出す。レオはその存在感と美で、すでに場を掌握していた。まさか、なぜ、という驚きは、ものすごい早さで喜びと嬉しさに変わっていく。
流石のレオ・ヴィラージオは、万来の拍手が収まるその一瞬前の完璧な間で、語りの仕草へと入っていった。こちらの感情を高めていく手腕に、客席のリアも喉を鳴らすしかない。
レオの役どころは、主役級の良い役ではあったが、しっかりと悪役であった。現代劇と神話をからませた脚本に、圧倒的な強者として出てきて違和感がない。レオの美しさはその役の超人的な魅力を補佐しつつも、主人公にしっかりと敗北する姿は『客演』として完璧だった。
地方を回っていた時に人気のあった芝居を今回用に再編したというその語りは物語としても面白く、悲しい場面もありながら見事ハッピーエンドで幕を下ろした。拍手が鳴りやまず、何人かの観客は思わず立ち上がってその感情を発露させていた。首都の劇場では見ない光景だったが、リアはその姿がとてもいいものだと思った。
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