第28話 盗賊が襲ってきたんだが

 ――ラバノを出発し、かれこれ二日が経過。


 俺とエルヴィはすっかり人里から離れ、西の大森林へと入っていた。

 鬱蒼とした木々が生い茂るその場所は神秘的だが、地図や方位磁針がなければあっという間に迷子になるだろう。


 これは慎重に歩を進めよう――としていたのだが、


「エルヴィ、なんだか随分とスイスイ進むね……」


「はい、です! 森の中は、とっても楽しい、です!」


 そっかぁ、楽しいかぁ。

 見ているこっちは今にも迷子になるんじゃないかと、怖くて仕方ないけどなぁ。


 ウキウキで答える彼女を見て頭を抱えそうになる俺。

 だってエルヴィ、地図も方位磁針も見ずに進むんだもの。


 もう率先して迷子になりにいってるようにしか見えない――のだが、


「……合ってるんだよなぁ、彼女が進む方向」


 驚くべきことに、彼女の進行方向は間違いなく目的地の方角へと向かっていた。

 つまりエルヴィは、どこを見渡しても同じ景色にしか見えない大森林の中で自分の位置をしっかりと把握しているということだ。


「エルヴィって、なんで地図も見ずに進む方角がわかるんだ?」


森人エルフは幼い頃から森と共に育つ、です。ですから自然と方角の感覚が養われますし、ちょっとした風景の違いもわかるようになる、です」


「なるほど……森と共に生きる森人エルフだからこそ、そういう感覚が発達するのか」


「私たちは、森の声を聞く、と表現する、です。今も周りの草木や小鳥たちのさえずりが、進む方向を教えてくれている、です」


 うーん、それはとっても便利で羨ましい。


 おそらく森の中限定で発揮される能力なのだろうが、そもそも森の中って下手な迷宮ダンジョンより迷いやすいからな。


 彼女がいれば森の中で迷子知らず。

 これほど心強いことはない。

 俺はそんなことを思いながら、彼女の後についていくが――


「! ……エルヴィ、止まれ」


 ――気配を察知した。


 これは……モンスターじゃない。

 人だ。

 数は、五人か。


 そして立ち止まった俺たちを囲うように、盗賊らしき奴らが姿を見せる。


「へへへ……冒険者がたった二人で森を抜けようなんざ、不用心じゃねえか? えぇ?」


「なんだ、アンタら」


「見りゃわかんだろーが、盗賊様だよぉ。テメエらの身包み全部剥ぎ取らせてもらうぜ」


「安心しろって、そっちの森人エルフは生かしておいてやるからよ」


「知ってるかぁ? 森人エルフってのは奴隷にするとすげぇ高値が付くんだぜぇ? ヒヒヒ」


 盗賊共は武器を手に舌なめずりをする。


 やれやれ……少し痛い目を見させなきゃダメらしい。

 ま、エルヴィの弓の練習には丁度いいかもしれないな。


「エルヴィ、俺が三。キミが二だ。いいな?」


「はい、わかりました、です」


「なにをゴチャゴチャ言ってやがる! 死ねやオラァ!」


「〔支援職サポーター〕スキル――【罠生成トラップ・メーカー】」


 スキルを使う。

 その瞬間、盗賊三人の足元に出現するワイヤー。


 奴らがそれを引っ掛けると――一人は落とし穴に落ち、一人は竹鞭で吹っ飛ばされ、一人は落下してきた丸太に叩き潰された。


「ぎゃああああ!?」


「ん……な……!? なにが……!?」


「知らなかったのか? 森の中ってのはブービートラップの宝庫なんだぜ?」


 驚く盗賊共に教えてやる俺。

 さらにエルヴィも弓を引き、盗賊の一人の足を射抜いた。


「ぐああッ!」


「さあ、残るはあなただけ、です!」


「ク、クソッタレめ! やられてたまるよ!」


 形勢が不利になったと見るや、仲間を置いて逃げ出す最後の一人。

 そんな盗賊に向けてエルヴィは弓を構えるが――彼女がそれを放つことはなかった。


 何故なら――どこか別の場所から放たれた弓矢が、盗賊共の胸を貫いたからだ。


「が――あ――ッ!」


 絶命し、倒れる盗賊。


 俺とエルヴィは弓矢が放たれた方向を見ると、


「……下賤な盗賊め。我がを襲った罪を、死を以て償え」


「――! ヤ、ヤーコヴ叔父さん!」


 そこには、背の高い森人エルフの男性が立っていた。

 なんとなくだが、雰囲気がエルヴィと似ている。


「エルヴィ、森人エルフの里に戻ってきたんだな。また会えて嬉しいぞ」


「ヤーコヴ叔父さん、お久しぶりです!」


「えっと……エルヴィ、お知り合いの方……?」


「はい、です! あの人はヤーコヴ・ハネミエス叔父さん! 私に弓矢を教えてくれた人、です!」

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