第10話 そんなだから〇〇るんだぞ?
――ラバノの町。
山脈と草原に囲まれたのどかな場所で、辺境の小さな交易都市。
ゴブリンの洞穴から出発した俺とエルヴィは、幸い道中で大きな危険やトラブルに見舞われなかったことから、おおよその予定通り三日程度でこの町に到着することができていた。
「さて……なんとかラバノまで着いたけど、エルヴィはこれからどうする?」
「はい、冒険者ギルドに行く、です」
「冒険者ギルドへ?」
「私は、冒険者になるために森を出た、です」
へえ、そうだったのか。
しかし
少なくとも、俺はこれまで
「よし、じゃあ一緒に行くか。俺も冒険者ギルドに顔を出したいし」
『白金の刃』を追放されて持ち合わせに余裕があるワケでもないし、早めに仕事をして資金を得ておきたい。
ソロじゃあ大きな仕事は得られないかもだが、無一文になるよりマシだ。
いや、鑑定士に今のレベルやステータスを描いてもらえばあるいは……?
うーん、とりあえず冒険者ギルド行かなきゃわからないな。
そんなことを考えつつエルヴィと歩いていると、
「シュリオ様は、高名な冒険者様、なのですか?」
「ん? いや、俺自身は別に。なんで?」
「あんなに強いホブゴブリンを、一人で倒してしまうほどの腕前、有名な方に違いない、です! 私が冒険者になったら、ぜひパーティを組んでほしい、です!」
「う~ん、パーティかぁ……」
俺は言葉を返しあぐねる。
なにせ俺はゲイツたちから裏切られ、『白金の刃』を追放されたばかりだ。
正直、すぐに新しいパーティを組む気持ちにはなれない。
「実を言うと、俺は元居たパーティから追放されたばかりでさ。役立たず扱いされて、酷い裏切られ方をしたんだ。だから、しばらくソロでいたいな~、なんて……」
「シュ、シュリオ様を追放!? シュリオ様が役立たず!? ありえない、です!」
何故か、エルヴィは突然ぷんすかと怒り始める。
「シュリオ様は、
「そ、そうかな?」
「そう、です! 私が保証します、です!」
ハッキリと言い切るエルヴィ。
そこまで言ってくれると、こちらとしてもなんだか救われる気持ちになる。
「ありがとう、エルヴィ。パーティのことは考えておくよ。第一、キミが冒険者にならないと始まらないからね」
「う……それは、確かに、です」
しゅんとするエルヴィ。
そうこうしている内に、俺たちは冒険者ギルドの建物に辿り着く。
で、さっそく冒険者ギルドに入ったワケ……なんだが……。
「うぇっへっへ、なあいいだろドロテアちゃ~ん。今日こそ俺と一杯付き合えよ~」
「あ、あの、困りますガスさん、本当にやめてください……!」
冒険者ギルドの中では、受付嬢が坊主頭の冒険者に絡まれていた。
どうやらその冒険者は酔っぱらっているらしく、片手に酒瓶を持っている。
おまけに体格も大きく如何にも強そうな見た目であるため、小柄で可愛らしい受付嬢は強く出られないのだろう。
……まあ、正直どこの冒険者ギルドでもたまに目にする光景ではある。
周囲に人の姿はあるが、誰も止めに入ろうとしない。
不思議に思って俺は酔っ払い冒険者のレベルを見てみると、
「レベル……63か。なるほど、Aランク相当だな」
酔っ払い冒険者はそれなりの実力者らしく、高いレベルの持ち主だった。
そのせいで他の冒険者が絡めないのだろう。
それなら――
「エルヴィ、ちょっと外で待っててくれ」
「はい、です」
「――おい、お前」
「……んあぁ? なんだぁテメー?」
「その人が嫌がってるだろうが。酒が飲みたきゃ一人で飲んでろよ」
「…………あんだとぉ? 今、なんつった?」
酔っ払い冒険者は俺の方に身体を向ける。
その身長は俺よりずっとデカく、屈強な腕は俺の足より太い。
「どこのどいつだか知らねぇが、このガス様に喧嘩を売るたぁいい度胸だな! あぁ!?」
「いや、俺は人様に迷惑をかけるなって言ってるだけだが」
「ハッ、ヒーローでも気取ってるつもりかぁ? 如何にも弱っちい見た目のくせによぉ、舐めてっとぶっ飛ばすぞ!」
ドスドスと足音を立てて俺に近付き、無駄にデカい声で脅してくる酔っ払い冒険者。
たぶん威嚇すれば体格差で怖気づくとでも思ったんだろうが――それ以前に、俺はあることがどうしても気になった。
「あ~……ところでさ、アンタ……」
「おん?」
「臭い。だいぶ酒臭いし、っていうか普通に臭いし汚い。たまには風呂入れ。そんなだから頭がハゲるんだぞ?」
端的に言って、酔っ払い冒険者は不衛生だった。
職業柄仕方なくはあるのだが、冒険者の中には町にいても衛生管理を露骨に無視する奴がいる。
俺はどうかと思うんだよな、そういうの。
そんな俺の忠告を受けた酔っ払い冒険者は――
「ぶ……ぶ……ぶっ殺す――ッ!!!」
顔を茹蛸みたいに真っ赤にして襲い掛かってきた。
やれやれ……。
俺はポーチに手を突っ込み、細瓶に入った暖気薬を掴み取る。
すかさずそれの栓を抜いて、酔っ払い冒険者に浴びせかけた。
「う――お――!? 目、目があっ!?」
この暖気薬は俺のお手製で、飲めば寒い場所でも冷えた身体を温める作用がある。
だが材料に唐辛子を使っているため、それが万が一目に入れば激痛を引き起こすのだ。
こういう知識――というか使い方も、〔
「〔
次に俺は自分にバフをかけ、酔っ払い冒険者の背後へ回り込む。
そして片足を振り上げ、
「この辺かなっと――せいっ」
酔っ払い冒険者のお尻を、そこそこの力で蹴り上げる。
すると――ズバァーン!という迫力のある音と共に、彼は冒険者ギルドの出入り口から外へと吹っ飛んでいった。
「ぎゃあああああああああああああああああッ!!!」
悲鳴と共に視界から消える酔っ払い冒険者。
軽く蹴ったつもりが、凄い威力だった。
「……うわあ」
たぶんめっちゃ痛かったと思う。
なんならお尻が割れちゃったかも……いや、初めからお尻は割れてるか……。
これがレベル313の蹴りとは、恐ろしい……。
『報告。敵に攻撃がヒット。【
ついでに報告してくれる天の声。
お尻を蹴り飛ばされた上に経験値まで奪われるとか、もう踏んだり蹴ったりだな。
なんならちょっと可哀想とすら思う。
「あ~……やりすぎた、かな?」
「あ、あの、ありがとうございます、助けて頂いて……!」
絡まれていた可愛らしい受付嬢は、すぐ俺の傍へと駆け寄ってきた。
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