第8話 こいつら本当にSランクか?

 ゲイツたちが《暗黒洞窟》に入ってしばらく、


「……なあ、ここさっきも通った道じゃねぇか?」


 『白金の刃』の面々は、道に迷っていた。

 〈暗黒洞窟〉の内部は極めて入り組んでおり、迷いやすい構造となっている。

 オマケに暗く見通しも悪い。


 最悪、来た道がわからなくなって戻れなくなるだろう。

 そんなのは少し歩けばわかるのだが、ゲイツたちは気にも留めていない。

 

「おいエーヴィン、俺たちどの方向へ進めばいいんだよ」


「はあ? そんなの僕がわかるワケないじゃん」


「あ? お前は〔狙撃職スナイパー〕だろうが! なんかこう、偵察のスキルとか持ってないのかよ!」


「そんなの持ってないよ! チェルース、キミこそどうなのさ! 魔力で探知とかできないの!?」


「な、なんでアタシに言うのよ! アタシはあくまで〔回復職ヒーラー〕よ!? ボルド、アンタこそどうなワケ!?」


「バ、バカを言うな! 〔防衛職ディフェンダー〕に道案内などできるはずないだろう!」


 ――さっそく責任の押し付け合いが始まった。


 それを見ていたヘルミナは最悪の気分だった。

 子供の喧嘩を眺めていた方がまだマシだと思えるほどに。

 もし三日も自分に時間をくれたなら、こんな無様な状態にならずに済んだだろうに。

 そう心の中でため息を漏らす。


「……貴様ら、これまでどうやってダンジョンを歩いてきた? 斥候や道案内を担ってきたのは誰だ?」


「そ……そりゃあ、シュリオの奴だよ。アイツは〔支援職サポーター〕なんだから、当然の役割だろ」


「そうか。ではダンジョンに挑むための前準備を担当してきたのは?」


「……シュリオだね」


「ダンジョンで獲得したアイテムなどを運搬する役割を担うのは?」


「……シュリオだわ」


「ダンジョンにどんなモンスターが出るのかを知っている者は?」


「……シュリオだろう」


 そこまでの返答を聞いて、ヘルミナはガンッ!と杖で地面を突く。

 彼女はキレそうだった。


「では何故、彼の帰還を待たずして〈暗黒洞窟〉を攻略しようとするのだ? 貴様ら〔支援職サポーター〕がパーティにとって如何に重要か理解してないだろう。大方、戦闘で活躍できる者こそ偉いとでも思っているのではないか?」


「「「……」」」


「マヌケ共め。その驕った結果がこのザマなのだ。貴様らのような無能がSランクパーティだと? 恥を知れ、このバカが」


 ヘルミナの放つ威圧感に、ボルド、エーヴィン、チェルースの三人は萎縮する。

 同時に、ヘルミナはこのパーティにおいてシュリオが冷遇されていることを確信した。

 彼のお陰でこのバカ者共はここまでやってこられたのだ――ということも。


 ダンジョンの道もマトモに歩けない奴らがSランク?

 ふざけるな。

 真のSランク冒険者はシュリオ・グレンただ一人。


 彼が戻ってきた暁には、必ず彼をこのパーティから連れていこう。

 こんなクソ共と一緒にいさせてはダメだ――。


「あ~、うるせえうるせえ! ダンジョンさえ攻略できりゃ文句ないだろ!」


 萎縮する三人とは異なり、ゲイツは不快そうに答える。

 少なくとも、彼には反省の様子はないようだった。


「仕方ねぇだろ、アイツは別行動中なんだからよ! 今更ぐだぐだ言ってても始まらねぇだろうが!」


「貴様……」


「おっと、そんな怖い目で見んなよぉ。あんま生意気なこと言ってっと、大事なシュリオくんに会えなくなっちまうかもな?」


「……」


「そうそう、アンタは黙って協力してくれりゃいいだよ。そうすりゃ――」


 ゲイツが言いかけた――その矢先、


「――ッ! 危ない、後ろだ!」


 ヘルミナが叫ぶ。


「へ?」


 背後に振り向くゲイツ。

 そして彼が見た物は――巨大な棍棒を振りかざすミノタウロスの姿だった。


『ブモオオオオオオオオオオオ!』


 直後――ゲイツの身体は弾き飛ばされた。

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