第7話 『白金の刃』終わりの始まり

「よっしゃあ! そんじゃあ世界最強のSランクパーティ『白金の刃』、前人未到の最凶ダンジョンへ、いざしゅっぱぁーつ! ギャハハハ!」


 ゲイツは威勢よく前方へ剣を向けると、ズカズカと勇み足でダンジョンへと入って行く。


 ――SSランクダンジョン〈暗黒洞窟〉。

 そこは最初に発見されてから今に至るまで、誰一人としてその最深部に到達した者はいない超高難易度ダンジョンである。


 これまで名だたるSランクパーティがここの攻略を目指して挑んだが、その全てが失敗に終わっている通称〝Sランクパーティ喰いの洞窟〟。

 故にSランクよりも上のSSランク。

 通常最高難易度よりもさらに一つ上の〝例外〟が付けられているのだ。


 何故ゲイツたち『白金の刃』がそんな場所にいるのか?

 事の発端は、ゲイツが冒険者ギルドで高らかにぶち上げたこの宣言から始まった。



「おうよく聞けや、Sランク以下の雑魚冒険者共! このSランクパーティ『白金の刃』は、明日〈暗黒洞窟〉を攻略しに行く! 俺たちがあそこの最初の踏破者となるんだ! 雑魚共は俺たちが栄光を掴むのを、指をくわえて見てな!」



 できるだけ多くの冒険者たちがいる中で、唐突にゲイツはそう言い放ったのだ。

 それを聞いた冒険者たちは、瞬く間に噂を広める。


「『白金の刃』が、あの〝Sランクパーティ喰いの洞窟〟に……!?」


「い、幾らなんでも無理じゃないのか……?」


「いや、アイツらを最強のSランクパーティって呼ぶ奴もいるし、もしかしたら……」


 噂は期待へと変わり、それは羨望となった。

 『白金の刃』が〈暗黒洞窟〉へ向かうために町を出る頃には、大勢の冒険者や町人が彼らを祝福するために駆け付け、一種のお祭り状態にまで発展。

 彼らは攻略成功を望まれたヒーローとなり――今ここに至る。


「ハアァ……注目されるっていい気分よね。この攻略が成功すれば、ぜひスポンサーになりたいってアイテムブランドが幾つも名乗り出たの。アタシってばもう有名人だわ」


「ああ、とてもいい気分だ。町を出る時など、結婚してほしいと名乗り出る娘たちに何度も抱き着かれてしまった。帰ればいい女が抱き放題だろう……ヌフフ……」


「金だ。金が手に入る。これで僕はなんでも買えるようになるぞ。僕は億万長者だ……クククク……!」


 ゲイツに続いて《暗黒洞窟》へ入って行くチェルース、ボルド、エーヴィンの三人。

 彼らは欲望に胸膨らませ、恍惚とした表情をしている。


 だが――


「……やめるべきだ」


 そんな勇み足なゲイツたちを止める声。

 そう、『白金の刃』の新メンバーとなった大賢者ヘルミナである。


「あん? なんだよヘルミナ」


「ダンジョン攻略をやめるべきだと言っている。でなければ日を改めるべきだ」


「おいおい、まさか怖気づいたのか? 大賢者ヘルミナ様ともあろう者がよ」


「貴様ら、自分のやろうとしていることの愚かさを理解しているのか? なんの事前準備も情報収集もなくこんな暴挙に出るなど……とてもSランクパーティの所業とは思えん」


 ヘルミナは完全に彼らの神経を疑い始めていた。

 通常、高難易度ダンジョンに潜る者ならば相応の準備をする。

 道具アイテムの準備、武器防具の準備、ダンジョンはどんな地形で、なにが必要で、どんなモンスターが出るのかという情報の準備。

 それらは入念に行えば行うほど成果が上がり、逆に怠った者は必ず報いが待っている。


 実はこれまで『白金の刃』でその準備を一身に背負っていた者がいたのだが……その人物はもういない。

 そんな事実をヘルミナは知らずとも、その弊害を如実に感じ取っていた。


 ヘルミナは最高難易度ダンジョン、つまりSランクダンジョンへの自由な出入りが認められている世界有数の〔魔術職マジシャン〕である。

 それは勿論、彼女が相当に高いレベルの実力者だからだが――実のところ出入り自由が認められたのは真の理由は、魔術の技量が高いからではない。


 彼女がどんなダンジョンへ潜る際にも〝しっかりとした準備を行い、必ず成果を持って生還してくる〟という慎重さ、安定感が認められたからなのだ。


 故に、その準備もせずに「明日SSランクダンジョンに潜るぜ!」などというのは言語道断、論外中の論外。

 なのだがそんな計画的な前提、そして自分たちのパーティに致命的な〝穴〟ができていることなどゲイツが知る由もない。


「おいおい、俺たちは失敗知らずの『白金の刃』だぜ? 俺たち全員のレベルの高さは、アンタにも説明しただろうが」


「高難易度ダンジョンがレベルだけで突破できるはずがない。何故Sランクパーティなのにそんなこともわからんのだ? 一体、これまでどうやってダンジョンを攻略してきた?」


「決まってんだろ? 実力だよ、じ・つ・りょ・く!」

 

 ギャハハ!と笑うゲイツ。

 ヘルミナの疑心は、段々と苛立ちへと変わる。


 ――このまま、こいつらと一緒にいていいものか?

 しかし、こいつらはの情報を――


「頼むぜ、ヘルミナさんよぉ。今回の《暗黒洞窟》攻略は、アンタがパーティに加わってくれたから踏み切ったんだ。今更抜けるなんて言うなよ? 会いたいんだろ、シュリオ・・・・にさぁ」


「――っ!」


 ヘルミナは、とある人物をずっと探していた。

 しかしどうしても見つけることができず、ようやく得た手掛かりがゲイツだったのだ。


 ゲイツは「アイツはギルドの依頼で別行動を取ることになった。一仕事付き合ってくれたらちゃんと合わせてやるから安心しろ」と言って詳細を話そうとせず、疑わしくはあったが、彼の人物像について知っているのは間違いなかった。

 『白金の刃』がSランクパーティというのも彼のスキルと関係ありそうで、説得力があったのだ。


 仕方なく交換条件として一仕事付き合うことになったのだが――その一仕事というのが今回なのである。

 ハッキリ言ってヘルミナは後悔していたが、ぐっと感情を押し殺す。

 それだけ彼女はに会いたかった。


「……約束は守ってもらうぞ」


「そうそう、それでいいんだよ。ギャハハハ!」


 ヘルミナは渋々ゲイツについていく。

 こうして、『白金の刃』の《暗黒洞窟》攻略が始まった。



 この後――『白金の刃』、特にゲイツは、すぐに報い・・を受けることとなる。



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【あとがき】

ラブコメで連載していた作品が(何気に初めて)完結したので、よろしければ息抜きにお読みください。


『転生したら女騎士団長のおっぱいを支える係になった件について。』

↓↓↓

https://kakuyomu.jp/works/16817330648050147033

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