第22話 暴力の最果て
エルディスがその身を挺して築き上げた、文字通り”生ける屍の山”の上を、勇者は進む。
ぐしゃ、ぐしゃ、と音を立てながら、粉々になっていくアンデッドたちは、もはや再生どころの話では無い。
時間が経てば、離れた場所からアンデッドたちがまた押し寄せてくる。
せっかくエルディスが作ったこのチャンス、無駄にするわけにはいかぬと。
”生ける屍の山”の先には、土や樹木で出来たゴーレムが立ちはだかる。
体長5メートル、体重1トンもの化け物を何体も使役できるなど、なるほど不死王、魔王すら凌ぐと言われるだけある。
勇者とて、そんな質量の塊みたいな化け物など、そう何体も相手にするわけには行かない。
複雑な動きはしないとはいえ、巨人すら凌ぐ体重の相手を、時間もかけずに壊すなど不可能だ。
—— 今までの勇者であれば。
黒い防具を身に纏った勇者は、射程距離にゴーレムが入るや否や、跳躍。
竜の顔面すら殴り飛ばした勇者である、たかが5メートルなど容易く届く。
しかし、相手は骨格もなければ内臓もない、無機物。
ただ殴っただけでは、多少壊れはするものの、ノーダメージと見て良いだろう。
そんなことは百も承知。
それでも勇者は殴る。
爆発。
いや、爆発ではないのだが、まるで火薬爆弾を思わせるほどの衝撃。
その様子、まるでビルなどの取り壊しに使われるダイナマイトの映像に似ている。
もちろん、本来の勇者が持つ体重で、そんな威力が出せるはずもない。
だが今、現在、勇者が纏う防具も含めた総重量—— 6,000キロオーバーである。
超重量物質『暗黒鉱石』
かつて、勇者が手に入れた唯一のダンジョン成果物。
1立方センチメートルあたり約500グラム、バスケットボールサイズで400キログラムという、他ではあり得ない質量密度。
その一部、およそ5,500キログラムが、その防具に取り付けられている。
ゴルスチの重量挙げ記録、世界記録が250キロなのに対し、なんと1,000キロ。
重量挙げは本人の体重に大きく依存するため、ゴルスチが最も得意とする競技でもある。
だが、されど、ならば5,500キロの防具など、持ち上げられるわけがない。
なおかつこの運動量である。
過去の勇者であれば、間違いなく扱いこなせなかったであろう重量だった。
それを可能にしたのが、この世界に来てから勇者が得た”レベルという概念”。
いやむしろ、これまで勇者が”レベル1の状態で戦っていた”という事実が、一般的に見れば信じられないだろう。
エルディス、カティオ、プラビアのみが把握していた、公にできない事実だった。
そしてここに来て、勇者は上がったレベルの分、ステータスを振ったのだ。
勇者の現在レベル、鑑定士によれば56。
この世界に来て1ヶ月余りだというのに、驚異的成長スピードである。
それは元の戦闘能力が高いが故に成し得た、過去の勇者では実現できないチート。
そうして得たレベルを、全て勇者ゴルスチは”力”に振り切った。
俊敏? 力で解決できる。
技? 既に最高峰である。
硬さ? 防具で解決できる。
精神力? これも既に至高の域である。
魔力? 中途半端な魔力など不要である。
力のステータスは、本人が元から持っている筋肉量に依存する。
その計算は、概算ではあるが乗算で示すことができる。
レベル50時点で力に全て振り切った場合、得られる膂力を重量挙げで示すと、およそ7倍。
体重70キロで70キロの重量を上げられる、そこそこ筋肉量のある成人男性で考えると、500キロ近くの重量が挙げられる計算だ。
それがゴルスチになれば、当然さらに規格外。
もとが1,000キロ挙げる男である、ステータスを振った現在、重量挙げなら7,000キロになる。
だが、どれだけ力が強くなっても、限界はある。
それが”体重”という壁だった。
力が強くなったところで、”行動を行使する力”が増えただけであって、既に剛体術を会得しているゴルスチにとっては、戦闘に大きな影響は出なかっただろう。
だからこそ、防具で重量を増やした。
防具含めた総重量6,000キロという数字は、ゴルスチが身に纏って、さらに元の運動量を担保できる最大の重量だったのだ。
結果、現在、勇者は6トンもの質量による拳撃をゴーレムに浴びせることで、岩すら粉々に砕くほどの文字通り”爆発的な”威力を叩き出したのである。
「……は、ははは」
—— 一撃。
あの巨大なゴーレムを粉々に砕くのに、一撃。
エルディスは笑ってしまう。
自分では永遠に到達できない—— むしろ自分が知っている生物では、到達できない域に、勇者は居た。
この勝負、勝てる。
エルディスがそう思った瞬間、舞台は動いた。
全てのアンデッド、ゴーレムが一斉に崩れ、動かなくなる。
良い兆候か?
いや、そんなわけがない。
相手はあの不死王なのだから。
そしてエルディスは、信じられないもの—— 信じたくないものを目にする。
戦場の果てから現れる、八つの影。
彼の幻想でなければ、彼の記憶が朦朧としていなければ、あれは——
「過去の……魔王たち……!?」
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