極・史上最強の異世界召喚 〜人類の最高傑作、異世界でも無双する〜

不思議たぬき

第1話 人類の最高傑作

 



 —— 某国、軍事機密基地最下層。





『Emergency call —— 』





『Emergency call —— 』





『Emergency call —— コードネーム〈M Peace〉が消息を断ちました』






 —— ルクス王国、祭壇の間。




 聖域歴865年。ルクス王国は過去最大の危機を迎えていた。


 およそ80年から100年の周期で訪れる魔王の復活は、記録されている限り今回で10回目を迎える。



 祭壇の間は人払いがなされ、居るのは現国王である『ルクス十世』、前国王である『ルクス九世』、そして”転生の魔術師”である『レインカーン』、騎士団元帥の『エレディス』だけであった。


 魔王復活の兆候が示されてから過去9回、ルクス王家は何度もこの危機を乗り越えてきた。

 振り返っても、簡単な戦いなど一度たりとも無かったが、それでも全て勝利してきたからこそ、十代目まで紡がれてきたのだ。


 だが、今回ばかりは誰もが危機感と諦念を募らせていた。



「……『祖の魔王』と戦える者など居るのでしょうか」


「だからこそ我々は勇者を頼るのではないか」


「しかし、今まで『子の魔王』とすら互角の戦いだったと言うのに—— 」


「ならば代案でもあるか? エン・ルクス現国王」



 前国王の覇気に現国王は言葉を失う。

 代案が無いから問題なのだ。


 確かに、過去の勇者たちは優秀だ。ある者は全ての剣技を究極まで極め、ある者は山すらも焼き尽くす業火を操った。

 相手が『子の魔王』であれば、勝機はある。今まで人類が結束し、彼らを補助することで繋いできたのだ。


 だが、『祖の魔王』は明らかに違う。伝承通りで在れば、これまでの『子の魔王』全ての能力を有し、あらゆる魔物や魔族の力を限界まで引き出すと言う。

 そんな絶望を具現化した様な魔王を封印した『古の勇者』はもういない。



 重い空気の流れる祭壇の間。王家の二人の会話に、否定も同調もせず、レインカーンとエレディスは固唾を飲む。



「始めてくれ、レインカーン」


「は、仰せのままに」



 黒いフードのついた外套を深々とかぶる”転生の魔術師”レインカーンは、あらかじめ準備していた魔法陣に手を触れ、丁寧に魔力を流し込んだ。




 希望の印。


 救心の印。


 原理の印。


 そして親愛の印。




 王家の起源にまつわる、最古の召喚術。

 あらゆる貴重な魔法具、血と汗の結晶である魔鉱石、さらに王家水晶に留められた96年もの魔力を使い、現界と異界を重ねてたった一人の人間を呼び出すための陣。



 魔法陣が淡く光り輝く。

 その光の一粒一粒が散らばり、収束し、人の形を象る。



 ここでレインカーンは違和感を覚える。


 彼は転生術、召喚術を継承する世界一の魔術師であり、その究極系である『勇者召喚術』こそ初めてであるものの、他のあらゆる術式は一通り経験してきた。


 転生術を含め、彼が操るあらゆる術式は『勇者召喚術』を基礎としたもの。

 だからこそ分かる、この挙動はおかしい。



 放つ光が召喚対象を象るのは既知。しかし、この光量はレインカーンが見てきた中であまりにも多い。


 転送術式で王家の貴重品を転送したこともあった。覚えている限り、木箱三つほど。合算して300キロはあろう代物だった。

 それでもこんなには光っていなかった。人の召喚となれば、その三分の一以下であるはず。



 レインカーンの脳裏に失敗の二文字が浮かぶ。


 焦り?

 落胆?


 そんなものでは表せない。彼が、王家が、国がこの召喚に掛けているのだ。

 今回失敗すれば、次に召喚できるのはおよそ80年後—— つまり、人類の滅亡を示していた。



 術式の発動から終了まで、秒数にして二、三秒。その間に、レインカーンは過去の人生およそ50年が短く思えるほど、永い長い走馬灯に支配されていた。






「これは……」



 最初に口を開いたのは、ルナ・ルクス前国王だった。




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