第9話 妹との出会い?

「帰ろうか」

「そだね」


 綾女の今日の服装は淡いピンクのワンピースだ。かなりスカート丈が短かく太ももが眩しかった。


 今週は、木曜日までモールで待ち合わせて一緒に帰った。二回生ということもあり、平日は朝から晩まで講義だ。綾女は月曜から木曜までは授業をギリギリまで入れ、金土日を休みにしていた。今日は木曜日。明日は休みのはずだ。俺はさりげなく綾女に聞いた。


「明日、用事あるの?」

「うーん、仕事かな」


 仕事と聞いて心臓がつか まれるような痛烈な痛みが走った。喉が渇きを覚える。呼吸が苦しい。今まで綾女の映像を見ないようにしてきた。知らない男とつな がる綾女を見たら、嫉妬でどうにかなりそうだった。


「そうだよな。仕事だよね」

「大丈夫? 雄一くん、凄い汗だよ。顔色も悪いし」

 

 仕事の内容を想像したから、なんて言えるはずもない。以前なら平気だった。会ったこともない男と抱きあっても嫉妬することもなかった。


 好きでもない男に抱かれて綾女は平気なのか。感じたりするのだろうか。他のAVで見た光景に綾女の姿を重ねてしまう。演技なのかは分からないが、俺の目には興奮してるように見えた。もっともっとと言っていた。


 その光景が今は苦しい。綾女もあんな風に乱れるのだろうか。綾女を好きになればなるほど辛くなっていく。俺はこれに耐えなくてはいけないのか。


「休憩して行こうか」


 不安そうな表情を浮かべて、モールの長椅子に座った。些細ささい なことでも気づく綾女のことだ。何故苦しくなっているのか分かっているはずだ。


「ねえ、横になった方がいいよ。ひざ なら貸すよ」


 綾女は俺に膝を向けた。目の前にあるのは膝というより太ももだ。俺は慌てて立ち上がる。生足で膝枕。さすがにそんなお願いはできない。


「大丈夫、随分楽になったから……」


 俺は意識を強く持って歩き出した。家に着くまでなんとか意識はもちそうだ。


「ねえ、本当に辛そうだよ。大丈夫?」


 電車に乗って、家に帰る道すがら何度も聞かれた。いつもならすぐに良くなるはずなんだけれど……。足がふらふらして、視点が定まらない。


「ね、もうすぐ家だからね。肩かしてあげようか」

「ごめん、体調が本当に悪いみたい」

 さっきから寒気がしてきた。寒くもないのにひどい悪寒おかん がする。熱がありそうだった。


「今日お母さんはいるのかな」

「母親は元からいないから、妹もまだ帰宅してないと思う」

「そっか、お母さんいないんだね」


 綾女は寂しそうな表情で、小さく呟いた。時計を見ると、午後六時だった。愛が帰ってくるまで二時間くらいだ。それまで寝ていれば大丈夫だろう。


「ありがとう、ここでいいから」

「鍵貸して、わたしも手伝うよ」

「大丈夫だよ、寝ていれば妹の愛もそのうち帰ってくるし」

「だめ、病人なんだから、連れて行ってあげる。妹さん帰るまでは、わたしがいてあげるから」


 手を胸に当てて俺に視線を向けた。

 夢のような申し出だった。元気な時なら飛び上がるくらい喜んだだろうが、今はとりあえず寝たかった。


 綾女に肩を借りて、二階の寝室に入った。確かグラビア雑誌をベッドに置いたままだった。この期に及んで見られたくないと思ってしまう。悲しい男の さがだ。


「なんかちょっと、元気になったみたい……ここまででいいから」


 部屋に入る直前に綾女に言った。そんな言い訳が通用するわけもなく、ドアを開けられ、きわどいページで開いたままになってた水着写真集を見られた。綾女は少し笑みをうかべ、すぐ何食わぬ顔で片付けた。


「どうぞ、寝て。余計なものがあると寝れないでしょ」


 俺を寝かせて隣の椅子に座った。綾女はグラビア写真集を見て、軽蔑けいべつ してないか不安になった。チラッと視線を合わせた。あまり意識してないのか、他のことを気にしてるようだった。


「体温計どこにあるかな」

「多分、居間かな」

「分かった、探してくるから寝ておいてね」


 綾女はそれだけ言うと、階段をトントンと降りていった。ゆったりとした時間が流れる。


 一階で水が沸騰する音がした。気になったが、綾女が心配してくれたのが嬉しかったので、他はどうでもいいと思えた。2階に上がって来た綾女の手には、お盆に乗せられた体温計とたまごがゆがあった。ネギが細かく刻んで載せられてた。


「勝手にキッチン使わせてもらったけど。後で妹さんに謝るから」

「俺のために作ってくれて、ありがとう。妹が怒るわけないよ」

「それでも、あれだけキッチン片付けてあるんだもの。言っておかないとね」


 俺は体温計を脇に挟んだ。綾女の指がおでこに載せられる。綾女の手が冷たく感じた。身体中に電気が走ったように感じる。綾女の方を見ると心配そうな表情をしてた。


「あつっ。かなり熱あるよ。このまま寝ておいて」

「ありがとう。後で食べるな」

「熱いうちに食べないと美味しくないよ。食べさせてあげるからね」


 さすがに綾女に食べさせてもらうなんて、悪すぎる。俺は綾女に告白して振られた男だ。優しくしてもらえる道理もなかった。


「いや、悪いし」

「病人は余計なこと考えないで、寝ていればいいの。気にしなくていいよ」


 体温計は、三十九度を指していた。そりゃ悪寒もするはずだ。俺はその申し出を断れるわけもなく……。


「はい、あーん」 


 こんな幸せなことしていいのだろうか。下腹部が綾女を求めて大きくなるのを感じた。布団があって、本当に良かった。


「食欲がなくても、きちんと食べた方がいいよ。はい、あーん」


 お粥を口に入れてくれる。こんなことされたの、何年ぶりだろうか。幼馴染とはそんな経験はなかった。昔ぶっ倒れた時に妹の愛が何度かしてくれた気がした。あの時もこんな風に心配そうにしていたな。懐かしい光景がよみがえ った。


「おいしい?」

「美味しいですけど」

「けど、どうしたの?」


 無茶苦茶、恥ずかしかった。そして幸せだった。けれども、また想像してしまった。明日は知らない男に抱かれるのだ。考えるとまた病気が酷くなりそうだった。


「ちょっと待っててね」


 綾女は、部屋を出ていった。一階に降りてから少し時間があった。帰ってしまったのかな。明日は仕事があるから仕方がないよな。考えていると、階段を上る足音が聞こえた。


「お待たせ!」


 冷やしたタオルを頭に載せてくれる。この冷たさが心地よい。綾女はお粥を食べさせながら、独り言のように呟いた。


「明日の仕事キャンセルした。友達が熱出して看病しないといけないかも、と言ったら、明日は打ち合わせだけだしやっとくよ、って言われた。だから、安心して、……それと、今週来週は撮影ないから」


 やはり、俺の心は読まれていた。熱が出たのは、綾女の仕事を想像したことが原因ではないと思う。それでも体調が一気に悪くなったことと、全く無関係とは思わなかった。


「ごめんな」

「だから言ったでしょう。耐えられないって」


 綾女は、一言小さく呟いた。俺に言ったのかと思ったが声がやけに小さかった。他人に聞かせるつもりで言ったのではないような気がした。今週は撮影はないと言ってくれたことで、少しだけ気が楽になった。食欲が満たされると眠気が襲ってきた。


「ただいまー」


 一階で愛の声が聞こえた。不思議そうな声が続く。綾女の靴を見たのだろうか。


「あれ? お客さん」


 二階に上がってくる足音が聞こえた。

 愛、帰ったんだ。俺は眠ってしまって大丈夫なのだろうか。俺が寝ていて、その傍らには綾女がいてくれている。愛はそれを見てどう思うのだろうか。そこで俺の記憶は途切れた。


―――――


綾女ちゃんに看病される雄一くんでした。

それにしても、この悩みは簡単には無くなりそうには無いかもね。


フォローが一気に伸びてきています。

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