第一話 いつもの日常

「行ってきます」

 無機質だが元気な声が玄関に響き渡る

「行ってらっしゃい。気をつけて行くのよ?最近何かと物騒だから。」

 優しそうな母が玄関に出てくる。

「わかってるよ、まだこの楽しい毎日を生きていたいもん!」

 嘘だなんにも楽しくない、いっその事殺された方がマシだ、と司は思った。

 しかし、そんな事は微塵も顔にも口にも出さない。

「じゃあ行ってきます!」

 心とは裏腹に弾ける笑顔で家を出た。

 振り返ると母は満足そうな顔をしていた。

 しばらく歩いた後司は小さな声で

「あぁ、やっぱり人って簡単だな。」

 といった。

 冬の空に広がる重い雲の下司は学校に向かうのだった。


「よっ!司!」

 元気な声が司の横から聞こえてくる。

「おっ、健斗!おはよう!」

 藤原健斗クラスの元気印的な存在。騒がしい教室でも何処に居るのかすぐに分かる。

 正直コイツと話すのが一番疲れる。

「今日が二学期最後だぜ!冬休み楽しみすぎるだろ!司はどっかに行く予定あんのか?」

 健斗が机に身を乗り出しながら聞いてきた

 そういえば今日は終業式か

「あぁ、明後日から親の実家の奈良に行くよ。」

「明後日⁈部活入ってない奴はいいよなぁ、こちとら30日まで練習だよ!」

「まぁでもサッカー部は強いんだし頑張れよ。」

 健斗はパッと顔を輝かせた

「ありがと!あ、先生きたじゃお土産楽しみにしてるぜ!」


 放課後一人で帰ろうとすると後ろから声をかけられた。

「司くん!一緒に帰ろ!」

 顔を見なくても分かる、西川恋、中学から同じ学校だが正直そこまで仲良かった記憶は無い。それなりに可愛いので男には困らないだろうになぜ俺なんだ?

 不思議な奴だ

「司くんっていつも家で何してるの?頭いいし、、、勉強?」

「まぁ、勉強してるか寝てるかどっちかだな」

 高二にもなってその生活は我ながら恥ずかしい

「え〜つまんない。もっと遊ぼうよ〜趣味が無いとかつまんない〜」

 何も言えない、悔しい

「じゃあさ!今度私と遊んでよ!」

「やだ」

 しまった。つい反射的に言ってしまった。これはまずい。

「あっそ、じゃあいいよ。バイバイ」

 恋は足早に去ってしまった

 失敗した。嫌われてしまっただろうか。とは言え遊びに行くのも面倒だな

 困ったものだな。だから余計な付き合いはしたくないんだ。


 夕食の後母が尋ねてきた

「司?今年は従兄弟の大和くん来れなくなっちゃたけどいいわよね?」

 大和というのは10歳の実家に戻るといつも絡んでやってるやつだ。

 正直大和が居ないと暇でしょうがないのだが、こういう時に相手が求めてる返事はこれだけだ

「うん、別にいいよ!その辺を散歩してたりするよ。」

 すると母は、嬉しそうに

「ありがとう!お父さんも大丈夫よね?」

 母は父にも同意を求めた

「ああ、別にいいぞ」

 母はまた満足した表情をした

 全く、人はどれだけ自分の味方を増やしたいんだほんとにくだらない。

 司は残った温かい緑茶をすべて飲み干した。




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