掌編エッセイ・『ロボットに代わってほしい家事』

夢美瑠瑠

掌編エッセイ・『ロボットに代わってほしい家事』

(これは、9月23日の「家事休みの日」の、「ロボットに代わってほしい家事は?」というブログネタに基づいて、アメブロに投稿したものです)


掌編エッセイ・『ロボットに代わってほしい家事』



 RAハインラインというSF作家の「夏への扉」という小説は、若いころに読んだ懐かしい思い出深い特別な書物である。

 ハヤカワSF文庫という空色のカバーのシリーズがあって、若いころにはSFファンだったので、折に触れては色々な作家、主として海外の有名どころのものを読み漁ったものだ。

 日本にはSF御三家というのがあって、今ではもうオールドネームになっているような日本SF黎明期、草創期の巨匠とかいて、「日本沈没」とかがブームになったころから愛読者になり、その辺からだんだん派生していったのですが、その米SF黄金期の名作のコレクションのハヤカワ文庫の中での嚆矢となるのがこの「夏への扉」と、こうなると思う。

 

 この小説の主人公は優秀なエンジニアで、非常に技術力はあるのだが、ちょっと子供っぽいような世間知らずなところがあって、共同経営している会社の、仲間に裏切られて、婚約者と経営権の両方をだまし取られる。内輪揉めの三人でいろいろ折衝をしているうちに、また主人公はその裏切った仲間に睡眠薬を嗅がされて昏倒する…

 で、その後に冷凍睡眠やら、超美少女の姪やらが絡んで、いろいろ面白い筋書きが展開するのですが、この主人公が、アメショーの猫を飼っている。表紙の絵も、この猫が扉の外を見ている、その後姿の絵である。これは題名の由来から来ていて、ピートというその老猫は、冬になると、家の中にたくさんある扉のうちの一つが「夏に通じている」という「固い信念」を持っていて、いちいち扉を開けて見せて「僕」にそれを教えろとせがむ、という小説の冒頭のエピソードから来ている。

 これは伏線で、友人に裏切られて路頭に迷っている真冬の気分の「僕」が、「----年のー月ー日、かくいう僕もこの荒唐無稽な「夏への扉」を探していた…」、という語りが後に続く。紆余曲折の後に結局「僕」は「夏への扉」を発見して、美事にそれを潜り抜ける。そしてハッピーエンド…(これは比喩的な意味でなのですが)、そういうストーリー展開になっていて、タイトルの意味はそういうことなのです。アクションやら美少女との恋やらがSF的な道具仕立てを織り込んだ小気味いいストーリーの中で展開された傑作で、山下達郎氏が曲にしたり、最近でも映画化されたりしているスタンダードな小説です。SFが好きな人ならだいたいこの小説は読んだことがあるのではないか?

 

 この小説のはしがきは、「全ての猫好きに捧げる」となっている。

 ストーリー展開でも猫のピートが重要なキーポイントになっている。

 僕もアメショーの猫を飼っていて、「美香」という名前ですが、アメショーを飼いたいという願望を抱いたのには、この「夏への扉」という小説への憧れが与って力があったと思う。すっかり我が家に馴染んでじゃれたり遊んだりしている猫の後ろ姿の三本の縞を見ると、いつもこのハヤカワ文庫のイラストを連想してしまう。「当たり猫」?なのか、いろんな人に猫を見せると、異口同音に誰もが「すごくかわいい」と言って、中には「まあ!かわいい猫…」と絶句したり、黄色い声で「カワイイ!」と叫んだりする場合もある。余程に可愛い猫らしいのですが、飼い主自身はイマイチその余程に可愛いという所以がわからないようなところもある。

 宝の持ち腐れ、猫に小判、豚に真珠、犬に論語、である。w


 で、飽きてきたのでもう稿をまとめるが、この「夏への扉」の初版訳本では、家事をやってくれるロボットのことを「文化女中器」と翻訳している。これはいかにも古いので、最近出た改訳版では、確か「万能お手伝いロボット」とか変更されていたと思った。


 「ロボットに代わってやってほしい家事」ではなく、「家事をやるロボットにおいて変わったところ」を思い出したという話でした😊


<了>

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掌編エッセイ・『ロボットに代わってほしい家事』 夢美瑠瑠 @joeyasushi

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