第3話 フラれる?
何を見逃したのだろうか?
真っ黒なカラスの姿になり、ウセキ国を上空から見下ろしたカインは前回のストーリーを思い返していた。
大災害を防げば物語が百年続いていくと思ったのに。
リチャードを殺したのは宰相の息子セドリック。
動機は宰相を失脚させた王子への恨みだが、元はといえば宰相の娘がフィオナを殺したから。
宰相の娘はフィオナに嫉妬していた。
宰相の娘を婚約者にしなければ良いという事だろうか?
あの時、宰相の娘を取り押さえたのは王子付き騎士ハリウスと騎士ワイズ。
扉の近くには騎士ルイージ。
扉から歩いてきた宰相の娘、騎士ガストー、騎士アズレン。
近くにいたのはフィオナ付き侍女エルメ。
そして王女フィオナ、王子リチャード、自分。
あの部屋にいたのはこの十人。
ミステリーならばこの中に犯人がいるのだろうが、ウセキ国物語は歴史書。
百年続かない原因がわからない。
真っ黒なカラスのカインが窓から王宮の中を覗くと、間もなくフィオナが生まれる場面だった。
六回目は残虐な王子。
生まれたばかりのフィオナを殺したリチャードは、国王命令により騎士ワイズに斬られて亡くなった。
七回目はナルシストな王子。
リチャードとフィオナは緑色のスープを飲み毒死。
原因が見つからない。
真っ黒なカラスの姿のカインは真っ白な世界に飛び立った。
物語が白紙に戻り、カインが修復を始めてから八回目。
カインは再びリチャードの補佐官として物語に入ることにした。
「絶対におかしい」
柱の影に隠れた七歳のフィオナは眉間にシワを寄せた。
前回スープを飲んで死んだとき、兄リチャードの補佐官は宰相の息子セドリックだったのに。
「フィー? どうした?」
くすくす笑いながら柱を覗き込む兄リチャードの綺麗な金髪がサラッと揺れる。
「フィオナ姫、かくれんぼですか?」
黒髪のカインは音もたてずにスッとフィオナの横に膝をついた。
「カインは」
何者?
一瞬聞いてしまいそうになったフィオナは口を噤んだ。
「何ですか?」
「なんでもない」
フィオナはくるっと向きを変えると、綺麗な金髪を揺らしながら走っていく。
フィオナの行動が違う……?
カインは走り去るフィオナの後姿を見ながら立ち上がった。
前回はリチャードにしがみつき、そのあと尾行されたのに今回は走り去った。
また違うストーリーなのか。
カインは溜息をついた。
五回目は堤防を提案し災害を止め、リチャードが絶賛されたところまではよかった。
今度は宰相の娘を婚約者にしないようにしなければ。
フィオナが殺されてからリチャードは狂ってしまった。
そういえば全ての話の中で共通していることがある。
リチャードとフィオナが必ず亡くなることだ。
リチャードが亡くなるから百年物語が続かない。
それを修復するために来たのだが、なぜフィオナまで毎回亡くなるのだろうか?
しかも順序はいつもフィオナが先だ。
フィオナが亡くなってからリチャードが亡くなる。
フィオナが生き延びれば、リチャードも生き続け、この物語は百年続くのだろうか……?
試しにフィオナを守ってみようか。
カインは登場人物の経歴の一部を書き換えると、リチャードに堤防について説明を始めた。
どうしてこんなことに。
フィオナは二人きりのお茶会で溜息をついた。
目の前に座っているのは兄リチャードの補佐官カイン。
優雅な所作で紅茶を飲んでいる。
「どういうつもり?」
フィオナが眉間にシワを寄せると、カインはニッコリ微笑んだ。
「美しいフィオナ姫とお近づきになりたいだけですよ」
「なぜ?」
「好きになるのに理由は必要ですか?」
絶対、私のことなんて好きじゃないと思う。
フィオナはカインを見ながら溜息をついた。
「何を企んでいるの?」
「これでも一応、公爵家の嫡男です。王女のお相手としては変ではないと思いますが?」
フィオナの婚約者になれば、話しかけても側にいても誰にも不信がられることはない。
カインは修復士の特権『物語の書き換え』でフィオナの婚約者を宰相の息子セドリックから公爵家嫡男カインに書き換えた。
「……イヤよ」
「えっ?」
カインは驚き、目を見開いた。
修復士の書き換えが効かない?
養成学校時代も師匠と修行した時も、書き換えができなかったことは一度もない。
「私のことは好きではないでしょう?」
フィオナは立ち上がると、カインの方を見ることなく立ち去ろうとした。
綺麗な金髪が風に揺れる。
カインは慌てて立ち上がり、フィオナの手を掴んだ。
「なぜですか?」
なぜ書き換えができない?
どうして婚約者になれない?
カインの黒い眼がフィオナの茶色の眼を見つめる。
フィオナはカインの手を振り払い、走って逃げた。
「……フラれたね」
くすくす笑いながら歩いてくるリチャードにカインは困った顔で微笑んだ。
「そうですね、困りました」
「カインと結婚だったらフィオナがずっと側にいてくれるから大賛成だったのだけれど」
まさかフラれるとは思っていなかったとリチャードが笑う。
「諦めませんよ」
絶対に修復してみせる。
フィオナが走り去った方向を見るカインに、リチャードは頑張れと励ましの言葉をかけた。
「書き換えが効かない……?」
カインの師匠ローレルはウセキ国物語のページを捲るとその手をアゴにあてた。
一体どういう事だろうか?
分岐点が一ヶ所ではない物語。
修復士の特権『物語の書き換え』が効かないなんて今まで経験した事がない。
定番の百年物語だと思っていたが、カインには荷が重いのではないだろうか?
なぜ総監グスターはカインの初仕事にこの本を選んだのだろうか?
古書の方がストーリーは単純。
だから初仕事にこの本を選んだのだと思っていたが、違うのかもしれない。
「……カイン、危なくなったら戻ってこい」
聞こえないとわかっているが、師匠ローレルは思わず本に向かって呟いた。
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