第12話 とある夫婦の浮気と再構築の話し

結婚前、二人はお互いの性格や生い立ちを色々話し合っていた。

結婚するのなら、ある程度価値観をすり合わせたり、楽しみを共有できる相手が良いと思ったから。


女側は、男の性犯罪者を憎む気持ち、父親が浮気をして家に帰ってこなかった、父親がクレーマー気質で母親は無欲で倹約家。


それらを聞いて、この人なら性犯罪被害者に寄り添ってくれなくても、加害者を擁護することはないだろう。

そして父親の浮気で怒っていたぐらいだから浮気をしないだろう、父親のクレーマー気質は受け継いでいるっぽいけど、多少強引でも自分には年上の様な引っ張ってくれる、多少モラハラっぽくっても上に立たせれる、何より自分が浪費家だから倹約主義を受け継いでいる。自分が計算できない買い物も、さっと計算してお得なのはどっち、など即答してくれる知能の高さも良い。問題点は時間をかけて調教しよう。


そう思って結婚することになりました。


それから10年以上。


夫婦は何度か喧嘩をしては仲直りをする、を繰り返し、妻側も予定通り度の過ぎるモラハラ部分を気が付かせては都度調教していきました。



そんな平穏な日々が急に崩れたのは夏ごろ。


夫が浮気しました、と正座で告白してきました。

相手の旦那にバレているので、もう言うしかないと思ったからだそうです。


相手の旦那にバレてなかったらずっと内緒にしていたでしょう。


そして妻も夫が浮気しているなどかけらも思わず、純粋に信用し続けていたでしょう。


その後浮気相手の夫婦とも会い、幸いお互い無かった事にして関わる事のない、忘れる方向に話が終わりました。


夫の言い分としては、相手から好きと言われて舞い上がった。

バレないと思っていたし、バレても過去自分のプライドを傷つける発言をしていた妻側に言い訳ができると思っていた。


それじゃあ父親が浮気した件で怒ったのはどんな理由だったの?


子供だから黙っていろ、と蚊帳の外に置かれた事だったそうです。


浮気した父を恨んでいたのではなく、会話に入れなかった事に怒っていただけ。


浮気自体にはそこまで罪悪感もなかったそうです。



その結果、妻は信じていた夫を失いました。

妻にとって、夫は唯一本当に自分を愛してくれる、親とは違って物扱いしない、想ってくれる存在だった。それがきれいさっぱり消えてしまったのです。信頼と言う長い年月二人で何度も話し合って家族として暮らしてきた日々すら壊れた気がしました。


妻は当然精神的に不安定になり、突然泣き喚いたり、うつろな表情で暗い場所に1人で居たがったり、携帯を破壊したり、普段なら必ず相談して決めた事を衝動的に自分だけで決めてしまったり、と感情のコントロールがうまくいかなくなりました。


妻自身、辛くて、その辛さから逃れるために夫のフォローが欲しいけれど、夫はどうしてあげれば良いのかわからない。


自分の職場のストレスを緩和する為に、上司の心得などの本は購入してきたり、図書館で借りたりするくせに、浮気をされた妻のフォローや精神状態などの本を自分なりに探して読んだらしいのですが、妻自身も探した時同様、ほとんどそんな本が実在しないため(あるとしても結局浮気された経験談であり、同じ浮気されて救いを求めている人の心の癒しになりません)、何もできない、と断言してしまいました。


結果、長い時間をかけてカウンセリングと、薬でフォローを入れつつ、それでも希死概念が芽生えてしまった妻は、日々どうやって死のうか悩み、その都度夫が1人寂しく老いていく姿を道行く1人で歩く老人に重ねては我慢するしかありませんでした。


多少でも気分が落ち込んでいない日には、二人で散歩をする事もありました。

そこであの時から全然話題を出せなかった事を話し、このところこんな話題も話せてなくて更に滅入っていた、と夫は言います。

友達がほぼいない夫婦にとって、お互いが友達でもあったからです。


妻もあっさりそんな夫を見捨てて、どこか新天地なり、懐かしい田舎に引っ越すなりすれば、少なくとも精神面で前進できたのか、と言われたら、残念ながら妻にとっても夫だけがすべてを話し、気を許した人間なので、死が二人を別つまで離れられない事に気が付いているからこそ、死を望んでいたのでした。


自分も嫉妬深い癖に、浮気をしている。平気でうそをついていた。久しぶりの恋は楽しかった?


など、攻撃的な気分の時は夫に対してそのようなメールを送ったりもしました。


それらを否定して欲しい気持ちもあったからです。


一度、気分が落ち込んでいない時の散歩で、男は何故浮気ができるのか聞くと、夫は多分男は複数の女性を同時に愛せるから、と答えてしまい、自分の回答がかなりまずかったと言った直後に気が付き、フォローを入れようとしてぐだぐだな言い訳を作った事もあります。

その時妻は冷静に、その回答ならやはり離婚しかないね。離婚後の私の生き方に口だす権利もないけど。と返答しました。


妻はやはり死んで楽になりたいと思う気持ちから抜けだせずにいました。


子供がいる夫妻でしたが、妻にとって子供は夫が欲しがったし、自分も一応欲しいとは思った。割合にすると9対1で妻自身子供の頃から親に否定されて育った分、我が子へもできる限り自立して自分がいなくなっても大丈夫な子育てをしていました。


期間としては3年間。

これは相手側から慰謝料を請求できる期限でした。

その間浮き沈みの波は徐々に緩やかとなり、夫は浮気した事を思い出すだけで胃が痛くなるほど後悔して、何かにつけて妻に対しての愛情表現を大事にするようにしました。


妻も、死にたい希望はきれいに消えてはいないけど、こんな夫と結婚できるのは自分しかいない事実があり、以前より努力しているらしく、無意味に感情をぶつけたり、怒ってくることも減り、再構築というのは成功しているかもしれないと思えるようにはなりました。


それでもPTDSで突然泣き出す事は治っておらず、その時は夫が在宅していればフォローするように抱きしめに来たり、後で報告してもその日の夜抱きしめ合って気分を落ち着かせるようにしたり、何か不満や気に入らない事があれば貯めこまず早めに言い合うようにはなりました。


子供達も何かあった、というのは既に感づいているらしく、でもまだそれを口には出さないで、母が泣き出している時は父と二人にするよう気を使ってくれています。



浮気によって、得た物、失った物、色々あるかとは思います。


ただそれでも、妻は元々単純に言われた事や人を信じてしまう(悪意ある事以外)性格であったため、再び、夫はもう自分を裏切らない、と信じて生きて行くと伝えました。


夫は以前より我を通し過ぎる事を止め、改善案を出して怒らない方法を探れるようになり、ついでに時効になったから払わずに済んだ慰謝料を考えると、微々たる額の指輪を買わされましたとさ。

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