第4話

「騒々しいな」


 ロイがカインを騙して金を奪還してから3日後。ランズベリースクール前を通ると、まだ昼前だというのに多くの車が路上に停まっており、校舎からは生徒が溢れていた。

「ロイ、あれ見ろ」

 つられて運転するスピードを緩めながら様子を窺っていたカインが指差した方向には、パトカーが停まっていた。


 二人は車を停めて学校へと歩いていく。

「何があった?」

 パトカーの前にいた二人組へ前置きもなく尋ねると、スーツを着た五十代ほどの男性が訝しげに振り向いた。

「なんだお前ら」

「俺たちはESPIだ」


 渋い声で威嚇され、ロイが言い返そうとした矢先、一歩後ろにいたカインが口を挟んで遮る。そんなに焦らずとも取って食いやしないというのに。

 男の目がちらっとカインを向き、苛ついた鼻息を漏らした。

「生徒の自殺だ。ESPIの出る幕じゃない」

「自殺? 誰だ、名前は?」

 皮肉を無視してロイはさっと聞き返す。

「テッド・スペンサーという11歳の少年だ」


 それだけ言うと、もういいだろうといいたげに手を振って、車に乗り込む。二人を残して颯爽と去っていく車を見送りながら、ロイはふんと鼻を鳴らした。

 隣でカインが重く呟いた。

「子どもが学校で自殺とはあまり穏やかじゃないな」

「まったく嫌な時代だよ」

「ああ。だが異能力が関連していないのなら俺たちの仕事じゃない」


 ESPIは警察組織、というか他のほとんどの機関から嫌われている。ESPIは主に犯罪や事件を取り扱う機関だが、実は異能省という上部組織に属している。異能に関わる事柄はほとんどすべてこの異能省の管轄となるため、他の機関にとっては手柄をかっぱらう疎ましい存在なのだ。

 現状、異能力が原因とわかると、ESPIに捜査依頼や協力を頼むことが一般的だ。もちろん警察の管轄は減る。そのため、明らかに能力が原因とされない限りは警察からわざわざオファーが来ることはまずないのが現実だった。


 ロイは封鎖された学校を振り返り、未来を奪われた少年をそっと追悼した。

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