泡沫のミラージュ

黒実トア

第1話 蜃気楼

辺り一面に血と、何かの残骸が飛び散っている。

窓ガラスは割れ、ドアも既に吹き飛ばされてしまった。

床には亀裂が走り、今にも崩れそうだ。

先ほどまで暖を取るために使っていた暖炉の火は、突如として自我を持ったかのように弧を描いて周りを燃やし始めた。

火の手がすぐそこまで迫ってきている。

昨日までの日常は、やはり作られた幻影にすぎなかったのか。

その突きつけられた事実を受け入れるしかない惨状であった。


突然の轟音とともに風が吹き、目の前に雷が落ちた。

思わず閉じてしまった目を何とか開け、あたりを見まわした。

すると突如して、床に散らばっていたスライム状の残骸が、波打つようにして一か所に集まり始めた。

それは次第に目や手、胴体を作り始め、何らかの生き物の形になった。

次の瞬間に、その生物の目には邪悪な光が灯り、こちらを鋭く睨み始めた。

あと一歩でも近づけば襲われて、彼の身体の中に取り込まれてしまいそうだ。

早く一歩でも後ろに下がらなければいけないのに、指一本すら動かすことができない。


この怪物に取り込まれるか、この崩壊していく世界の幻影とともに消えるか、どちらが早いか。

全てを受け入れて覚悟を決め、目を閉じようとしたその時。

目を開けていられないほど強烈な光が現れたと同時に、その中からヒトが出てきた。

大きな帽子と仮面を身に着けて顔を隠したその人物は、ゆっくりとこちらへと向かってくる。

この人のことを知っている気がする、忘れてはいけなかったはずだ。

けれども思い出そうとすると、頭が割れそうなほどズキズキと痛む。

遠のいていく意識の中で、その声が聞こえた。

「……ゲームエンド」

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