メダルマスター

 その世界の動物は死にそうになった時、二つの選択肢が残る。

 一つはそのまま死を受け入れる事。

 もう一つは体をメダルにし回復するまで待つ事だ。


 


 「クソ!弓が効かない!」


 一人の男が狼に乗りながら逃げていた。

 追うのは白い獅子。ホワイトイレブン。そのたてがみから10体まで自らの分身を作り出す事ができる危険な相手だ。

 分身は毛でできているが、金属のように硬く矢すら弾く。射ち続けてもジリ貧だ。

 この状況を打開するためには······


『リトルシン!巨大化だ!』

 

 切り札を切るしかない。


 全長10メートルは超えるであろう変化を遂げた狼は、そのまま分身を叩き潰す。  

 だが、それを黙って見ている獅子など王ではない。

 途切れることなく分身を生み出し、狼の周りを囲むように陣を作る。

 いくら図体が大きいとはいえ、分身を潰すだけでは意味がない。

 ボスを無力化させない限りこの戦いに勝ち目はない。


 そして、その状況を変えたのはメダルの主、人間だった。

 人間は他の動物に比べて貧弱だが、頭脳、言語能力、武器といった小細工が特異な生き物だ。

 狼にヘイトがたまっている間に、松明に火を付け一体ずつ燃やしていく。

 いくら硬かろうと所詮は毛。燃えない道理はない。ほぼ全ての生物の弱点の一つは火であり、いくら獅子でも例外にはなれなかった。


 人間に気付いたボスは分身に狼の足止めをさせダイレクトアタックを狙いにいく。

 鎧も槍もない松明だけの人など本体の敵ではない。

 ゆっくり近付き、襲いかかった。


『今だ』


 獅子は襲いかかられた。


 奇襲と擬態に特化したカマキリ、シーカーマによってその首はチョンパされたのだ。

 メダルになる暇すらなく、ホワイトイレブンの死体は転がった。


 

 人が初めてそれを知った。

 メダルに自らの血を垂らす事で、その動物を支配できるのだと。

 しかし、同じ動物が同じ動物を支配する事はできず、3体より多く召喚すると主は爆発する。

 また、支配されている奴隷は他のメダルを支配できない。

 主が死ぬとメダルは自由になる。

 人はその頭脳を持って血の呪いを悪用し、世界を手中に収めた。

 

 そして、メダルを操る最強の生物はメダルマスター呼ばれ恐れられた。


〈終〉

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