もう∞度

「キャー!!!」


 キイイーーー


 女性の悲鳴と、電車の急ブレーキの音。

 もう何度も、それこそ数えるのが億劫になるほど聞いた。


 そして、僕の身体はぐちゃぐちゃに引き裂かれた。


 

 と、思った時には、


「キャー!!!」


 キイイーーー


 まただ。


 さて、状況を整理しよう。

 僕には死んだ時に、時間を五秒だけ巻き戻す能力がある···ようだ。

 知ったのは初めて電車に轢かれた時だ。

 そして、何度も死んでいる。


 勿論、助かろうと手を伸ばしたが、間に合わなかった。

 どうしたものか。


 これは推測だが、この能力に回数制限はない。

 まあ、それはどうでもいいだろう。


 大事なのは、死んだら時間が巻き戻るという事実だ。

 死、と言っても、原因は色々ある。実験なんてできないが、老衰や病死なんかでも時間が巻き戻るのか?無限に近いほどの時間で考えてみたが、どれだけ考えても、あくまで予想にすぎない。

 では、自分の意識が大切なのだろうか?自分が死にたい、と強く願えば時間は戻らないかもしれない。


「死にたい死にたい死にたい死にたい」


 キイイーーー


 駄目だった。

 心の奥底では生きたいと望んでいるのか、それとも心は関係ないのか、さっぱり分からない。


 今度は自殺してみる事にした。

 助かるのは間に合わないが、地面に頭を打ち付ける事はできる。


 ゴンッ


 血がでた。

 そして、電車に轢かれた。



 あの程度では死ねない。

 もっと強く打つ必要がある。


 ゴンッ


 駄目だ。怖がっている。


 ガンッ


 駄目だ。恐れている。


 ドンッ


 駄目だ。躊躇っている。



 何度も何度も繰り返し、


 ドガンッ


 これだ!


 理想の自殺ができた。


 電車が来るよりも早く死ぬ事ができた。そして、時間は巻き戻る。


 やっぱり、自殺でも死ねないか。


 ああ、またあの音が聞かないといけないのか。

 そう思ったが、その音は何秒か遅れた。


「キャー!!!」


 キイイーーー


 ん?


 何故だろうか。

 俺の能力は死んだら時間が五秒だけ巻き戻るはずだが······。

 いや、さっきは電車のせいで死んだのではない。電車が来る前に自殺したんだ。そのタイムラグがさっきの違和感を生んだわけだ。


 希望が、見えてきた。


 ドガンッ


 ドガンッ


 ドガンッ


 ドガンッ


 何度も何度も、頭がぐちゃぐちゃに粉砕されるほどの衝撃を与えた。

 そして、僕はついに落ちる前の状態に戻れた。


「ハァッ ハァッ ハァッ ハァッ」


 心臓の鼓動が止まらない。


 

 いつだって大切なのは、諦めない心だ。




〈終〉

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