正体
翌週の月曜日。
いつものようにナツキが冷蔵庫から出勤すると、鴨原が神妙な面持ちでテレビを見つめていた。
「見たまえ。現在も増え続ける妙を排除しようとする動きが出ている」
「昨日と一昨日はピタッと動きが止まったのに……でも仕方がないですね。急におめめ塞がれたら大変ですもん」
「無茶をされて妙が暴走する前に決着をつけよう」
鴨原とナツキが訪れたのは、最初に妙が発見された新宿駅構内。一時は規制も解除されたその場所には、たくさんの警察とマスコミ、一般のギャラリーが集まっていた。
「あわわっ、もう始まりそうですよ」
妙を取り囲む警察に待ったをかけると、素直に従って手を止める。
「この妙に武力行為は必要ありません」
警察は鴨原に道を開ける。
「言っちゃってくださいよ、鴨原さん! 妙の正体を!」
「これはプレミアムフライデーです」
完全に時が止まった。
「ぁ、えーっと……ぷれみあむふらいでぇ?」
「プレミアムフライデー。月末の金曜日は仕事を早く切り上げようというアレだよ」
「そういえばそんなのありましたね」
「2017年に始まったがお世辞にも浸透したとは言えなかった。今となっては国民の多くが忘れているだろう。始まった当初から色々と批判があったプレミアムフライデー……それがこの妙だ」
鴨原以外の全員が唖然としている。
「思い出してほしい。妙が動き出した7月29日は月末の金曜日だ」
「じゃ、じゃあ仕事をさせないために視界を塞いだんですか?」
「その通り。喫茶店で妙が私を見逃したのは休憩していたから。その後、ウェイトレスを助けた時に探偵としての仕事を再開したと判断された」
「なるほど! 真っ先にウェイトレスやサラリーマンが襲われたのはお仕事中だったからですね!」
「そして金曜日が終わるとピタリと活動を止めた。次に動き出すのは恐らく8月最後の金曜日、そこまで待って確信を得たかったが大事になった以上仕方がない」
鴨原が人型の妙の心臓部に触れる。
「忘れ去られたことが辛かったんだろう。少しだけ早く休んで欲しかっただけで、お前は何も悪くない」
「おぉ……鴨原さんがぷれみあむふらいでぇを説得している」
半ばギャグのような光景だが茶化そうとする者は一人もいない。
鴨原の言葉はテレビ局の生中継によって全国へと流れる。
『プレミアムフライデーとかすっかり忘れてた!』
『政府すら覚えて無さそう』
存在を思い出されるに連れて、妙の人型が段々と崩れていく。
「お前だけが頑張っているのは不公平だろう。休んでいいんだぞ」
後ろが透けて見えるほどに靄も薄まり、
『グヴゥ゙……』
とくぐもった声が漏れた。
「ぷれみあむふらいでぇが喋った!?」
中継の映像が妙ではなく喋る奇妙なドーナツにシフトする。
『クワシクハ……コウシキホームページを……チェック』
それを最後の言葉に妙はさらさらとした細かい粒になり、やがて見えなくなった。
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