第144話 死骸・形骸・聖骸
暴風の中、流星の如く飛来したクララさんを。
確かに僕の【
その証拠に、彼女の横っ腹には何かをぶつけたような、先ほどまでなかった肌の赤みが存在していた。
……いや、なんでその程度の傷で済んでるんだよ。
どんだけ人外離れした防御力なんだ……
「いたた……まさか今のをカウンターされるとは。久々にダメージを負った気がしますね、これは」
『フン、時間が掛かり過ぎだが、まあ合格は合格ダ。約束通り、お前はさっさとリリス達に合流しロ。後は――』
師匠のその言葉の直後、周囲の雰囲気が一変する。
地上の澄んだ空気が、突然澱んだ空気へと変貌する。
空気、いや空間そのものが、
『――私がこの馬鹿犬の相手をしてやル』
「おや、もうお弟子さんの出番は終わりですか? これからだというのに残念ですね」
そんなことを言いつつもクララさんは僕をひっ捕えようと、その腕をすごい速度でこちらに伸ばす。
しかし弾かれる。間に割り込んだ謎の
「うわ臭っ、地上で
『さっさと行けシテン。コイツでこの番犬を足止めする。その間に国境を抜けろ。こいつは
「そんな簡単に……国境までどれくらい距離あると思ってるんですか!」
そう吐き捨てつつも、僕は素直に迷宮都市の外へ向かって走り出す。
残念ながら、更に激化するであろうこの後の戦いにおいて、現時点での僕は足手纏いであろうからだ。
……けれど、今の感覚。
確かに掴んだ、魂の知覚。これを磨けばきっと、さらなるレベルアップに役立つに違いない。
それにSランク探索者の強さを、嫌と言うほど体感した。
僕はまだそのレベルに至っていないが、それでもはっきりとゴール地点は見えた。
そこへ至るまでの道筋も、朧げながら。この修行で、得たものは確かにあった。
まだ、僕は強くなれる。そしてこの力で今度こそ、大事な仲間達を守ってみせる。
◆
『……』
「あーあ、行っちゃいました。もう少し遊びたかったのですが」
『ふざけるのも大概にしロ。貴様との遊びに付き合える程、まだアレは頑丈ではないし時間もなイ』
シテンがその場を去った後。
迷宮都市の中で、【尸解仙】ユーリィと【狂犬】クララは向かい合っていた。
ユーリィについては、正確には本人はこの場に居ない。クララの目の前に佇む肉塊。そこから遠隔で声だけが放たれているのだ。
『それで、一体どういう了見ダ』
「はい?」
『こんな
……ユーリィの言う事は概ね正しい。
迷宮都市ネクリアには、『Sランク探索者の無断出国を禁ずる』というルールがある。
しかし一般には知られていないが、そのルールは形骸化している。
桁違いの力を持つ彼らが本気で国を出るつもりなら、それを力づくで止めるなど到底不可能だからだ。
故にギルドは、普段から彼らSランクに莫大な富と特権を与え、間違ってもこの迷宮都市から離れようと思わせないようにしているのだ。
そしてその事実は、ユーリィとクララにとっては周知であった。
「……さすがにバレてましたか。まあ、あなたが本気で出ていくつもりなら、そもそもギルドに気取られる事もなかったでしょうし」
『気付いても見て見ぬ振りをするべきだろウ? そうすれば今回のような無駄な被害が出たりはしなイ』
「そういう訳にもいきませんよ。ギルドにも面子ってものがありますから。可能かどうかはさておき、決まりを破った人には対処は必要なんです。
……それに」
そしてクララは、訝しげな視線を肉塊……ユーリィの使い魔に向けた。
「こんなゲテモノまで呼び出して……そうまでして聖国に行きたい理由は何ですか?
『お前に行動理由を尋ねられるとは、これは稀有な体験をしたナ』
「む。その言い方はちょっと失礼では? 私は常に常識ある忠犬ですよ」
『これだけ街を壊しておいて常識を語るナ。どうせギルドにも食べ物で釣られたんだろウ』
「はい。ちょっと足止めしたらいっぱいお肉が貰えると聞いてやってきました」
その返答に内心呆れながらも、クララの行動理由をおおよそ察するユーリィ。
恐らく彼女を通して、ギルドはユーリィの出国理由を確認したかったのだ。
これまで迷宮に篭りっぱなしだったユーリィが、なぜシテンに肩入れし、あまつさえ国を出ようとしているのか。
「ともかく、あなたはギルドのルールを破りました。何かしらのペナルティを科せられるでしょう。そこまでして国を出る理由が、必要性が分からないんですよ」
『……私は必要だと思う行動しかしなイ。今回の聖国行きも、そこでしか手に入らないモノがあるからダ』
「……迷宮都市で、手に入らないもの? あなたは一体何を求めているんです?」
『――初代勇者の聖骸』
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