第142話 一点集中


 真昼間の迷宮都市に、亡者の群れが溢れ出す。

 骨兵スケルトン亡霊レイス死体ゾンビ、その他多種多様なアンデッド達が、一斉に【狂犬】クララさんの元へ集まるが……


「とーぅ」


 彼女の腕の一振りで、亡者の群れは紙切れの様に斬り裂かれ、バラバラにされる。

 その指先から刃物の様に長く伸びたが、師匠の呼び出したアンデッドを容易く蹴散らしたのだ。


 とはいえ。


「なんか手応えが微妙ですね。普通のアンデッドではないようですが」


『そいつらはさっきまでの雑魚とは違う、特別製ダ。私がスキルを解除しない限り決して消えなイ。そして――』


 そして気づく。アンデッドを切り裂いたクララさんの爪や腕に何か、朧げで不吉なものが取り憑いている事に。


「これは――」


『――怨霊・・だヨ。自分を斃した敵に取り憑いて、精気をすすり衰弱させル。敵をこいつらは無限に湧き出てくるが、倒せば倒すほど弱体化していくゾ』


「……ふむ」


 纏わりつく亡霊を興味深そうに眺めるクララさん。

 それを尻目に、僕はアンデッドを隠れ蓑にしながら接近する。

 現時点で放てる最高火力、【完全解体パーフェクトイレイサー】。クララさんのあの防御力を突破して一撃を加えるには、この派生スキルを使うしかない。


「まどろっこしいですね。一回全部吹き飛ばしますか」


 だが、Sランクはそう簡単にどうにかなる相手ではなかった。

 独楽こまのように、クララさんはぐるっとその場で回転。

 直後、クララさんを中心に暴風が発生し、アンデッドと亡霊ごと僕は吹っ飛ばされた。


「――いや、建物まで吹き飛んでますけど!? どんな馬鹿力ですか!」


『なんで物理攻撃で亡霊が消えるんだ、デタラメな――来るゾ』


 空中で隙だらけの僕に、飛び掛かるクララさんを、辛うじて視界に捉える。

 衝撃インパクトの瞬間。集中。


「【完全解体パーフェクトイレイサー】」


「隙有り――およ?」


 クララさんの一撃が、僕の胸元に確かに命中する。

 しかし服が破けた程度で、大したダメージはなかった。


「今の感覚……もしかして、衝撃を解体でもしましたか? 器用な真似しますね〜」


「【完全解体パーフェクトイレイサー】でも衝撃を殺しきれてない!? これじゃジリ貧ですよ!?」


『攻撃、防御、機動力。全てに劣るお前は、地道に攻撃を捌きつつ、反撃の隙を伺うしかないゾ。泣き言いってないでさっさと戦エ』


「くそっ、弟子入りする相手を間違えた!」


 明らかに音速の域に達しているであろう、クララさんの攻撃を捌き続ける。

 しかし【完全解体パーフェクトイレイサー】は元々反動の大きい技。修行の成果で軽減されたとはいえ、そう何度も連発できる技ではない。



 何より、接触しているはずのクララさんが無傷だ。

 本来触れた相手をカウンターで消し飛ばす筈なのに、本当にどうなってるんだ!?


「えい、やあ、とう。……ふふ、面白いですね。私の攻撃がここまで防がれるのは久しぶりです」

「それはどうも……!」


 現状、僕に【完全解体パーフェクトイレイサー】以上の攻撃手段はない。

 それすらも通用しないとなれば、どうするか。

 ……考えろ。必ず攻略法はある。ミノタウロスの時だってそうだった。窮地にこそ、活路は見出せる。


「うーん、亡霊が無限に湧き出てきますね。鬱陶しいしいい加減飽きてきましたので、そろそろ決着をつけましょうか?」


 その言葉を聞いた瞬間には、もう遅かった。

 クララさんは僕に飛びかかり……あろうことか、寝技を持ちかけてきたのだ。


「なっ、がっ!?」


「これなら衝撃も受け流せないですよね? さっさとユーリィを確保させてもらいますよ」


『おい馬鹿弟子、しっかりしロ。このままじゃ締め落とされて負けるゾ』


 僕とクララさん、師匠のアンデッドと亡霊が絡み合って揉みくちゃになるが、クララさんの拘束は全く外せない。

 くそっ……ダメだ、直接接触で解体スキルを使っても、全くダメージが入らない。

 異常なまでの肉体強度。これを突破するならば。


「一点集中……!」


「おや」


 今の僕が出せる全火力を、一点に集中させる!

 ミノタウロス戦で最後に使ったあの極点への集中を、もう一度。

 あの感覚を思い出せ! 【完全解体パーフェクトイレイサー】の攻撃力の全てをぶつけろ!


「【完全解体パーフェクトイレイサー:穿孔】……!」


◆◆◆

お久しぶりです。

カクヨムコンが終わりましたので、ぼちぼち更新を再開したいと思います。

お待たせしちゃってごめんなさい。


あと、ペンネームが変わりました。

にゃんぼ→猫額とまり となります。どうぞよろしくお願いいたします。

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