第109話 vsミノタウロス ⑦変貌
(三人称視点)
(凄い光景だ。これが、シアが見ている世界か)
ミノタウロスの攻撃を回避しながら、シテンは目の前に広がる光景に驚愕していた。
今、シテンとシアは『共視の糸』の力で、お互いの視界を共有した状態にある。
元々ルチアが、シアを繋ぎ留めておくために使ったマジックアイテムだが、今はシテンの手に渡り、この戦いにおける重要な役割を担っていた。
シアの【鑑定】スキルの力で、あらゆる世界の理が
手に持つ武器の素材は何なのか、使い方はどうするのか。
ミノタウロスの能力はどれ程なのか、どこが弱点なのか。
どんな体構造なのか、何を考えているのか。
そして――どんな魂の形をしているのか。
(これが魂なのか。炎みたいに揺らめいていて、捉えどころがない)
シテンの瞳には、ミノタウロスの全身から立ち上る、炎のような揺らめきが映っていた。
常人には見ることができない、魂の形。
それを捉えることこそが己の役割であり、勝利条件であると、シテンは確信していた。
(奴は言った。魔王の魂がある限り、自分が滅ぶことは決してないと。……なら、
解体スキルは、発動者が捉えたものは何でも解体することができる。
逆に言えば、捉えられなければ解体することができない。
シテンはこれまで、魂というものを目にしたことが無かった。それに魂についての理解度も足りていない。
つまり。
(観察するんだ、奴の魂を。魂に対する、僕の解像度を上げていくんだ。そして
シテンは攻撃には移らず、ひたすら
そして、その時はきた。
(! 今の感覚は)
炎のように不定形にゆらめく魂が、レンズのピントが合わさるように一瞬、明確な実像を持って現れたような感覚。
(僕の刃が届くか、試す価値はある)
「【解体】――【
そしてシテンは動きを変え、ミノタウロスの隙を突いて腕を斬り落とす。
これまでの肉を斬った時とは違う、何か別の物を切り裂いた、確かな感覚があった。
そしてその影響はすぐに表れる。
「――なにッ!!??」
再生したはずのミノタウロスの腕が、枯れ枝のようにやせ細っていたのだ。
シアの鑑定した通り、【
その魂を直接傷つけられ、【
(いける! シアの聖女としての力でブーストすれば、奴の防御力も突破できる! このまま少しずつ奴の魂を切り崩して、あのふざけた転生能力を機能不全にさせてやる!)
「見えてるよ――お前の、魂の形」
そう告げたシテンは、狼狽するミノタウロスに容赦なく刃を浴びせかけた。
◆
同じころ、シテンの影の中で。
シアは、【鑑定】スキルを限界まで発動させ、ミノタウロスと魔王の全てを暴きだそうとしていた。
だが……
「ッ……!」
左目に走った激痛に、シアは思わず瞼を閉じかけてしまう。
綺麗なアイスブルーの瞳は血で濁り、血涙が零れ落ちていた。
魔王の魂という、膨大な魔力と邪気の集合体。
それを長時間直視して、何の影響も起きない筈はない。
(まだ……! 目を閉じてはダメ!)
激痛のあまり痙攣する瞼を、シアは意思の力で無理矢理見開く。
(私が目を閉じれば、シテンさんは死んでしまう! 目が潰れても構いません、絶対にこの目は閉じない!)
シテンがミノタウロスの魂の形を視認し、死角からの攻撃を回避できているのは、全てシアの鑑定スキルのお陰だ。
鑑定スキルが導き出す、地形の流動、魔力の流れ、その予兆。
それを逆算しシアは、未来予知に近い形でミノタウロスの攻撃を予測している。
同時に、極力ミノタウロス本体を視界に収め、魂の形を捉えながら鑑定を進める。
かつてない目と脳の酷使に、シアの身体は悲鳴をあげていた。
それでも決して、シアは戦いをやめない。
(もう少し、もう少しで……魂の、
それは、水平線の果てまで全てを視界に収めるような離れ業だった。
魔王の魂はあまりにも莫大で、人間一人が全体像を認識できるものではない。
だがシアの卓越した鑑定技術と、聖女としての力が合わさり、常人には不可能な芸当を可能にしようとしていた。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
【魔王】パ■■ラ レベル:0
性別:■■ 種族:なし
(隠しステータス)
筋力A、敏捷B、魔力C、体力A、防御A
肉体年齢:エラー。この魂と紐づいた肉体の情報が見つかりません。
┗肉体情報:左腕損傷、【
魂年齢:■■■■歳
【魂の遍歴】
●エラー。あなたには該当項目を閲覧する権限がありません。【
【スキル】
●魔王の加護……パ■■ラの呪い。全ての攻撃の威力を吸収する。但し、聖なる力を帯びた攻撃には効果がない。
【備考】
●
(■■の秘儀により、魔獣ミノタウロスと魂が連結された状態にある)
(この魂は■■に分割されている)
△△△△△△△△△△
ノイズまみれで不明瞭だった
「うっ……ゲホッ、ゲホッ!」
(もう少し……もう少し……)
悲鳴をあげる身体を抑え、自身の魂を削りながら、シアはさらに深部へと意識を潜らせる。
◆
そしてミノタウロスは今、魂をやすり掛けのように削られつつあった。
「ウオオオォォォォ!!??」
「【解体】【解体】【解体】【解体】」
解体される。転生する。失敗、変形する。
「【解体】【解体】【解体】【解体】」
解体される。転生する。失敗、変形する。
「【解体】【解体】【解体】【解体】」
解体される。転生する。失敗、変形する。
(これはっ、魂を直接解体されている!? まさかそんな事が可能だとは!!)
シテンは未だ、ミノタウロスの魂の全貌を捉えた訳ではない。
だがシテン自身の疲労の限界と、シアの限界という
どちらかが訪れる前にミノタウロスを再起不能にする必要があった。
故に、『捉える』箇所を一部分に限定して、少しずつ魂を斬り落としていく方針に、シテンは切り替えたのだ。
すでにミノタウロスの四肢は原形を留めておらず、左手はやせ細り、右腕は
両足も斬り落とされ、長さが不揃いになってしまっている。
もはや身動きすらままならない。まさにまな板の上の鯉であった。
(徐々に魂を削る速度が上がっている。このままでは「【解体】」
ミノタウロスの頭部がバラバラになり、思考が断絶する。
頭部は即座に再生するが、頭蓋骨が歪に変形してしまっていた。
身動きも取れず、思考すら許されず、ミノタウロスは徐々に【解体】されていく。
(こノまま、でハ、コノママ、デ、ハ)
脳構造さえも変形させられ、ミノタウロスは正常な思考回路も保てなくなりつつあった。
それでも。
「オ、オォォ」
それでも、僅かに残された戦士としての本能が、彼の
「――【
「!!?」
直後。
ミノタウロスの肉体が変貌する。
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