第107話 vsミノタウロス ⑤表裏一体


(三人称視点)


 先手を取ったのは、ミノタウロスだった。


「簡単に死んでくれるなよ……!」


 ヨルムンガンドの姿が消えた途端、ミノタウロスがつぶてを撃った。

 礫とはいっても、ミノタウロスの手のサイズから見れば小石というだけで、実際は成人男性の頭部程の大きさがある。


 前回の戦いで、シテンに接近する危険性を悟ったのだろう。故に、初手から投擲攻撃という、これまでのミノタウロスのイメージを覆す行動だった。


 豪速で迫る礫の狙いは、もちろんシテン、


「!」


 ……ではなく、その隣のシア。


(聖女を連れてきたという事は、それこそが逆転の切札という事。ならば先にそれを叩く!)


 同時に、ミノタウロスは【迷宮改変ダンジョンマスター】を発動。

 シテンに攻撃が妨害されないように進路を塞ぎつつ、床を石槍に変形させ、死角から貫かんとする。


 自身の剛力と不死性を活かした戦い方ではなく、技巧を生かした二段攻撃。

 戦いで成長していたのは人間だけではない。ミノタウロスはこれまでの戦いで得た戦闘経験を、間違いなく己の血肉にしていた。




 しかし、その二段攻撃のどちらも、シテンとシアには届き得ない。



「シアッ」


「はいっ」



 礫がシアの頭部を柘榴のように炸裂させる直前――シアの姿が沈んだ・・・・・・・・


「何っ!?」


 ミノタウロスは確かに見た。

 シアの姿が、側のシテンの影の中に沈んでいくのを。


(そういえば、聖女の装いが先程とは違っていた。あれは……シテンの着ていた・・・・・・・・防具ではなかったか・・・・・・・・・?)


 シテンの姿を注視すれば、先ほどの戦いで纏っていた暗紅色の革鎧が無くなっている。

 そしてシテンは、死角から迫る石槍を目視もせずに回避・・・・・・・・していた。



「そうか、貴様の影に潜れる装備。それを聖女に渡したのだな。確かにそれならば、俺たちの戦いに巻き込まれる心配はあるまい」



 ミノタウロスの指摘通り、それこそがシアの策だった。

 シテンの防具をシアが身につける事で、影の中に潜り攻撃を回避するという作戦だ。


 だがこの作戦には、シア自身でも挙げていた通り、大きな問題がある。


「つまりシテン、今お前は影の中に・・・・・・・・潜れないという事・・・・・・・・。俺の攻撃を影潜りなしで、どこまで捌き切れる!?」




(シテンさんに、背中を任された)


 影の中で、シアはミノタウロスの様子を注意深く観察していた。

 アイスブルーの瞳は、これまでにないほど強い光を放っている。


(私は、私にできることを全力でこなす。この、【鑑定】スキルの力で!)


 シアの瞳は、【墓守パンドラガーディアン】のステータスを容易に暴きだす。



▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

【ミノタウロス】 レベル:50

性別:オス 種族:魔物、魔族、悪魔、墓守(ミノタウロス)


【スキル】

迷宮改変ダンジョンマスター……自在に迷宮の地形を操作する権能。

輪廻転生リインカーネーション……NO DATA


【備考】

なし

▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲


(これが、ミノタウロスのステータス……でも違う、これじゃない・・・・・・



 鑑定士としての直感か、聖女としての本能か。

 ともかくシアは、ミノタウロスに隠されたギミック仕組みを理解していた。


(私が見るべきは、こののステータスじゃない。その裏側・・!)



 シアの瞳が輝きを増し、ミノタウロスの魂の奥底まで見通す。




▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

【魔王】■■■■ レベル:■■

性別:■■ 種族:■■


【スキル】

●魔王の加護……■■■■の呪い。全ての攻撃の威力を吸収する。但し、聖なる力を帯びた攻撃には効果がない。


【備考】

進化細胞エボリューションセル……肉体が傷ついても、細胞単位で修復する。修復する度により強靭な肉体となる。

△△△△△△△△△△



(やっぱり、もう一つステータスが隠れていた!)


ノイズまみれのステータスを読み取ったせいか、激しい頭痛に襲われるシア。

しかし、視線は決してミノタウロスから逸らさない。


(信じられないけれど、一つの肉体に二つのステータスが共存している! 二つのステータスは表裏一体。表のミノタウロスを倒しても、裏の魔王が健在な限り何度でも蘇ってしまう!)



(このギミックを解くには、裏のステータス、魔王の魂をもっと深く鑑定しないと。そのためなら、私の目が潰れてしまっても構いません!)



 この戦いにおいて、彼女こそが紛れもないキーマンだった。

 そして、暗闇の中でシアの戦いが始まる。


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