勇者パーティーから追放された“元”解体師の、森羅万象バラバラ無双 ~ユニークスキル【解体】は、あらゆる防御を貫通する最強の攻撃スキルでした~
第84話 勇者、女神から挽回のチャンスを与えられる(勇者視点)
第84話 勇者、女神から挽回のチャンスを与えられる(勇者視点)
(三人称視点)
そして時は、イカロスの前に、シアを連れたルチアが訪れた場面へ戻る。
「……誰だ? その女。いやそれよりも! シテンに会ったってのはどういう意味だ? 盗まれた資金は奪い返してきたんだろうな!?」
シテンの名を出した途端に取り乱すイカロスの姿を見て、かなりシテンに執着しているようだ、と聖女は内心で認識を改めた。
「シテンは、【暁の翼】の資金を盗んではいませんでした。資金が底を尽きかけたのは、また別の原因なのでしょう」
「そんな訳あるか!? じゃあなんで金庫の金が無くなってるんだよ、今まで俺があげた成果で貰った報酬はどこに消えた!?」
「使い切ってしまったのでは? 元々金庫には金目のものは殆ど入っていなかったのでしょう」
「あ゛ぁ゛!?」
何言ってるんだコイツ、という表情で聖女を睨みつける勇者。
しかし聖女は気にも留めずに、本題を切り出した。
「勇者様。先日私が申し上げた、『挽回のチャンス』について、覚えていらっしゃいますか?」
「ッ! あ、あぁ覚えてるよ、けどそれがどうしたんだ?」
挽回の機会について話が始まると、一転してイカロスは大人しくなった。
聖剣の力を無断で使用したり、女神を罵倒した件については、流石のイカロスもやりすぎだったと考えているようだ。
「今からその件について、詳しい話をしたいと思います。……資金の問題や、そこの少女とも関わりのあるお話ですので」
二人の視線が、床に転がされたシアに向く。彼女は未だ意識を取り戻していない。
「私は女神さまから、次のような神託を授かりました――【
「ッ!」
ミノタウロスの名を聞いた瞬間、勇者イカロスの身体が縮こまり、ガクガクと震えだした。
ミノタウロス。Aランクを始めとする数多の冒険者を退け、迷宮の地形を破壊し、生態系を崩壊させた元凶。
そして、勇者パーティー【暁の翼】が、初めて敗北を喫した相手でもある。
その恐怖と絶望は、今も勇者イカロスの心身に深く刻み込まれていた。
「お、おい嘘だろ? 俺たちが負けたのはシテンのせいとはいえ、あいつも結構強そうな魔物だったぜ? それを倒せっていうのか? あいつを狙ってる冒険者は他にもいるんだし、別に俺たちが相手をする必要もないだろ?」
「いいえ、勇者様でなければいけないのです。ミノタウロスは、普通の魔物ではありません。かつて女神様と争った魔王、その力を受け継いだ特別な存在。それが【
「魔王の……!?」
ここで魔王の話が出てくるとは思わなかったのか、蒼くなっていた顔が驚愕の色へと変化する。
魔王が関わってくるならば、確かに話は変わってくる。
「ミノタウロスの肉体は、魔王の力で守られています。これを破るには、特別な力……そう、勇者様の持つ聖剣の力が必要なのです」
「聖剣を扱えるのは、勇者の俺だけ。つまり俺だけが、あいつを倒せる……?」
勇者の問いかけに、聖女は沈黙で返した。
それを肯定と受け取ったのか、勇者は自身が特別な存在であると改めて自覚し、気を良くした。
「そ、そうか。それなら仕方がないのか。なにせ俺は勇者だからな。魔王の手先を倒せるのは俺だけって事だな」
先ほどの怯えた様子からは一転、調子良さげにニマニマと笑みを浮かべるイカロスの姿を尻目に、ルチアは内心でこう呟いていた。
(……実際は、聖剣以外にもダメージを与える手段はありますが。シテンのユニークスキルが、その数少ない例外の一つでした。尤もパーティー復帰を拒絶されてしまった以上、その分勇者様に頑張って頂くしかありませんね)
この事実を正直に伝えても意味が無いのはルチアも分かっていたので、敢えてイカロスには何も伝えないことにした。
「とはいえ、ミノタウロスは強力な魔物。私達が万全の状態で戦ったとしても、勝ち目は薄いでしょう。そこで、女神様はある“策”を授けてくださりました」
「策? 作戦があるってのか?」
「はい。――かつて女神様と共に、魔王に立ち向かった神の御使い。その頂点に座する四人の熾天使の一人。ウリエル様のお力添えを頂くのです」
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