第69話 スカウトされました


 ジェイコスさんから、パーティーへの勧誘を受けた。


「シテン。お前の実力を、俺は高く評価しているつもりだ。【大鷲の砦】は俺以外Bランクの冒険者で構成されているが、だからといってお前を下に見るつもりは無い。もちろん正式メンバーとしてのスカウトだ」


「…………」


「俺達は今回の事件の報酬を使って、北支部の近くに拠点を買う予定だ。北支部の支部長とも話は通してあるし、アドレークとは違い手厚いな対応を約束してくれた。それとなく聞いてみたが、向こうもお前の存在に興味があるようだった。……お前の実力は、もっとしかるべき場所で正当に評価されるべきだ。冒険者として高みを目指すなら、悪い話ではないと思うが」


「…………」


 僕は、すぐに返事を出せなかった。

 確かにジェイコスさんの提案は魅力的だ。

 Aランクを筆頭として、最低でもBランクで構成されたパーティー。迷宮都市に数あるパーティーの中でも、上位に位置するだろう。

 そんな所からスカウトされるというのは、滅多にない事だ。

 勇者達と違って、僕を雑用で使い潰すという事もしないだろう。ジェイコスさんは僕の実力を見て、彼なりに正当に評価してくれている。


 少し考えて、やがて僕は結論を出した。




「……僕の事を評価してくれたのはとても嬉しいです。でも、ごめんなさい」



「……理由を訊いても良いか」


「幾つかあります。知っての通り、僕は勇者パーティーとの因縁があります。僕がパーティーに加入すれば、彼らや勇者を信仰する人達から、嫌がらせなどを受ける可能性があります。最悪、彼らのバックについている聖教会が干渉してくる事もあり得ます」


「…………」


「あと、僕が西支部で活動している理由なんですが。僕のお世話になってた孤児院……家族の家が近いんです。探索の帰りに寄るには都合が良くて。……冒険者としての評価を優先するか、家族を優先するか、考えた結果です。だから僕は西支部を離れるつもりはありません」


「……そうか。残念だ」


 ジェイコスさんはそう呟いて、片手に持っていた酒の入ったグラスをあおった。


「ならば、俺からはこれ以上何も言うまい。これは本人の優先度の問題だからな」


「……すみません、ありがとうございます」


「気にするな。気が変わったらいつでも声を掛けてくれ。……それに、お前はもしかすると、俺たちのパーティーで収まりきるような人物ではないかもしれないしな」


「流石に買い被りだと思います……」


「いや、俺の直感がそう言っている。俺は自らの分をわきまえているつもりだ。俺の限界はAランク。人間の到達点などと言われているが、その先のSランク、人外の領域には立ち入れそうにない。だがシテン、お前ならあるいは。……そう思っている」



 なんと反応して良いのか分からず、僕は無言になってしまった。

 フッ、とジェイコスさんが笑みを浮かべて、またグラスをあおった。


「時間をとって悪かったな。宴も終わりが近いが、もう少し楽しんでいってくれ」


 そう言ってジェイコスさんは酒場の中に戻っていった。

 僕はもう少し、外で体の熱を冷ましたい気分だった。



 酒場に戻ると、ツバキさんが出来上がっていた。


「あ、シテンきゅんだ、おかえりぃ~。おそとでなにしてたの~?」


「え、えぇと、ちょっと将来の事を考えてました」


「わぁ、えらいなあシテンきゅんは! こっちおいで、おねえさんがいいこいいこしてあげまちゅからね~」


「えっ」


 戸惑う僕を置き去りにして、ツバキさんが僕の頭を強引に押さえて撫で始めた。

 って力強っ! これが元Aランク冒険者の腕力!?


「よ~しよしよし、シテンきゅんはいいこでちゅね~、おとーとができたみたいでかわいいなぁ」


「正気に戻ってツバキさん!」


「よ~しよし」


「……むぅ」


 結局ソフィアに引っぺがされるまで、されるがままに頭を撫でられまくった。


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