第56話 vsアークリッチ・ゾンビケルベロス ①【影法師】スキルの脅威


(三人称視点)


(あの小僧、もうここまで追い付いてきたか……!)


 シテンと対峙するクリオプレケスは、内心で毒づいていた。

 自分が敗れた後、古城のトラップが作動するのは見えていた。

 だがシテンは古城ごとトラップを消し飛ばすという力技で突破し、ここまで辿り着いたのだ。


(じゃが、奴はここまで全力で走ってきたはず。現に奴の息は荒い、それなりに体力を消耗しておる。ケルベロスの力を得た今の儂ならば、十分に勝ち目はある!)


 クリオプレケスは、そう言い聞かせるように自らを鼓舞した。


 ……彼自身もまだ気づいていないが、シテンに何もできず敗北したという事実は、クリオプレケスに決して拭えないトラウマを刻みつけていた。

 あらゆる攻撃が通じず、全く理解できない手段で一方的に殺される。

 人を即座に石化させるマジックアイテム『蛇の眼』、石像で生み出したハイブリッド・フレッシュゴーレム、それを利用した迷宮から脱獄するための研究。

 これまでの成果が、全て無と化した。


 これまで自らを強者と信じて疑っていなかったクリオプレケスにとって、それは耐え難い屈辱と恐怖を与えていた。


(警戒すべきは、奴のユニークスキル! あの攻撃力は尋常ではない。奴に触れられれば、今度こそ儂は全身をバラバラにされて即死するじゃろう)


 実を言うと、クリオプレケスはなぜ自分が蘇ったのか、正確に把握していなかった。

 気付いたときにはケルベロスの死体を器として、上半身だけを動かせる状態になっていたのだ。

 クリオプレケスは与えられた・・・・・ケルベロスを使役する際、確実に制御するために自らの骨片をケルベロスに埋め込んでいた。

 格上であるケルベロスを御するには、ある程度の代償が必要だったのだ。

 恐らくその骨片を媒介にして、支援者パトロンが何かをしたのだと予想はついたが……今の彼には、どうでもよいことだった。


(接近戦は避けるべき。ならば、儂が取るべき戦法は――)





(一人称視点)


「リリス! なるべく遠くへ! 攻撃に巻き込まれない位置に!」


「ッ! はいっ!」


 激戦が予想される場所に、これ以上リリスを留まらせるわけにはいかない。

 そして毒霧が立ち込めている以上、長期戦も出来ない。

 僕が取るべき戦法は一つ。接近して奴に直接接触し、【臨死解体ニアデッド】で即座に解体する!


「ケルベロス!」


 クリオプレケスが指示を出す。

 ケルベロスの真ん中の口が、毒炎を吐いた。


「【遠隔解体カットアウト】――三連斬」


 回避していては一手遅れる。

 最短ルートを突っ切るために、敢えて回避せずに迎え撃つ。


「うおぉ!?」


 放たれた三発の遠隔解体カットアウトは、一発が炎のブレスと当たって相殺し、残りの二発がクリオプレケス目掛けて襲い掛かった。

 奴は驚いたような声を上げて、大げさに距離をとって回避する。


 ……流石に仕留められないか。ブレスを相殺するので精一杯とは、やっぱり遠隔解体カットアウトにすると威力が大幅に下がるな。


「ハアッ!」


 疲労の溜まる足に活を入れながら、クリオプレケス目掛けて一直線に進む。


 その行く手を阻むように、黒い影が目の前に立ちふさがった。


「これは……」


「【影法師】! そいつを叩き潰せ!」


 ドッペルゲンガーともいうべきだろうか、ケルベロスの姿そっくりの巨大な影が現れ、その三つの顎で噛み千切ろうとしてくる。

 これは影法師のスキルで作り出した分身か!

 厄介だ、こいつに攻撃しても本体にダメージは届かないし、無視できる脅威度ではない。


「【解体】」


 噛みつこうと近づいてきた隙を突き、頭部の一つに直接触れる。

 途端、ケルベロスの影はブロック状に切り分けられバラバラになる。


 だが……目の前では、既に新たなケルベロスの影が二体、こちらを睨みつけていた。


「ヒャヒャヒャ――影共! 倒れている冒険者に・・・・・・・・・止めを刺せ・・・・・!」


「!」


 そしてケルベロスの一体が、倒れている冒険者に向けて雷のブレスを放った!


「【遠隔解体カットアウト】、間に合えッ!」


 咄嗟に放った遠隔解体カットアウトが、ギリギリのところでブレスを斬って、軌道を逸らすことに成功する。


 その間にも、他の頭が冒険者達に狙いを定めている。


「クソッ!」


 奴の狙いは瀕死の冒険者を狙う事で、僕に攻撃の暇を与えないようにしているんだ!

 外道の考えそうな事だ……確かに僕の力では、複数個所の攻撃に対処するのは難しい。

 遠隔解体カットアウトの連射は三発が限界、古城を解体した時のようにフルパワーを出すことも出来ない。他の冒険者を巻き添えにしてしまうからだ。


 かといって、他の冒険者も見殺しには出来ない……それは最後の手段だ。

 だったら。


「頼むよ、ソフィア・・・・


「ええ、任されたわ」



 頼もしい返事を聞いた瞬間――地面から現れた大量のゴーレムが、ケルベロスの攻撃から仲間の冒険者を防いだ。


「な――貴様は!?」


 クリオプレケスが狼狽したような声を出した。

 無理もない、殺したはずの相手が、ピンピンした状態で再び蘇ったのだから。


「あんたが石化事件の犯人ね? ――丁度良かった。私、犯人を見つけたら直接ぶちのめしてやりたいって、ずっと思ってたのよ!!」

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