第52話 vsケルベロス

本日連続更新の二話目になります!

◆◆◆

(三人称視点)


 ジェイコスの号令と共に、作戦は開始された。

 敢えてケルベロスの正面に立ったジェイコスは、爪や牙による攻撃を巧みな槍捌きでいなし、回避していく。


「――右の口! ブレス攻撃です!」


 リリスの感情探知による、攻撃の予測。

 これまでの戦いで何度も冒険者達を救ってきた。

 リリスの言葉を信じ、回避行動をとる冒険者達。

 その直後、ケルベロスの右の頭から氷のブレスが放たれるが、誰一人として犠牲者は出なかった。


「「「GWOOOOOO!!!」」」


 攻撃を回避されて苛立ったのか、続けてブレス攻撃を放とうとするケルベロス。

 だがブレスを放つのは左右の頭二つのみ。

 これまでの戦いでも、ケルベロスはブレスを放つとき、決して三つの頭全てを使おうとしなかった。

 自由に動ける頭を常に残しておき、敵のカウンターに備えているのだ。


「右と左! ブレスです!」


 二つの頭から炎と雷のブレス。同時に毒霧が放たれる。

 高濃度の毒霧にジェイコスはケルベロスから一旦距離を取る。

 その隙にケルベロスは首を左右に振り回し、広範囲をブレスで焼き尽くした。


「ぐわあああ!!?」

「畜生! お前らリリスちゃんだけでも守れよ! リリスちゃんがやられたら今度は避けられないぞ!」


 リリスの目の前で、冒険者達が盾になっていく。

 その光景を見るたび、リリスは泣きそうになってしまうが、必死で堪えた。

 この場の誰も、まだ戦いを諦めていないからだ。


「クソッ、こっちを見ろ化け物!」


 ジェイコスや他の前衛役が注意を引き付けるため、攻撃を仕掛けたりステータスを覗くなどをする。


 しかしケルベロスはそれらの挑発を意に介さず、続けてブレス攻撃の準備に入った。

 ケルベロスもこれまでの戦いで、冒険者達の動きを観察してきた。

 そして分かったことが一つ。後衛に控えているサキュバス――リリスこそが、彼らの生命線だという事。


 ケルベロスはリリスを集中的に狙うため、邪魔な前衛を爪で払いながらブレスを仕掛ける。


「左! またブレスです!」


「リリスちゃんが狙われてるぞ!」

「避けろ!」


 他の冒険者達も、ケルベロスがリリスを狙っていることに気付く。

 リリスもそれを察知して場所を移動し、ギリギリのところでブレスをやり過ごす。


(さっきから左右の口ばかり! さっさと真ん中の口を開けなさいよ!)


 内心で毒づくソフィア。

 まさかさっきの作戦を聞かれていたんじゃないか、と不安がよぎり始めた時――ソフィアはギョッとして声をあげた。


「リリスちゃん!? 何してるの!?」


 後衛に陣取っていたリリスが突然、ケルベロスの正面へと走り出したのだ。

 当然、ケルベロスの注意もそちらに向く。わざわざ近づいてきてくれた獲物に対し、容赦なくブレスを浴びせかけようとする。


 ケルベロスから見てリリスは、真正面に位置する。

 そして考える。確実に攻撃を与えるためには、どの頭を使うのがベストか。


真ん中・・・っ!!」


「――ッ!!」


 リリスの指示。中央の頭によるブレス。

 彼女は中央の頭の口を開かせるため、自らを囮にしたのだ。


「その覚悟、受け取った!」


 リリスの意図に気付いたジェイコスは、ブレスが放たれる直前、持っていた槍を投擲した。

 向かう先は、ケルベロスの後ろ足。氷で作られた義足の部分だ。


「【衝撃拡散ショックウェイブ】!!」


「「「GYANN!??」」」


 スキルにより衝撃波を付与された長槍は、氷の義足を貫き、粉々に破壊した。

 体重の支えを失い、ケルベロスが体勢を崩す。中央の口から放たれたブレスは、あらぬ方向へと飛んでいく。


 だがそこで終わるケルベロスではない。中央の頭が隙を見せると、今度は左右の頭が攻撃を行う。

 片方の頭がブレスを放とうとするが――


「させるか!」


 だが、ソフィアの働きにより攻撃は阻止される。

 【錬金術】スキルにより、血と泥で作られたゴーレムが地面から生えてきて、その身をもってケルベロスの片方の頭を泥で包み込んだのだ。


 一時的に目と口を塞がれた頭は、ブレス攻撃を中断させる。

 そして残った最後の頭が、足踏みをして周囲を氷漬けにしようと目論むが。


「フン!」


 ジェイコスの槍による攻撃が、ケルベロスの前足を薙ぐ。

 刃は表皮に阻まれ届かなかったが、槍から伝播したスキルによる衝撃波は、ケルベロスの攻撃を阻止した。

 ジェイコスの相棒である長槍には、使用者のもとに自動で戻るという機能が付いていた。

 義足を砕いた槍がジェイコスの手元に戻ってくるのを、ケルベロスは予測できなかった。


 ケルベロスの全ての頭が沈黙する。

 一瞬の隙。


「今だっ!!!!」


 そして作戦通り、がら空きになった中央の口に向けて、一斉に攻撃が放たれた。

 ソフィアの氷魔術、リリスの氷魔術、ジェイコスの衝撃波、その他後衛の冒険者達。


 それらは寸分狂わずケルベロスの口内に入りこみ――直後、ケルベロスの体内で、複数の攻撃が炸裂した。


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