第40話 真っ暗なトンネルを抜けると古びた城がありました
ミュルドさんが辺りで警戒をしていた調査隊のメンバーを全員呼び戻し、作戦会議が始まった。
「サキュバスのリリスと冒険者ミュルドの尽力で、犯人の居所が掴めた。これより我々は影の道を渡り、さらなる追跡を行う。だが今回の敵は強力な魔術の使い手だ。必ずしも打破できるとは限らない。そこでここからは、隊を三つに分けて動かす」
指示に従って、調査隊が三つの班に分かれ始めた。
「まず、ここまでの調査結果を地上に報告する班。万が一俺たちが全滅した時の保険も兼ねている。この班は三人で行動してもらう」
「次に、ミュルドの護衛班。彼女は影の道を維持するためにこちらで待機する事になる。もし彼女の身に何かあれば、俺たち調査班は帰ってこれなくなる。退路を維持する重大な役割だ。この班はミュルドを含め、六人で行動してもらう」
「最後に、元凶の居所に突入する調査班。俺も含め、残りの十四人で行動してもらう。三つの班の中では、恐らく最も危険だ。悪いがリリス、君にはこの班に加わってもらう。ミュルドがこちらに参加できない以上、君の感知能力が頼りなのだ」
「っ! はい、分かりました!」
過酷な指示を出されたにもかかわらず、リリスは迷うことなく承知した。
そして僕とソフィアも、調査班に振り分けられた。
「リリス、君の事は僕とソフィアが守る。だから安心してほしい」
「シテンさん……えへへ、ありがとうございます。すごく嬉しいです!」
こんな状況にあっても、リリスは明るく笑みを浮かべてみせた。
「なお、元凶と遭遇した場合は激戦が予想される。俺が討伐不可能だと判断、または俺が死亡した場合は、直ちに退却し情報を持ち帰ることを最優先に行動してもらう。討伐は必須ではない。情報を持ち帰ることが最優先だ」
もし調査班が壊滅したとしても、誰かが生き残って情報を持ち帰りさえすれば、次の冒険者が元凶を討伐しにやって来てくれる。
ただ……今はAランク以上の冒険者は、ミノタウロスの件で掛かり切りだと聞く。
もし僕らが倒されてしまったら、すぐには追撃を出すことは出来ないだろう。
その間に犯人は逃げてしまうかもしれないし、被害者が更に増えるかもしれない。
可能であれば、ここで僕たちが元凶を倒しておきたい。
「……作戦は以上だ。俺たちの行動次第で、迷宮都市に降りかかっている異変の一つを解決できるかもしれない。各々の奮闘を期待する。――解散!」
ジェイコスの号令と共に、僕ら調査班は遂に、石化事件の犯人の下へ向かう事になった。
これまで数百人もの冒険者を、好き勝手に石像に変えてきた元凶。
必ず報いを受けさせてやる。
◆
「それじゃ、私はここで待ってるから。影の道を維持できるのは約二時間。それまでには帰ってきてね?」
ミュルドさんの激励を背に、僕ら調査班の十四人は、影で作られたトンネルを潜っていく。
「わっ、真っ暗闇です」
傍のリリスが驚いている。
無理もない。影の中は光源が全くない暗黒の世界だからだ。
僕は新しい防具の性能テストの時に、影の中に潜る機能を使ったので経験済みだが、そうでなければリリスの様に動揺していたかもしれない。
「
同じパーティーメンバーなこともあってか、ジェイコスさんは流石に慣れている様子だった。
他の冒険者の様に動揺したりもせず、迷うことなく先頭を歩いている……気がする。暗くて見えないけど。
「リリス、はぐれないように手を繋いでおこう。出口に着くまで離さないでね」
「は、はい! 是非お願いします!」
そう言うが否や、柔らかい感触が手のひらから伝わってきた。
ぷにぷにとしていて、すべすべもちもちで柔らかい。それに何故か甘い匂いが漂ってきて……
……いや、何を考えているんだ僕は。手を繋いでいるだけだろう。しっかりしろ僕。
邪念を振り払うように目の前の道に意識を集中させる。
地面も壁もさっぱり分からないが、腕を伸ばせば何か絨毯のような感触の、柔らかい壁に触れる。
これが影の道の壁なのだろう。これを伝っていけば立ち往生する事はないはずだ。
片手でリリスと手を繋ぎ、もう片手で壁を伝って歩いていく。
「わぁ……シテンさんの手の平、ほかほかであったかくて、気持ちいいです……」
「リリス、そろそろ暗闇には慣れてきた?」
「…………くんくん、すーっ、はーっ」
「リリス?? 何やってるの?」
「……ハッ、いえ大丈夫ですシテンさん何でもありません!」
何か妙な感触が伝わってきた気がするけど、真っ暗闇で何も見えない。
リリスの様子が気になりつつも、しばらく道なりに歩いていくと、やがて前方の光源のようなものが見えてきた。
「出口だ! もうすぐ敵の居所に着くぞ、気合入れろよ!」
先頭のジェイコスさんが喝を入れる。
僕も気を引き締めて、何が起きても対応できるように心の準備をする。
やがて、出口に辿り着いた僕らを待っていたのは……
不気味な灰色の空、枯れた大地、そして静かに佇む、ツタの絡まる古城だった。
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