第37話 リリスとお勉強、ステータスについて


 リリスとの契約が完了したあと、僕ら三人は狂精霊の核集めも兼ねて、リリスの戦闘訓練を開始した。


「あれが今回のターゲット、狂精霊だよ。冒険者ギルドからはDランクのボスモンスターに指定されてる。つまりDランク冒険者複数人での討伐が推奨されてるってことだね」


「す、すごく強そうです……」


 僕らは既に五十体以上の狂精霊を倒しているので、もはや緊張感など全く感じていなかったが、今のリリスにとっては、狂精霊は圧倒的強者に見えるのだろう。


「それじゃあ、早速訓練を始めよう。まずはそうだな、魔物と戦うときの基礎知識からかな」


 狂精霊に気取られない距離を保ちつつも、リリスにレクチャーを始める。


「魔物と戦う時、何よりも大事なのは情報だ。相手がどんな攻撃をしてくるのか、どんな種族特性を持っているか、どこが弱点なのか、どこに生息しているのか……そして、どんなスキルを持っているのか」


「な、なるほど」


「人間とは違って、魔物はスキルを必ず持っているとは限らない。でももしスキルを持っていたら、その魔物の脅威度は跳ね上がる。だからなるべく敵のステータスは確認しておくのが望ましい。そして相手の情報を手に入れる最も簡単な方法は……ステータスを見る事だ」


 僕は自分の眼を指差しながら、ステータスについての説明を続ける。


「迷宮の中でも外でも、全ての生物にはステータスが存在する。対象を目で注視すれば、誰でもステータスを確認することが出来る。きっとリリスにも出来るはずだ……試してごらん」


「は、はい!」


 言うが否や、早速僕の事を観察しだすリリス。

 くりくりと翆緑の瞳を動かして、僕の身体のあちこちを凝視しては、「むむっ」「んんー」と唸ったり、僕の顔を見て何故か赤面したりした。

 それを何度か繰り返したうちに、「あっ!」とリリスが突然声をあげた。

 同時に、胸の中をくすぐられる様な感覚がやって来た。僕のステータスを見ることに成功したのだ。


「で、出来ました! これがシテンさんのステータスなんですね……」


「うん。一つ注意としては、他の人のステータスを勝手に覗き見るのはマナー違反になるから、他の冒険者と出会った時は注意してね。最悪の場合敵対されるかもしれない」


「リリスちゃん、ちょっと時間が掛かったみたいだけど、もしかして慣れてなかった?」


 傍らで様子を窺っていたソフィアが心配そうに声を掛けた。


「そうなんです。実は、ステータスを見るのもあまりやったことが無くて……」


「それじゃあ、まずはステータスを素早く見れるように練習をしようか。最初は難しいかもだけど、コツを掴めば簡単だよ」


「じゃあリリスちゃん、今度は私のステータスも見てみてよ」



 今度はリリスがソフィアを注視し始める。今度はすぐにステータスを見れた様だ。早くもコツを掴んだらしい。


「じゃあ次はステータスを見るときの注意事項かな。ステータスを見ると相手の情報が分かるからとても便利だけれど、だからといってむやみにステータスを見れば良いってものじゃない、特に魔物相手には。どうしてか分かる?」


「ええと、相手はステータスを見られたことに気付いて、襲ってくるかもしれないから……ですか?」


「うん、その通り」


 僕も一度リリスのステータスを見たことがある。ステータスを見られる時の、胸の中をくすぐられるような感覚には覚えがあるはずだ。


「ステータスを見ると、相手はほぼ確実に気づく。おおよその方向も伝わるから、魔物相手だとステータスを見た瞬間に、敵と認識されて襲い掛かってくる可能性がある」


「確かステータスを見るというのは、相手の魂に干渉して、情報を視るという意味なの。だから生物としての本能で、ステータスを見られた事を察知できる……って、どこかで聞いたことがあるわね」


 ……なるほど、それは知らなかったな。

 生物が死亡するとステータスが表示されなくなるのも、そういう原理なのかもしれないな。


「他にも欠点はある。ステータスを表示すると視界が塞がるから、敵の奇襲なんかに対応しにくい。それにステータスを見るときは意識を集中させる必要があるから、無防備な隙を晒してしまう。だから敵のステータスを見るときは、安全を確保した状態が望ましいんだ」


「な、なるほど」


「……説明ばっかりでもなんだし、ちょっと実践に移ろうか。ほら、あそこの狂精霊を見てて」


 リリスが狂精霊に視線をやったのを確認して、僕は狂精霊のステータスを覗き見た。



▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

【狂精霊】 レベル:20

性別:なし 種族:精霊


【スキル】

〇剣術……剣術に高い適性を持つ。剣を使った動作全般に身体能力の補正を与える。


【備考】

なし

▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲



 ……剣術スキルを持っている様だが、手足のない狂精霊にとっては完全に死にスキルだ。全く脅威ではないのでいつも通り瞬殺する事にする。


「【遠隔解体カットアウト】」


 狂精霊がこちらの存在に気付くまでわざと待ってから、遠隔解体で核を切断した。

 Dランクボスモンスターは何も出来ないまま一撃で倒された。


「い、一撃で!? もしかしてシテンさんって、凄く強いのでは!?」


「あれは弱点を把握していたから楽に倒せたんだよ、他の魔物じゃこうはいかない。それより、狂精霊が一瞬こっちに意識を向けたのに気付いた? あんな風にステータスを見て、わざと敵の気を惹きつける戦い方もある。欠点も使い方によっては武器になるってことだね」


 狂精霊の核を回収すると、三人で運搬用ゴーレムに飛び乗り移動を開始する。

 ステータスについてのレクチャーはここまで。ここから次の狂精霊の下に辿り着くまでは、ソフィアと魔術の勉強だ。


「それじゃあさっきの続きで、一節詠唱の練習から始めましょうか。色々な属性の魔術を試してみて、どれがリリスの適性に合っているか確認するわよ」


「はい! よろしくお願いします!」



 僕とソフィア、お互いの知識をリリスに教えながら、狂精霊の核を集めて石化解除薬を生産する。

 そんな日々が数日続いた後、ついに冒険者ギルドから連絡が届いた。


 調査隊のメンバーが決まり、いよいよ石化事件の犯人を調査する事になったのだ。

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