第5話 ボスモンスターをバラバラにしてみる

 余裕ぶってたさっきまでの自分をぶん殴ってやりたい。


「くそっ! なんでボスモンスターがこんな場所に居るんだ!?」


 現在僕は絶賛逃走中である。追いすがってくるのは、青白い発光体のような魔物、【狂精霊】。

 ついさっきの事だ。1階でコボルトを狩りまくって、そろそろ下に降りてみようかなと考えていた矢先、突如コイツが現れ襲ってきたのだ。

 本来狂精霊は、迷宮の1階に現れる魔物じゃない。もっと深い所の決まった場所にしか現れないボス級モンスターなのだ。

 なぜこんな場所に居るのか、今は考える余裕はない。次々と放たれる魔法攻撃を必死で回避しながら、逃げ惑うので精いっぱいだった。


「だ、誰かー! 誰か居ませんか!?」


 大声で叫びながら走り回るが、返事はない。

 1階なら他の冒険者が誰かいると思ったんだけど、運が悪いのか近くには居ないらしい。


 もう十分くらいは走り回った気がするが、未だに追跡を振り切れない。移動速度は僕とほぼ互角で、遠距離から魔法攻撃をバンバン飛ばしてくるので、避けながら逃げなくちゃいけない。

 何より、実体を持たない魔物のため、前の勇者敗走の時みたいに瓦礫で足止めすることが出来ない。すり抜けて何事もなかったかのようにこちらを追いかけてくるのだ。



「こうなったら……やるしかないのか」


 叫びながら走り回ったせいで、そろそろ体力が限界に近付いてきた。

 このままではいずれ追い付かれてしまうだろう、ならばいっそ戦った方がまだ生き残れる可能性があるかもしれない。


 逃げ回るのを止めて、狂精霊に正面から向き直る。

 薄暗い洞窟の、少し開けた広間。辺りには魔物の姿もなく、僕と狂精霊の一対一。

 流石に僕も、ソロでボスモンスターを倒した経験はない。


「フー……」


 呼吸を整えながら、解体用ナイフを構える。

 幸い、僕は非実体モンスターへの攻撃手段を持っている。精霊系モンスターには精霊核とよばれる心臓のような部位があるはずだ。そこを狙えばチャンスはある。


「――――!!」


 狂精霊は、その名の通り狂ったように魔法をこちらに乱射してきた。

 地を這うように走り回り、攻撃を躱す。まるで青い火の玉に見えるその魔法攻撃はそこかしこに命中し、迷宮の地面に穴を開けてしまった。

 これほどの威力なら、碌な防具を付けていない今の僕では、一発当たるだけで戦闘不能になるだろう。


「【遠隔解体カットアウト】!」

 攻撃を避けながら、狂精霊に向かってナイフを振るう。

 僕の解体スキルは、非実体の物質であっても、相手を捉えることが出来れば解体することが出来る。

 ナイフの軌跡に沿って生まれた斬撃が、狂精霊に向けて放たれるが……一瞬動きを止めただけで、すぐに嵐のような攻撃が再開した。


「クソッ、外した!」


 今の攻撃は精霊核に命中していなかった。本体である核に当てなければ、ダメージを与えることは出来ないようだ。

 あの発光体のどこかに核があるはずだが、この距離では場所の特定は難しい。

 遠隔解体は体力を消費するため、これ以上乱発は出来ない。接近して確実に狙いを定めるしかない。


 ……よし、あの作戦でいこう。


「【解体】!」


 地面に手を触れて、解体スキルを発動。直接接触すれば、最小限の体力消費で、最大級の効果を得られる。

 スキルの効果が発揮されたところに、僕に目掛けて狂精霊の魔法攻撃が殺到する。

 ギリギリまで引き付けて回避すると、攻撃のいくつかは地面に命中した。

すると着弾したところから、大量の砂煙が巻き散らかされた。

 そう、僕はさっき解体スキルを使った時、地面を砂状になるまでバラバラに解体しておいたのだ。そこに魔法攻撃が勢いよく着弾し、大量の砂煙が舞い上がったという訳だ。


 あっという間に辺り一面砂煙に包まれてしまい。狂精霊はあらぬ方向に魔法を乱射し始めた。砂煙で目潰し作戦はどうやら成功のようだ。奴は僕の姿を完全に見失っている。


 一方で、眩しく光る狂精霊の姿は、砂煙の中でも僕からはよく見えた。

 足音を殺して、ゆっくりと狂精霊に近づく。そして、それを見つけた。


「―――ッ!!」


 発光体の中にある、目玉のような球体。これが精霊核に違いない。


 こちらの接近に気づいたのだろう。ギョロリと、目玉が僕の姿を捉えた。

 だがその時既に、僕は精霊核の位置を特定していた。

 直後に僕に向けて放たれる魔法攻撃。だがもう遅い。


「【遠隔解体カットアウト】!」


 スキル名を宣言。

 寸分狂わず放たれた斬撃が、迫りくる魔法ごと、精霊核を真っ二つに切り裂いた。


「ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛――――」


 狂精霊は不気味な悲鳴らしき声をあげて、身悶えるように激しく明滅した。

 やがてロウソクの火が消えるように、フッ、と光を失い、それきり二度と輝くことは無かった。

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