53 反撃への可能性

「俺は何度も何度も淵源の理の力を利用して俺自身をこちらの世界に転移させてきた。その時に少しづつ根源龍の力が蓄積していったんだ。俺たちの今までの記憶を遡ると、回を重ねるごとに力が強くなっているのがわかった。それが何よりの証拠だろう」

「だが仮に力が蓄積されていったとしても、それを制御しきれなかったら暴走して淵源の理になっちまうんじゃないのか?」


 いくら強力な力を使えるとは言え、まともに扱えない……ましてや体を乗っ取られてしまうような力はとてもじゃないがまともに使えたもんじゃない。


「確かにそうだろう。だが今回は違う気がするんだ。こうして情報の共有が出来るようになったのもそうだが、何か今までの周回とは違う気がする。直感でしか無いけどな」

「はあ……どちらにしろやるしかねえんだろ。で、そのやり方は」

「簡単だ。まず負の感情を爆発させろ。そして溢れてくる力を制御する。それだけだ」

「そんなんで良いのか? と言うか本当に大丈夫なのか……?」

「失敗すれば即座に暴走して終わりだろう」


 おいおいふざけんなよ。そんなん作戦としては破綻しちまってんじゃねえのか?


「そう深く考えるな。どちらにしろ成功しなければパワー不足で奴らには勝てないんだ」

「だからどうあっても成功させろと? 無茶言うぜ」

「無茶なんて今までにもして来たじゃ無いか。それで何度ピンチを抜けて来たと思っているんだ?」

「ああ、そうだったな……」


 確かに妖魔との戦いは無茶ばかりだった。それで何度も危機を潜り抜けてきたってのも事実だ。ああクソッ仕方がねえ。やるしかねえんならやってやるよ。


「さて、伝えるべきことは大体伝えたな。他に何か聞きたいことはあるか? 仮に失敗したとして、いつまたこうして情報の共有が出来るのかはわからない。聞きたいことは今の内に聞いておくと言い」

「そうか。なら、一番気になることを聞いて良いか」

「何だ?」


 この世界に来てから一番気になること……そんなの一つしか無いぜ。


「何故、俺は女になっているんだ」

「……ああ、そうか。確かに気になるよな。アンタはやけに気になっているようだが、答えを知ってから改めて考えてみると別に変な話では無かった。ただ単に獣人の女性というのがこの世界において適していただけだ」

「適していたってのは?」

「この世界の人族の過半数は獣人が占めている。そしてその中でも女性の方が比率が高い。他の世界からの迷い人と言う一種の異物である俺を、この世界は獣人の女性として変換することで影響を減らしたんだろう」


 影響を減らした……か。確かに考えてみればそうだな。世界に数人しかいない存在にするよりかは、大量に存在している内の一つにした方が世界への影響は少ない。目の前の俺の言う通り、改めて考えて見りゃあ当然と言えば当然のことだな。何と言うか思っていたよりも深い意味とかが無くて残念だが、単純さと言う観点で言えばこっちの方がわかりやすくて助かるぜ。


「とりあえず理由はわかった。それと今の話に関してだが、俺は女性の体なのに何でそっちは本来の姿になっているんだよ。せっかくならこの謎空間くらいでなら俺の姿を戻してくれたって良かっただろ」

「それは無理だ。この空間は一種の精神世界でな。精神性が姿をとして反映される。俺は今までの佐倉井翔太の集合体だから高い解像度で本来の姿を構築できたが、今のアンタは違う」

「違うってそりゃ確かに俺は一人しかいねえがよ……」

「そう言う意味じゃねえ。今のアンタは心が女になりすぎているってことだ」


 ……ああ、面と向かってそう言われると忘れようとしていたのに思い出しちまうじゃねえか。


「精神が体に引っ張られている。そしてそれは時間が経つにつれて強くなっている。今までの記憶からもわかっていることだ。振る舞いや感じ方に女性として性質が現れている」

「あぁー言うな言うな。こっちだってわかってんだよ。このままだといつか完全に俺が俺じゃなくなっちまうんじゃないかって何度も思ったし考えたさ」

「そうか。ただこれは根源龍の力を完全に操れるようになれば解決するだろう。世界の根源を操れば元の体に戻ることは出来なくとも精神性の保守は出来るはずだ」

「……それは本当か?」


 良かった。希望が見えたぜ。正直その情報が一番ありがたいかもしれねえ。って、結局体は元には戻らねえのかよ。


「おっと、そろそろお別れの時間か」

「どうしたんだ急に」

「どうやらこの空間もずっと展開できるわけでは無いようだ。そろそろこの空間は消失し、アンタは目覚めるだろう。……俺たちの代わりにリーシャを、世界を頼んだぞ」

「ああ、わかった。絶対に何とかして見せるさ」

「健闘を祈るぜ」


 視界がぼやけて行く。そろそろ体が目覚めるってことか。……根源龍の力を制御できるかはわからねえ。わからねえけど、絶対に成功させるしかねえんだ……!


――――――


「……はっ」


 見覚えのある天井。それにこのベッドと布団の柔らかさ。目が覚めたってことか。……今までのはただの夢だったのか、それとも本当に過去の俺からの贈り物だったのか。……確かめるしかねえな。


 確か負の感情を爆発させる……だったか。


「……ぬぐぐっ」


 怒り、恨み、悲しみ、嫉妬、考えれば考えるだけ色々と出ては来る。だがどれも中途半端に終わっちまうな。とは言え、何となく奥底で燻っているものの存在は確かめられた。やっぱあれはただの夢だったってわけじゃあねえんだな。


「おはようございます、ショータ様」

「おはようリーシャ」


 先に起きていたリーシャが部屋へと入って来た。日の位置からして今は昼前くらいだろうか。ということは結構寝ていたんだな。


「ショータ殿、いるか!? 緊急事態だ!」


 っと極水龍か。やけに慌てているが……そうか、『今日』なんだな……。


「今行く!」


 外に聞こえるように大きめに返事をし、服も着替えずに極水龍の元に向かった。


 極水龍の話した内容は予想した通り天空都市が落とされたというものだった。とは言えそれが罠だってのはわかっている。問題はどうやって極水龍に伝えるか……だな。未来予知しました……とも言えないしな。仕方がねえ、全部伝えるか。


「落ち着いて聞いて欲しい。まず、その通信は罠だ。奴らが俺をおびき出すためのな」

「何だって!?」

「信じてもらえるかはわからないが、それが分かった理由を話す」


 極水龍についさっきまでの謎空間でのことを話した。これを信じろと言うのも無理がある話だとは思うが、それでもここは何としてでも信じてもらうしか無いんだ。


「……にわかには信じがたいが、ショータ殿が今この状況で嘘を言う必要も無い。この国が危うくなれば、ショータ殿にとってはメリットが無いどころかデメリットとなるのだからな。しかし……いや、信じて良い……のだな?」

「ああ、信じてくれ……!」


 極水龍の目を見てそう答えた。


「……わかった。ショータ殿を信じよう」

「ありがとう……!」


 極水龍は信じてくれたようだ。説明と説得だけで信じてくれたってよりかは、今までの俺の積み重ねが功を奏したって感じだ。これがまだここにやってきてすぐの頃だと考えると……ぞっとするな。


 ひとまずこれで奴らの侵攻に対して先に動けるようになった訳だ。前回の俺はまんまと罠にはめられて王国も滅茶苦茶にされちまっていたが、今回はそうはいかねえ。奴らを完全な状態で迎え撃つ。


 ……と行きたいところだが、まだ根源龍の力を制御できていないんだよな。こいつをどうにかしないと最終的に俺たちに勝ち目は無い。どうにかしないといけないんだが……そんな余裕は無さそうだ。


「あれは……大量の魔物か?」

「……来たか」


 奴らはもう既にそこまで迫っていた。

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