52 真実を知る
「いや、世界を繰り返しているってのは少し違うか。世界を作り替えているってのが正しいかもしれないな」
「どちらにしろよくわからないんだが……」
「わかった。なら一から説明しよう。ひとまず元の世界とこの世界の関係から説明するか。俺たちが元々いた世界と転移後の世界に直接的な関係性は無い。だが淵源の理と化した最初の俺が世界の根源に触れたことで、二つの世界に繋がりが出来てしまった。違う世界の情報を持った存在が世界の根源に触れたのが不味かったんだろうな。それ以降俺たちは納得のいく結果を得られるまで、この二つの世界の決まった時間の流れを果てしなく繰り返すこととなった。ここまではわかるか?」
「お、おう」
……目の前の俺の言葉をまだ完全に信じることは出来ねえが、言っていること自体は理解できる。ひとまず最後まで聞いてから判断するしかねえか。
「次に淵源の理についての話だ。奴の正体だが、正確には俺であって俺では無い物だ」
「そいつはどういう意味だ……?」
「奴は確かに俺たちの、佐倉井翔太の成れの果てと言える。しかしそうなったのは元はと言えば一番最初の俺が根源龍に飲み込まれたからだ。その結果、根源龍の持つ負の感情と俺の負の感情が混ざり合った怪物が生まれてしまった」
そうか、確かにさっきまで見えていた記憶では俺はリーシャを失ったことで自我を失っていたな。負の感情による暴走で根源龍に乗っ取られているってのなら確かに俺であって俺では無いとも言える……のか?
「そうして淵源の理と化した俺はただひたすら負の感情によって暴走し、この世界を破壊し尽くした。だがそれでも憎悪は収まらなかったようでな。奴はいつしか俺たちの元居た世界をも標的にしていた。それに厄介なことに根源の力は世界を跨ぐことすらも可能にしていたんだ」
「それで奴は俺たちの世界に来たってことなのか。でもそれだけの力がありながら何故妖魔なんてものを使っていたんだ? 世界を破壊出来る存在にしてはやり方が回りくどいにも程がある気がするんだが」
少なくとも淵源の理が前線に出て騒ぎを起こした事は無かったはずだ。世界を壊せる力がありながら直接手を下さないのはどうにも納得出来ねえ。
「そう思うのも無理は無いな。だが理由は単純だ。奴は力の大部分を失っていた……それだけの事だ。奴は世界を跨ぐ時に膨大なエネルギーを消費していたんだ。そのおかげで俺たちの世界に現れた時には既に根源龍としての力はほとんど残っちゃいなかった」
「それで奴は直接破壊することは出来ねえから妖魔を生み出していたってのか」
「その通りだ。その妖魔だが、奴らはこちらの世界で俺たちが手に入れた能力を元にして生み出されている。心当たりはあるな?」
……目の前の俺の言う通り心当たりはある。記憶でもそうだったが、既に持っているはずの能力がこの世界の魔物から手に入った。ただの偶然だと思っていたが、そうじゃ無かったってことか。この世界の魔物達の方が能力の本来の持ち主だったってことだな。
「そんな妖魔が元の世界を蹂躙するのは想像に難くないだろう」
「ああ。一般人じゃ手も足も出ねえはずだ」
「そうだ。奴らは人々を殺し、世界を滅茶苦茶にしようとした。だがある時、奴らを倒す者が出始めた」
「そんなことが出来る奴が……いや、いる……。獣宿しの一族だな」
獣宿しの一族……妖魔と戦える存在であり、古来より妖魔と戦い人々を守ることを目的としてきた一族。
「その通り、獣宿しの一族だ。正確には後々獣宿しの一族になる存在だな。彼らは名のある陰陽術師や武将だった。人の身でありながら妖魔と互角に戦っていた。思えば彼らが居なければ俺たちの世界も終わっていたのかもしれないな」
「ちょっと待ってくれ。いくら陰陽術師や武将が強くたって限界はあるだろう。怪物を倒したって話もあるがあれはただの伝承……いや待て」
日本には鬼や大ムカデを倒した逸話が多く残っている。獣宿しの一族でも無い奴らがそんなこと出来るわけないって思っていた。ただの絵空事だと。だがもし彼らが獣宿しの一族の先駆けとなる存在なのだとしたら……。
「気付いたか。俺も真実に気付いた時はビビったさ。まさか伝承に伝わる鬼や大ムカデなどの話が俺たちに深く関わっていたなんてな。……伝承に伝えられているそういった怪物たちは妖魔であり、それを倒す者たちは獣宿しの一族の先駆け。確かにそれなら何の問題も無い」
「だ、だが……それならなんでその情報が俺の代にまで伝えられていないんだ……?」
仮にここまでの話が真実だとして、それだけ重要な情報が何故語り継がれてこなかったのか。どこかの代で情報の伝達が途絶えたのか?
「それも簡単な話だが、どこかの代で意図的に情報を絶っただけのようだ」
「何故そんなことを……」
「変な奴らに目を付けられたってところだろうな。アンタが俺ならわかると思うが、アニメとかで特異な能力を持つ者が実験用モルモットにされるのあるだろ」
「ああ、あるな。……なるほど」
だいたい実験材料にされて酷い目に遭う奴だな。確かに言われてみればそうだ。それに俺も出来るだけ目立つなとは言われていたっけか。ただ単に敵に有利になる情報を流すなって意味だと思っていたが、そっちに対してのもんでもあったのか。
「俺たちの持つこの能力はあまりにも異質な物だ。それを良く思わない者も当然いるし、同じように私利私欲のために使おうとする者だっている。そんな輩から少しでも力の存在を隠すために、獣宿しの一族は裏世界の存在となったようだ」
「そう言う経緯があったってんならまあ、わからんくはねえな」
「妖魔についてはだいたいそんなものか。さて、そろそろ本題に入ろう」
「本題?」
「この後のアンタの事だ」
そう言って目の前の俺は薄い板のような謎の物体を呼び出し、その物体に映像を映し出した。この謎空間だからこそ出来るもんなのだろう。
「前回の俺もリーシャを救うことは出来ず、負の感情に飲み込まれて暴走してしまった」
「らしいな。だが、前回で駄目だったのに俺が今からどうこう出来るのか?」
俺は温泉都市での一件が終わって王国に帰ってきたところだ。さっきの記憶から考えるとこの後に極雷龍からの通信が来るみたいだがそれは罠ってことで良いんだな。問題はその後だ。仮にこれが罠だとわかってもその後の根源龍と深淵龍を相手にして勝てる確証は無い。と言うより……。
「極雷龍の通信が罠だとわかっていながらどうして今までの俺たちは罠にかかっていたんだ?」
「そのことか。何か勘違いしているみたいだが、今までの俺はこうして過去の俺から情報を得てはいない」
「……何?」
「こうして俺同士で情報の共有が出来ているのは今回が初めてという事だ。何故今回に限って急に出来るようになったのかはわからない。だが仮説は立てられる。大きく分けて原因は二つになるだろう。一つ目は何度も何度も繰り返す内に俺の記憶が蓄積されていき、このタイミングで発現したというもの」
記憶の蓄積か……。可能性としてはありそうだが、今急に起こるもんなのか? 何かしらの予兆やきっかけがあるんじゃねえのかね。
「もう一つは前回の俺が根源龍を一度倒したことだ。その際に体内に存在する石を破壊したのも関係しているかもしれない」
「……それじゃね?」
「あくまでも可能性の話でしかないけどな。まあ、どちらにしろこうして情報の共有が出来るのは圧倒的に有利であることに変わりはない。罠の事も根源龍の弱点も最初から知っているのは大きい」
「確かにそうだな」
「……だがそれだけじゃ足りないもの事実だ」
……まあそうなるか。前回の俺は倒したはずの根源龍にリーシャを喰われている。つまりは弱点がわかっているだけで勝てる程、この戦いは優しいもんでは無いってことだ。
「そこで、一つの可能性に賭けてみることにした」
「何だ?」
「アンタの中に眠る根源龍の力を発現させる」
「……は?」
俺の中に根源龍の力があるって言ったのか?
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