39 方向性の違い
「もう限界だ! 代表を出せ!」
「なんだ!? と、止まれ! この先には通さん!」
一人の獣人が厳重に守られた部屋へと押し入ろうとしていた。その表情と行動から、彼が怒りの感情を持っているのは明らかだ。
「これ以上妙なことをするのであれば、我々も手段は選ばんぞ!」
「まあ良い。少し中で話をしようじゃないか」
「だ、代表!?」
外での騒ぎに気付いたのか、部屋の中から現れた獣人はそう言った。部屋の警備を行っていた者の反応からも、この人物が暴れていた獣人の言っていた「代表」であることは間違いない。
「良いのですか!?」
「構わん。どうせ、いつかはこうなるだろうと思っていた。来なさい。ここで話せる内容では無いのだろう?」
代表と呼ばれた獣人はもう一人の獣人を連れて部屋に入っていった。部屋の中は殺風景であり、最低限の生活を送るための物しか無いといった印象だ。その光景に、獣人は驚いていた。
「驚いたな。まさかこんな部屋でずっと暮らしているのか?」
「ははは、そのまさかだよ。野望を果たすまで我々に安息は訪れない。それを忘れないために、私は日々ここで生活している。あの頃のような……虐げられた日々を忘れないようにね」
遠い過去に向けたような目をして、代表はそう語った。
「そうだったのか。その点では、俺は少し代表のことを勘違いをしていたのかもしれないな。……だが」
獣人の怒りは依然変わりない様子だった。
「関係ない人にまで危害を加えるという代表の戦い方には、俺は賛同できない」
「ほう」
「天空都市を襲った時も温泉都市での生物実験の時も、多くの民間人を犠牲にした。こんなやり方、間違っている!」
「間違っている……か」
代表は少し困ったような表情で獣人の方を見た。
「君をボロ雑巾のように扱っていたのは誰だ? 人間だろう?」
「ええそうですよ。でも、それはあくまで一部の人間に過ぎない。人間の中にはまともな奴だって大勢いる」
「ふむ、確かにそうかもしれない。しかしだね。彼らが人間であることに変わりはないだろう。そうである以上、潜在意識の中に本能的な差別意識があってもおかしくは無い。それに……」
代表は獣人の言葉を聞き入れながらも、自分の考えを語り続けた。
「戦が起こった時に前線で戦う者は戦士だろう。当然戦士で有れば戦で死ぬこともある。戦いとはそういうものだ」
「……急に何を?」
「ではその前線で戦う者に対して補給を行う者はどうだろうか。それもまた戦士と言えるだろう。前線へと赴き、物資を届けるのは命がけの作業だ」
獣人の疑問に答えることなく、代表は話し続ける。
「ではその物資を作る者たちはどうだ。戦うための剣や鎧を作る者たちは? 戦士たちが食べる食料を作る者たちは? 戦士たちが住む建物を作る者たちは?」
「一体何が言いたいんだ!」
「無垢なる民間人というものは存在しないということだ。一見関係ないようなものであっても、最終的に我々の壁となり得る。であれば彼らもまた戦士なのだ。命を落としたとしても致し方のない犠牲だとは思わないかね」
「な、何を言っているんだ……?」
代表の言葉に、獣人は一瞬理解が追いつかなかった。しかしそれも当然である。彼は自分は迫害されている獣人の権利を守るために戦っているのだと信じていた。だが代表の言うことが真実ならば、異常な行動をしているのは自分たちの方なのだ。
「それに、君は何か勘違いをしている」
「なに……?」
そんな獣人に追撃を与えるかのように、代表は続ける。
「我々は一部の権力者や差別主義者と戦っているのではない。これは権利を求める獣人とその他種族との戦争なんだ。故に、我々は奴らを壊滅させなければ勝利とは言えない。奴らを少しでも残せば、またいつか我々が差別される日が来る。そうならないために、例え民間人であっても我々の敵なのだ」
「そんなの、獣人以外を迫害するのと同じだ……!」
「迫害する側で無ければ迫害される。君も良く分かっているはずだ」
「くっ……だがそれでも、俺は代表のやり方は見過ごせない!」
獣人は懐からナイフを抜き、代表へと飛び込んだ。
――――――
「ショータさん、ギルド長さんが探してましたよ」
「そうか、こんなところまでありがとうな」
久々に極水龍との戦いも終わってこれから家に戻ろうってところで、リーシャが伝えに来た。国の中でもかなり辺境の場所で
「それと、水龍様も一緒に来て欲しいとのことです」
「む、俺もか? ……となると龍種洗脳の件か」
「俺もそう思う。とにかく急いだほうが良さそうだ。リーシャ、家まで送っていくから俺に……」
「いえ、私は大丈夫ですのでお二方は急いで向かってください。なんだかその、嫌な予感がするんです」
「……そうか。わかった」
マナツカミとの戦いで魔力強化が出来ない時の問題点が浮き彫りになったからな。シンプルな能力強化のためにもう少し時間をかけて極水龍と調整しておきたかったが、また別のところに向かわないといけないかもしれねえな。
ギルドに向かうと、俺と極水龍の二人はすぐさま奥の部屋に通された。
「急なことで申し訳ない。だがあまり悠長にも出来なさそうだったのでな。早速本題になるのだが、組織の幹部と思われる者がついさっきこの国に訪れたのだ」
「何だって!?」
組織の幹部が直接この国に来ただって? だがそんな気配はしなかったし、あれから妙なことも起こってはいない。一体何が目的で……。
「何やら大怪我を負っているようでな。今は城で様子を見ているが、これが罠である可能性もある。一応国王様の尋問魔法を使った限りでは問題は無さそうだが、本人の意思とは関係ないものが動いているかもしれないのでな。念のために注意しておくのは大事だろう」
「そうですね。念のため俺も一度会っておきたいと思います。その者の所に向かうことは可能でしょうか」
「うむ、元よりそのつもりで呼んだのだ。後で伝えるよりも直接聞いた方が速いだろうからの」
ギルド長に連れられてその組織の幹部と言う者がいると言う部屋へと向かった。にしても組織の幹部か。一体どれだけ悪逆非道な奴なんだ。事と次第によっては手が出ちまうかもしれねえぜ。
「ここだ。……入るぞ」
ギルド長が部屋の扉を開けた。すると中からは薬の匂いと血の匂いが混ざった空気が溢れ出て来た。大怪我を負っていたと言っていたが、その言葉の通り部屋の中には包帯でグルグル巻きになった一人の獣人が座っていた。
「……アンタがショータか。話には聞いている。組織の中でも有名だぜ。……主に悪い方で、だがな」
「そうか。まあそんなことは良いんだ。アンタが幹部ってのは間違いないんだな?」
「ああ。と言っても、元幹部……だがな」
元幹部? ってことは今はそうじゃねえってことか?
「さて、どこから話したもんか。まずは俺がこうなった理由から話すとするか。俺はここからずっと遠くの村で生まれたんだが……」
「ちょっと待て、どこから話す気だ?」
コイツ、さては生まれてから組織に入った経緯までを全部話す気じゃねえだろうな。
「冗談はそれくらいにしておくか。俺がこうなったのは、組織の代表を殺そうとしたからだ」
「……代表を?」
幹部ともあろう者が何故代表を殺そうとした? 考えられるとしたら、幹部からさらに上へと成り上がろうとして……とか良くあるアレか?
「驚いているようだな。まあ無理は無い。どうせならもっと驚かせてやろう」
何だ、何をする気だ?
「頼む、ショータ。代表を……組織を潰してくれ」
「……は?」
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