37 マナツカミ
さっきは煙幕でまんまと逃げられちまったが、何とかたどり着いたぜ。この少しの間にマナツカミの近くにまで逃げられていたのは予想外だったが、どちらにせよこのクソデカ生物もどうにかしないといけないからな。一緒に叩けるんならそれはそれで問題はねえ。
「もう追いついたのか。自らこのマナツカミの餌食になりに来たとは、滑稽なものだ」
「ああ? 俺に魔法の無効化は効かねえって言っただろうが。アンタだって自分の目で見たはずだぜ」
「確かに見たさ。だが、マナツカミの力がそれだけだと思っているのか?」
「なに?」
一体何をする気だ……。一応、極氷龍には少年を任せて安全な場所へと避難させた。龍種である以上、彼女がもう一度洗脳されないとも限らないしな。つーわけでもし何かあっても俺一人で対処しねえといけないわけだが、魔法の無効化以外にも何かして来るとなると……。
「マナツカミ、今こそその力を見せてやれ!」
「グォォォォォォ……」
「な、何をして来る……!?」
マナツカミとかいうクソデカ生物が少し光った瞬間、俺の獣宿しは解除されていた。
「な、何が起こった……?」
「はははっ! いくら君の能力でもマナツカミの魔力霧散には勝てなかったようだな! ただまあ、その、なんだ……言いたいことがある。何故、裸になっている……?」
「……は?」
こいつ何を言って……は!?
何故か、俺の服は消えていた。
「お、お前何をしやがった!」
「知るか! それはこっちが聞きたいところだ! なんで魔力を霧散させて裸になっているんだ!?」
魔力の霧散……そうか。俺の服は魔力で編みこまれているから、奴の言った魔力霧散が俺の蝕命と同じような能力なら服を維持していた魔力が霧散しちまって無くなってしまうって訳かふざけんな!
「なんて言う事しやがんだてめえ!」
こんな状態じゃもう隠してる場合じゃねえ。とにかくこいつとマナツカミをさっさとやっつけて服を編み直さねえとな!
ヤツに向かって強く踏み込んだ。幸い、身体能力に異常は出ていないようだ。
「馬鹿な! 魔力は霧散させたはずだ!」
「そっちの能力じゃ純粋な身体能力は弄れねえってことだな! これでも食らいやがれ!」
「ぐっ……!」
チッ……ギリギリで避けられたか。っと、今の攻撃でローブが吹き飛んだようだ。あの目立つ獣耳は……そうか、アイツも獣人だったのか。まあ、なんとなく予想はついていたがな。組織に関わりのありそうな奴は大体獣人だったし、そもそもその組織ってのも獣人のための組織っぽいしな。
それよりも、まさかアイツが女性だったとはな。そっちの方がびっくりだぜ。今までの言動からしててっきり男かと思っていた。だがこれはこれで好都合。もう裸を気にする必要がねえってことだからな。アイツの言った通りならこの辺りにはもうまともに人が残ってねえはずだし、この体も女になら見られても大丈夫みてえだ。
「……見たな」
「あ?」
「私の姿を見たな……!」
「だったら何だってんだ……うぉぁっ!?」
何だ、急に攻撃してきやがったぞコイツ!?
「誰にも見られたく無いし、見せることも無いはずだった。私のこんな醜い姿……見られた以上は殺す! 残虐に殺す! 確実に殺す!」
なるほど、ローブを被っていたのはそれも理由だったのか。だが別に醜い所なんて無いように見えるが……。顔は普通に整っているし、体型の方も問題があるようには思えない。
「醜いなんて、俺はそうは思わねえがな」
「うるさい! ……アイツは私が獣人であるというだけで醜いと言ったんだ。私はただ人族に恋をしただけだと言うのに、アイツは私の何も見ずに、獣人であると言うただ一つの点で拒絶した。それが、私には耐えられなかった。獣人に生まれたというだけで、私は最初から選択肢を奪われた。……だから、この世界を変革する必要があるんだ」
なるほどな。やたら過激な言葉が目立つと思ったが、そういった獣人への差別や迫害の過去があるってことか。確かに人種の差だけでそういった扱いをされるってのは納得できねえところもあるだろう。そんな世界に変革をもたらしたいってのも完全には否定出来ない。だが、こいつらの組織はその世界を変える方法を間違えている。罪の無い人々まで巻き込んで世界をひっくり返そうってのは、あまり共感は出来ねえし、したくは無い。
「俺が言って良いことかはわからねえが、アンタらのやり方は間違っていると思う」
「だから何だ。潜在意識の中にある獣人への差別意識は、世界を浄化しない限りなくなりはしない」
「それは違う! 確かに、獣人への風当たりが強い街もあったし人もいた。だがタシーユ王国や獣王国のように、獣人のためにまっとうに活動する場所も組織もあるんだ。世界をひっくり返す必要なんて……」
「それじゃあ遅いんだ。私は、私たちは……少しでも早く獣人の権利を世界に認めさせる必要があるんだ……! マナツカミ、吸収した魔力を私に回せ!」
「グオォォォ……」
何だ、今度は奴の周りに魔力が集まってやがる。マナツカミから魔力が流れているのか……?
「これだけの魔力があれば、一時的にではあるが私は君を超えられる!」
「チッ、こうなったらやるしかねえか! 獣宿し『炎龍』!」
「無駄だ!」
「あぐぁっぁ!?」
炎龍の外皮が破られた!?
ドラゴンロードの力に俺の魔力を乗せている外皮をいとも簡単に……いや違う! マナツカミの魔法無効化のせいで、俺の獣宿しには魔力による強化が乗せられていない……! ということは、今の俺の炎龍はドラゴンロードのそのままの力になっている。魔物としての能力はドラゴンロードはそこまで強くは無い。だから、炎龍では奴には勝てない。
「クッ……獣宿し『天雷』!」
だが問題は無い。俺には最上位種の力がある。極雷龍の力なら魔力による強化が無くとも十分に戦える。
「まだだ、もっと魔力を! あぁっぐわぁあっぁ!」
「やめろ、限界を超えて魔力を使うな! 死にたいのか!」
獣人の女性はマナツカミからさらに魔力を供給させていた。だが、あれ以上の魔力の使用は体がもたないだろう。風船に空気を入れ続けたら割れるように、今の彼女も異常な量の魔力によって体と言う風船が割れかけている。このまま魔法を行使すれば間違いなく死ぬだろう。敵であるとはいえ、彼女の過去自体は被害者のそれだ。これはただの傲慢でしかねえが、俺は彼女には全てを悔い改めてやり直してもらいたいと思っている。今度はきちんと獣人のための活動を、関係のない人を傷つけることなく行って欲しい。
「死んだって良い! 君を殺し、世界を変革するための礎となれるのなら本望だ……!」
だが、彼女は聞く耳を持っていなかった。こうなった以上、もう俺に出来ることは一つしかない。
「天雷……!」
光の速度で、彼女の胸を爪で一突きに貫いた。
「ガフッ……」
これが最善の手だった。少しでも彼女には安らかな死を与えたかった。魔力によって体が壊れた時、まず最初に内臓が一斉に壊死し始める。ただ、残った魔力によって無理やり脳は生かされ続けてしまう。死ぬほどの苦しみが、しばらく死ねない状態で死ぬまで襲い来るんだ。そんな惨い死に方をして欲しくは無かった。
「グオオォォォ……!」
「後はアンタか」
よく考えたら、コイツも巻き込まれただけの生物なんだよな。だがこれだけの危険性を孕んだ生物を野放しには出来ねえ。
「悪いが、死んでくれ」
天雷の能力で一瞬で心臓を貫いて……いやコイツ、心臓はどこだ?
山のように大きいってのはまあ良いんだが、あまりにも山過ぎてなあ……臓器の配置とかがまるでわからねえ。とは言えコイツも巻き込まれた身だ。始末するにしてもあまり苦しませずに眠らせてやりてえ。
そうだ、確か極氷龍はこのマナツカミに対して情報を持っていたはず。今すぐに何かをして来るってわけじゃ無さそうだし、少し聞きに行くとするか。
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