31 洗脳
「氷漬けにされた気分はどいかがでしょうか。」
体が少し足りとも動かない。流石は極氷龍だ。氷属性の最上位種というのも頷ける。
「まだ死んではいないようですが、じきに体温を奪われて心臓まで凍り付くでしょう。その時まで恐怖に震えながら、最上位種に挑んだ愚かな自分を呪いなさいな」
「……悪いな」
「え?」
体内の魔力を練り上げ、高温の衝撃波として外側に放出させた。その熱と衝撃で氷塊の中に空間を作り出し、炎龍の力を宿す。一度溶かさないと炎龍になった瞬間に体の内側に氷がめり込むからな。3Dゲームにありがちなバグだが、現実で起こっちまうと大惨事だ。
「な、何故その氷の中で動けるのですか! いえ、それ以前に……何故私の氷を溶かせるのでしょうか」
極氷龍には悪いが、こういった対処は氷使いの妖魔と戦った時に既に身に付けている。それに何より、魔力量も魔力の質も俺の方が上だ。
「凄まじい一撃だったぜ。一瞬だが体が動かなくなっちまった。ただ、相手が悪かったな。極氷龍様の全力の一撃、完全に見切らせてもらった」
「な、なんということでしょうか……私のとっておきの一撃が……」
極氷龍と戦って思ったのは、彼女は属性攻撃を多用するという事だ。最上位種なのだからそれで当たり前だろうが、その場合俺とは相性が悪い。俺自身も獣宿しの力で色々と搦め手を使えるからな。属性攻撃は対処が容易だ。その点、極水龍みたいに属性攻撃はあくまでサポートに使うくらいで基本は高い身体能力で攻めてくるような相手は純粋な火力勝負になる。まあ、そうだとしても負ける気はねえがな。
「まだです……! もう一度攻撃を……うぐっ」
極氷龍は再び詠唱を始めようとしたが、立っていることもままならずに膝から崩れ落ちた。
「くっ魔力が底を尽きましたか……。やはりこの場の維持と戦闘を同時に行うのは無謀だったようですね」
「この場の維持?」
「そうです。極氷龍である私は気温が低ければ低い程その能力を増すのです。ですのでこの場の気温を下げ続けるために、常に氷漬け状態にしているのですよ」
なるほど。確かに極氷龍ほどの存在が大技一発で魔力切れを起こすとは思えねえから不思議には思っていた。とは言え極雷龍みたいに生命力まで賭けちまったのなら話は別だがな。この空間の氷塊を全部極氷龍が維持しているのなら、消費する魔力も尋常じゃない量になるんだろう。
でもそれなら何故敢えてクソ熱い火山を……。
「いいでしょう、私の負けです。殺すなり奴隷にするなり好きにしなさい」
「奴隷にはしないし殺すつもりもねえ。極水龍と連絡が途絶えたアンタについて調べに来たんだ」
「極水龍……うっ何だ、頭が……」
「……どうした?」
極氷龍は俺が極水龍の名を出した途端、頭を押さえて苦しみ始めた。
「何かが頭の奥で……うぅっ頭が割れそうです……」
一体何が起こっているんだ……。極水龍の名を聞いて苦しみ出したってことは……一応試してみるか。
「ここに来る前に極炎龍が大変なことになっているのを見てきた。……何か知らないか?」
「極炎龍……うぐっ彼は私たちの……改造されて……いや、何ですかこの記憶は……うぁっぁあ」
やっぱり何か様子がおかしい。記憶を細工されているのか?
「はぁ……はぁ……何かが頭の奥から溢れようとして……ぐっうぁ」
龍種洗脳の件のために動いていた極氷龍がわざわざこんなことをしているのは腑に落ちないからな。もしかして彼女は既に洗脳を受けているのかもしれない。それなら火山を戻そうとした俺に攻撃してくるのもわからなくはない。何故火山を氷漬けにしたのかはわからねえけども。
そして戦っている最中はこちら側である極雷龍のことを思い出してもなんともなかった。魔力が枯渇している今だからこそ影響が出ているのか。なら今の内に手を打っておくべきだろう。
「な、何を……」
「アンタ、洗脳されているかもしれないからな。ちょっと試させてもらうぜ」
洗脳が魔法的なものであるのなら蝕命の力で解除できるかもしれない。他に出来ることも無いし、試してみる価値はあるだろう。
「獣宿し『蝕命』っと。……何か絡み合ったもんがあるな。そおい!」
「あっぁああっぁぁ!?」
複雑に絡み合った糸のような魔力の束を無理やり霧散させた。と同時に極氷龍の頭から魔法陣が現れ、数秒後に消えた。というかちょっと色っぽい声で叫ばないで欲しい。誰も聞いてねえからまだ良いけども、今後洗脳されているヤツを治す時はこうなるってことだろ? 人の前でこれは色々と不味いだろうが。
「……はっ!? 私は何を……」
そんな典型的な反応する奴、本当にいるんだな。
「今までの事、覚えて無い……無いんですか?」
「すみません。何か記憶に靄がかかったようになっていて、上手く思い出せないのです。ところで、貴方は?」
そうか。今までの記憶が消えているんなら俺が何者なのかもわからないのか。
「俺は翔太です。極水龍様とあなたの連絡が途絶えたようなので、確認に来たのですが……」
「極水龍……そうです、私は龍種を洗脳している者たちを追ってこの温泉都市に来たのでした。ですが怪しい者との交戦のあとから記憶が無く……もしや私は洗脳されてしまっていたのでは!?」
やっぱりそうか。極氷龍が奴らによって洗脳されていたのは確定みたいだな。
「ああ、なんということでしょう。良く見ればこの空間も私の氷が……もしかして私は取り返しのつかないことをしてしまったのでは……」
こればかりは擁護のしようが無いが、とにかく元に戻ったのなら早く火山を戻してもらおう。
「とりあえず火山がこの状態だと温泉が湧かなくて温泉都市が大変なことになってるんです。元に戻してもらえませんかね?」
「そ、そうですね。まずは火山を元の状態に戻さないといけませんね」
極氷龍は空間内の氷塊を破壊していく。それと同時に少しづつ周りの温度が上がっていくのを感じる。……うん? 温度が上がっていくってことはここにいると不味いんじゃ……。
予想通り、地響きとともに何かが動いているのを感じ取れた。
「あの、このままここに居て大丈夫なんですか?」
「……恐らく大丈夫じゃないと思います」
極氷龍がそう言うのと同時に、空間の壁から溶岩が噴き出てきた。氷塊が無くなったことで地下の溶岩に温められたんだろう。
「逃げましょう!」
「そうですね!」
元の龍の姿に戻った極氷龍と共に、入って来た道を戻る。道を通っている最中も後ろからとてつもない熱気が迫ってきているのを肌で感じた。
「ふぅ……」
「危ない所でした。外に出てから解除するべきでしたね」
炎龍の外皮でもあの量の溶岩に飲み込まれて耐えられるかはわからないからな。結構ヤバかったかもしれない。外から解除できるのならそうして欲しかったが、解除するように促したのは俺なんだよな……。
「それにしても何故私は火山を凍結していたのでしょうか。極氷龍としての力を発揮するのならわざわざ火山を根城にする必要は無いはずなのですが……」
それは疑問に思っていた。
「ひとまず極水龍と通信をしようと思います。伝えておきたいことも聞きたいこともありますしね。念のために辺りの警戒を頼んでも良いでしょうか」
「わかりました。極氷龍様は通信に集中してください」
彼女は極水龍と通信を始めた。極氷龍の洗脳が解けたってのが既に奴らに知られているかもしれないから、しっかり警戒しねえと。
とりあえず魔力探知……特に目立つもんは無いな。火山は……火口から煙が出るようになったくらいで特に異常は無いか。
「ショータさん、終わりました。まさか私が洗脳されていた間にこんなことになっていたなんて……それに貴方にも迷惑をおかけしました。何とお詫びをしたら……」
「いえ、大丈夫ですよ。むしろ大変なのはこれからでしょうし。極氷龍様の洗脳が解けたのは恐らく奴らに知られるでしょう。そうなったら必ず何かしらの手を打ってくるはずです」
今までの奴らの動きからしてこのまま放っておくってことは無いだろう。特にあのクソ学者は要注意だ。
「それについてなのですが、しばらくこの場に残って様子を見て欲しいと極水龍からの伝言がありました」
なるほど、極水龍も同じ考えか。このまま戻るよりもここに残って様子見をした方が良いってのは同意だ。決して温泉都市を楽しみたいとかでは無いからな。
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