29 温泉都市
次の街に向かう前に、天空都市に行って通信機器を貰ってきた。炎龍だと数日かかった天空都市への移動だが、天雷の雷のような速度をもってすれば一時間もかからなかった。流石は極雷龍の力だぜ。
通信機器の方も極水龍が連絡しておいてくれたおかげですぐに用意してもらえた。最上位種と仲が良いって便利だな。
そういうわけで次の旅に向けての準備は万全ってわけだ。そんな俺が次に向かうことになったのは、温泉都市と呼ばれている所だ。活火山が近くにあるからか、国の名の通り温泉が栄えているらしい。とは言え俺は遊びに行くわけじゃねえからな。あまりゆっくりする時間は無いだろうな。
同じく天雷の力を使ってその温泉都市に向かって飛んだ。が、当然のように行き過ぎては戻ると言うクッソだるいムーブを繰り返しちまった。昔やったゴルフで同じようなことになったっけか……。
結局ある程度まで近くに行ったら炎龍に切り替えて調整することにした。
そうして訪れた温泉都市。さぞかし賑やかなんだろうと思っていたが、実際は違った。
「なんだ、どうなってんだ……?」
どこを見ても人がいない。それどころか温泉の湯気も見当たらない。温泉都市って言ったら城崎とか草津とかみたいなさあ、ああいう感じの湯気と温泉の匂い香るー……みたいな感じじゃねえのか!?
仕方が無い。明らかに異常事態ってのがわかるだけ、裏で動かれていた獣王国とかに比べてマシだ。もしかしたらこの状況も龍種洗脳の件と関係があるのかもしれないからな。
となれば……まあまずはギルドよギルド。とりあえずギルドとかのデカい施設に行けば進展するって、今までの経験からもわかっているしな。王国みたいに国と密接につながっていることもあるかもしれねえしな。
探すまでも無く、街の中心地に冒険者ギルドはあった。どこの冒険者ギルドも似たような見た目の飾り物をしているから助かるぜ。
しかし建物の大きさの割に、中にいる冒険者はかなり少なかった。この分だとあまり情報は得られないかもしれねえ。ひとまず受付に聞いてみるとしよう。
「……温泉、ですか?」
温泉について聞いてみたところ、受付嬢さんは神妙な表情でそう返した。やはり何かしらの訳ありってのは確実だな。
「実は、ここがこうなってしまったのもつい数か月前の話でして……」
受付嬢はこの街に起こった異変について教えてくれた。なんでも、数か月前に近くの火山の活動が止まってしまったのだと言う。それと同時に温泉も湧かなくなってしまい、温泉目当ての観光客もいなくなって街が寂しくなってしまっていると。
温泉が湧かなくなったのは、まず間違いなく火山活動が止まったのと関係があるだろう。だが火山が完全に活動を停止したことは今まで無かったようで、仮にそうなるとしても本来は数百年から数千年後なのでは無いかと思われていたらしい。探知魔法をその火山やこの街の地下に対して使った所、まだまだ先まで活動を続ける動きが見えたようだからな。それが急に止まるってのは明らかに人為的な物を感じる。
火山が止まった原因がわからないのならこれ以上話を聞いて回っても追加で得られるものは無いか。よし、そうと決まればひとまずその火山に行ってみよう。
温泉都市を出て少ししたところにその火山はあった。富士山程のサイズは無いが、かなりの大きさではあるな。山頂付近では雪が降っているが標高が高いんだからそれもおかしくは無いだろう富士山だって上の方白いしな。……いやおかしいか?
……生憎と山についての知識は持って無えからな。クソッこんなことならもっと知識書とか読んでおくべきだったぜ。
無いものは仕方が無いから、とりあえず炎龍の力で山よりもさらに上まで飛んでいって一度全体を眺めてみた。見たところ普通の山だ。何と言えば良いのかはわからねえがとにかく普通の山だ。B級映画とかだと、滅びたはずの文明の基地が山頂に隠されていただとか、上から見たら何かの形になっているだとか、そういったわかりやすいもんがあったりするが……現実にはそういうのは無いみてえだな。
となると麓から少しずつ確認していくしか無いのか。面倒くさいなんてレベルじゃねえぞ。一体何日かかると思って……いや、待てよ。火山の活動が止まったってのと極水龍が王国に訪れた時期ってそう遠くないよな?
それなら……よし、ビンゴだ。魔力探知をしてみたら火山の地下に極水龍や極雷龍と同じような、巨大な魔力の塊がありやがった。となるともうその正体はわかったも同然だ。
丁度火山の山頂に地下へと続きそうな縦穴があったからそこから侵入した。
「さっむ」
中に進めば進むほど気温が下がっているのを感じる。体感で一桁くらいにまで下がった時、ついに我慢できなくなって炎龍を宿した。流石は炎の龍だ温かい。こういう時便利なんだよな炎系の能力は。
そうしてしばらく降下して行くと、やや大きな空間に出た。その空間はそこらじゅうが凍り付いていた。そりゃ寒いわけだ。これだけの氷が維持出来ているってことは、気温は氷点下で確定だろう。
「……どなたでしょうか?」
この空間の異質さに驚いていると、どこからか女性の声が聞こえてきた。どうやら空間の奥にある横に通じた通路から聞こえてきたようだ。
「このような場所に訪れるなんて、変わっていますね」
美しい声はなおも呼びかけてくる。しかしその声はどこか生気の無い印象を受けた。いや、そもそもこんなところにいるんだからまともな人間とは思えないか。
「ここに大きな魔力反応を持った存在がいるはずです。……もしかして、あなたですか?」
声の主に一応尋ねておく。この声の主が俺の感知した魔力の主であるならただの勘違いだったで済ませられるし、他に居るのならそいつについて聞き出す必要がある。
「あらあら、もしかして貴方……敵、ですか?」
「ッ……!」
声自体は変わっていない。だが途中から、言葉では上手く言い表せない圧力のようなものが混ぜ込まれた。直感がビリビリと警鐘を鳴らしている。こいつは危険だと……!
「……」
向こうから何かをしてくる気配はない。であるのならこちらから行くしかないだろう。ここで睨み合いをしたところで、こちらがジリ貧なのは変わらない。それなら万全な内にこちらから仕掛けさせてもらおう。
横道の奥へと進んでいくと、これまた少し開けた空間が俺を出迎えた。そこには一人の女性が立っていた。
「ふふっ。結構強めに声に圧を乗せたつもりでしたけど、あまり効果は無いみたいですね」
氷のように透き通った印象を受ける美女だ。恐らく彼女が声の主であり、魔力の正体だろう。
「急に押し入ってすみません。俺は火山活動が止まった原因を探していまして、その途中で強い魔力反応を見つけたので確認に来たのです」
「あらあら、そうでしたか。それなら~」
「ぅおっ!?」
それまでただ立っていただけの女性は、急に力強く地を蹴った。そして俺のすぐそばに寄るなり魔力を高め始めた。
「敵ですね」
「ぐっ……何者なんですかあなたは」
警戒していたおかげで、魔法による攻撃を直前で躱せた。無警戒に突っ込んでいたらヤバかっただろう。それだけこの女性の動きは速かった。恐らく、速さだけなら極水龍に匹敵するだろう。
「何者……ですか。それは、貴方なら既にわかっているのではありませんか?」
……女性の言う通りだ。プライムを冠する龍と同じくらいの戦闘能力に、これだけの氷を維持できる能力。それに火山を丸ごと凍結させてその活動を止めるなんて、とてもじゃないがそうポンポンいて良いもんじゃない。
これらの状況から導き出せる答えはただ一つ。
「あなたが、極氷龍なんですね……!」
俺のその言葉を聞いて、女性はくすりと笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます