27 さらなる脅威
「調子に乗るなよ!」
フレイムオリジンは連続で炎を生み出しては俺にぶつけてきた。だがそれらが全て魔力で構成されていると言うのがわかっちまえばこっちのもんだ。
「邪魔だァ! どれだけ攻撃しようがもう俺には効かねえ!」
フレイムオリジンに接近し、その腕を霧散させた。読み通り体も魔力で構成されているようで、蝕命で吸収することが出来た。
「ぐっ……一旦退け、フレイムオリジン」
流石に分が悪いと踏んだのか、クソ学者はフレイムオリジンを下がらせた。だが、今度こそ逃がすわけには行かねえ。
「逃がすか!」
「いいや、君は私を追って来ることは無い」
「何だと?」
学者が人をイラつかせるような笑みを浮かべた瞬間、後方から轟音が聞こえてきた。後ろでは他の冒険者や極雷龍があのドラゴンの群れと戦っているはずだ。となると、そちらに何かあったと考えるべきだろう。
「何をしやがった!」
「自分で確かめると良い。その隙に私は退かせてもらうよ」
「チッ……」
またもこいつを逃がしてしまうのは屈辱的だ。しかし目の前のことだけを追い求めてしっぺ返しを食らうってのはもっと屈辱的だぜ。何より極雷龍やこの都市を守ることに注力した方が長い目で見て得になる気がする。と言ってもこれは直感でしかねえが……。
逃げて行く学者を諦め、後方へと向かった。そんな俺の目に入って来たのは、予想外の光景だった。
「どういう……ことだ……?」
目の前には、もう一体の極雷龍がいたのだ。こうなればあの轟音の正体が、このもう一体の極雷龍によるものだと考えるのが普通だろう。だが、それが分かったところで何故もう一体存在しているのかがわからねえ。……いや、こんなことを出来るのはただ一人だ。恐らくと言うかほぼ確実にあのクソ学者の仕業だろう。思えば轟音が鳴る瞬間、アイツは確かに笑みを浮かべていやがった。
「ショータ殿、気付いておるか」
「あのもう一体の極雷龍……ですよね?」
「そうだ。私は以前奴らと戦った時に半身を失った。どうやら、奴らはそれを使ってもう一体の私を作ったようだ」
なるほど、クローンってやつか。あのクソ学者、色々と研究をしているみたいだからな。そういった技術も持っていてもおかしくは無いか。でもまあ大丈夫だろう。こっちには機械の力も得た極雷龍がいるんだ。
「しかし随分と厄介極まりない相手をぶつけられたものだな。今の私は失った分を機械の体で補っている状態だ。それに対し、ヤツは完全な状態の私と同様の力を持っているだろう。つまり今の私では勝てないということになる」
「……え?」
それは想定外だ。てっきり機械で強化されたもんだと思っていたが、どちらかと言うと補助器具に近いもんなのかあれ。となるとどうしようか。極雷龍が極水龍と同じくらいの実力なら、勝てないことは無いはずだ。ただあの学者のことだからな。何か余計なひと手間を加えていてもおかしくは無い。
「……ショータ殿、後の事は任せた」
「待ってください。一緒に戦えば勝てない相手では……」
「駄目だ。今ここで二人共離れれば、他の者が魔物にやられてしまうだろう。そうなれば次は都市の下部に避難した一般市民たちに危険が及んでしまう。それに、元はと言えば私の力不足が原因なのだ。けじめを付けるためにも、ヤツは何としてでも私が倒して見せる」
そう言って極雷龍はもう一体の極雷龍の元へと向かって行った。正直、極雷龍ほどの戦力をここで失うのは避けたかった。だが後ろの者たちや都市を守ることを考慮すれば、彼の考えが正しいと言うのもまた事実だ。
……何より、アイツの覚悟を無下には出来ねえ。出会ってから短い時間しか経っていない状態でこう言うのもあれだが、彼からは内なる魂の強さを感じたんだ。自らを危険に晒してでも、悪を許さず何かを救おうとする。その強く善良な魂に惹かれちまった。
「絶対に、死ぬんじゃねえぞ……!」
届くはずのない声を残し、俺は都市の防衛のために動き始めた。
「……一応聞いておくが、其方には私の半身であると言う自覚はあるのか?」
「……」
やはり自我は無い。となれば、全く接近に気付けなかったのも納得できる。殺気を含めた一切の心の動きが存在しないのが原因とすればおかしい話では無いのだ。とは言え、自我が無いということは痛覚や躊躇なども持たないという事。完全に絶命させなければ勝利とは言えないだろう。そして、それがどれだけ難しいことか……自分自身が誰よりもわかっているつもりだ。
「行くぞ……!」
翼を広げ、光速にも匹敵する速度で目の前の倒すべき存在へと飛んだ。しかし、当然と言うべきか。奴は私とほぼ同じ速度でそれを避けた。
「わかってはいたが、自分自身と戦うのがこれほどまでに難しいとはな……」
自分自身である以上、基本的に能力値の差は無いと考えるべきだ。跳躍力も、羽ばたく力も、それによる移動速度も、保有する魔力量も、ありとあらゆる部分が同じ能力値なのだ。唯一違う点があるとすれば……。
「ぐぁっ……もう限界が来たか……!」
私の半身が機械であるということだ。
移動速度があまりにも速すぎるためか、機械の体は少しずつ削れ始めている。この機械の体は、かなりの強度を持つ特殊な金属を加工して作られている。しかし、そんな体をもってしても光速に近い移動を重ねれば無傷とは行かないのだ。
それに対し、もう一体の私は完全な体を有している。時間をかければかける程に、私の勝利は遠ざかってしまうだろう。故に私は短期決戦に出なければならない。例えその判断が、この身体を犠牲にするとしても。
「この一撃に全てを賭ける……!」
体中に魔力を込めて、雷を発生させる。しかし、ただ魔力を込めただけでは奴は倒せないだろう。だから、魔力に追加して生命力すらもつぎ込む。正真正銘、命を賭けた一撃だ。
都市も、そこに住まう民も、一緒に戦ってくれた者たちも、私が守って見せる。
「
ため込んだ雷を一点に集め、一筋の線にして奴へと飛ばした。例え奴が私と同じ性能をしていようと、必ず相打ちとなるだろう。この一撃は、私自身ですら耐えることは出来ないのだから。
「……」
一瞬すら経たない内に、目の前の極雷龍の体には大穴が開いていた。自我が無いためか、痛覚が無いためか、奴は一切の声を漏らすことは無い。こうなると、今の決死の一撃が効いているのかがわからないため不安になってしまうな。もっとも、効いていないはずは無いのだが。仮に効いていないとすれば、それは私の敗北として受け入れるしかない。
「……自爆機能をアクティブにしました」
「何だと?」
今、確かに奴の方から声が聞こえた。だが奴自身は一切動いてはいない。何より私とは違う女性のような声だ。……もしや、奴自身によるものでは無いのか?
「30秒後に爆発シークエンスを行います。組織の者は周囲の要人を避難させてください」
奴ら、こんなものまで仕込んでいたのか……!
「あららぁ、倒されちゃったみたいですね」
「貴様は……あの時の学者か」
どこから現れたのか、あの時の学者が目の前に立っていた。
「体が動けば貴様なんぞ……ぅぐっ」
「無理はしない方が良いんじゃないの。もう限界なんでしょう? ま、どちらにしろホログラムだから攻撃できないんだけどね~残念」
「くっ……」
またも私はこの男に敗北すると言うのか……。
「私が頑張って復元した極雷龍を倒したのは見事だったよ。でもそれだけだ。このまま行けば自爆機能でこの都市ごとドカンだからね」
最初から倒されることがわかっていて、自爆機能を付けていたのか。自分たちで作り出した生物を、最初から殺すつもりで投下してきたと言うのか……!
「貴様ァ!!」
「はっはっはっ! どれだけ吠えてももう終わりなんだよ。君は負けたんだ! ……さて。必要なものは奪ったし、そろそろ仕事に戻らないとね。このまま君たちの最後を見ていたいが、生憎と私は忙しいんだ」
「ま、待て……」
無意識にホログラムに向けて手を伸ばした。しかし、そうした所で攻撃する魔力も無ければ奴がそこにいるわけでも無い。所詮はただの敗北者の自己満足でしか無かった。
「いい加減にしてくれ。爆発まであと10秒しか無いんだ。体も動かせない君に何が出来るんだい? さっさと負けを認めなよ」
男の言葉が私に突き刺さる。この男の言う通り、今から爆発を防ぐことなど出来ない。都市も、民も、私には守れない……。
「いや、まだ負けてないさ」
突然聞こえた女性の声。その声からは、私の中の絶望をかき消すかのような、前へと進もうとする力強さと確かな自信を感じた。
「な、何故君がここにいるんだ……!?」
横を見れば、そこにはショータ殿が立っていた。彼女の目は、まだ諦めてはいなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます