26 防衛と再会

「……というわけだ。私の半身を奪った者たちが、再びこの都市に攻め込もうとしている。今こそ戦いのときだ……!」


 極雷龍の言葉に会議室……と言うか謎の空間に集まっている人たちは軒並み声を上げている。どうやら最初から戦う準備は出来ているようだな。


 極雷龍は「再び」と言っていた。この会議の最中に聞かされたことだが、彼は既に龍種を洗脳している組織と一戦交えているらしい。組織は何らかの目的を果たすためにこの都市を手中に収めようとしていたようで、そいつらからここを救うために戦いを挑んだようだ。しかし追い返すことには成功したが無傷とはいかなかったようで半身を失ったと。あの機械の体は失った半身を補うためのものだと言う。


 その極雷龍によると、魔物用エリアで戦ったあの魔物は本来この天空都市では扱っていない魔物であり、以前組織と戦った時にも同じ魔物がいたのだと言う。つまりは奴らが都市を内部から瓦解させるために持ち込んだ魔物だという事になる。そのため本格的に組織との戦いが起こると考えたようだ。


「改めて頼む。ショータ殿、私たちと共に戦ってくれないだろうか」

「こちらこそお願いします。俺がここに来た目的も元を辿れば奴らを倒すためですから」

「そうか、それは心強い。先程の戦いを見せてもらったが、其方の力があれば遥かに勝利に近づくだろう」


 こうして俺は極雷龍とともに、組織と戦うことになった。


 会議が終わってからの都市内の動きは速かった。あっという間に住民のシェルターへの避難が済み、今この都市の表層には戦える冒険者や衛兵などしか残っていない。また武器屋各種アイテムなどの準備も潤沢だ。とは言え極雷龍が戦っても完全勝利とはいかなかったらしいし、油断は禁物だな。


「……来たか」


 極雷龍の言葉の通り、遠くからバリアを貫通して何者かが入って来た。


「私の可愛い実験体の反応が消えたと思ったら、また君か」


 そいつは、獣王国で出会ったあのクソ学者だった。逃げて行った時と同じく、改造された極炎龍に乗っている。


「直接戦っても分が悪いから内側からちょっとずつ攻めて行こうと思ったのに。まさかこんなことになるとはね」

「あの時のようには行かない。今度こそ貴様を倒す」

「おお怖い怖い。でも、これを見てもそう言っていられるかな?」


 そう言うと、学者の後ろから大量のドラゴンらしき魔物が大量に現れた。


「嘘……だろ……?」

「さっきのあのドラゴンがあんなに……」


 その光景を見た先ほど共に戦った冒険者は絶望の混じった声でそう呟いた。現れた大量のドラゴンはあの戦闘慣れしたドラゴンだったからだ。つまりは、この場にいる冒険者や衛兵のほとんどはまるで歯が立たないことになる。これもう極雷龍が来なかったら終わってただろこの都市。


「あの時はまだ数体しか用意出来無かったけど、今なら量産体制が整っているからね。今度こそ私たちの勝ちだ……!!」


 学者のその掛け声と共に、大量のドラゴンが都市に向かってきた。


「怯むな! 後衛は回復魔法と各種回復用道具の準備を! 前衛は盾役を中心に固まれ!」


 極雷龍の指示に従って、冒険者や衛兵は陣形を組み始めた。俺たちがあのドラゴンと戦っていたのを見ていただけあって、既に戦法の取捨選択が出来ている。流石は最上位種だな。魔法や弓などの遠距離攻撃がことごとく弾かれていた辺り、後衛をサポートに特化させたのは恐らく正解だ。


 その分火力は俺と極雷龍が出すからな!!


「獣宿し『炎龍』!!」


 全身を龍のそれへと変質させ、ドラゴンの塊に向かって跳び込んだ。


「俺の炎にアンタらが勝てねえってのはわかってんだよ!」


 全身に炎を纏わせ、ドラゴンを焼いていく。何匹か取り逃して後ろに向かっちまったが、極雷龍の指示通り盾役が固まって互いの弱点を守っているため上手いこと押し返せている。今の内に数を減らしちまおう。


「おっと、君の相手は私だ」

「ちっ……まあいい。今度こそぶっ倒して情報全部吐いてもらうからな」


 学者は周りにいたドラゴンたちを散会させ、俺と一対一の状況にした。もっともヤツは極炎龍に乗っているから一対二なわけだが。


「君の力は凄く興味深いからね。隅から隅まで研究したいんだ。だからドラゴンなんかに食べらちゃったら困るんだよね」

「生憎と、あんなドラゴン如きに俺はやられねえよ」

「はははっその口も今に聞けなくなるさ。私の最高傑作の前ではね!」


 以前と同じように極炎龍は炎を全身に纏った後、俺へと炎の塊を飛ばして来た。だが既に一度見た攻撃なら簡単に避けられる。


「馬鹿の一つ覚えみたいに遠距離攻撃だけしていても俺は倒せないぜ」

「そうか。なら、これはどうかな」

「……なんだ?」


 ヤツが妙な笑みをしたかと思えば、今度は極炎龍がその姿を変え始めた。炎の色はドス黒いものへと変異していき、体が溶けている部分を完全に覆い隠す。もはやドラゴンとしての原型は無くなってしまった。今ではただの黒い塊状態になっていやがる。


「膨大な回数の実験によってたどり着いた、フレイムロードよりもさらに根源へと近づいたその姿を見せるんだ! フレイムオリジン!」


 黒い炎が消えて、その姿が露わになった。極炎龍の特徴的だった赤い外皮はもはやどこにも存在していない。代わりに、そこだけ空間から切り取られたかのように真っ黒な外皮が目に入る。光を一切跳ね返していないそれは凹凸の影すら無く、一種の非現実味を醸し出している。


「おいおい、随分ととんでも無い見た目になっちまったじゃねえか」

「とんでもないのは見た目だけでは無いさ。根源へと近づいたフレイムオリジンは炎そのものであり、この世界の理にに触れることさえ出来る! さあ、見せて見ろその力を!」

「グオオオォォォ!!」

「うぉぉっ!?」


 フレイムオリジンが雄たけびを上げた瞬間、そこら中に突然炎の塊が現れた。見たところヤツはブレスなどの類は使っていなかった。かと言って燃えるようなものが有ったわけじゃねえ。何と言うか、炎が無から生成されたって感じだ。何とも気持ち悪い感覚だぜ。


「グアアァァァァ!!」

「くっ……危ねぇっ!?」


 さっきまでのブレスとはまるで速度が違う。炎を飛ばしていると言うよりかは炎の動き自体を操っているみたいだぜ。


「ははっ凄いぞ!! 私の研究もついにここまで来た! 魔族化の力を応用し、世界の根源に一歩近づいたんだ!!」

「何をごちゃごちゃ言ってやがる……。そもそも根源ってのはなんなんだ」

「おっと失礼。君のような一般人には理解出来無いかもしれないけど、一応教えてあげよう」


 イラつく言い方だな。


「この世界に存在する魔法は大まかに四つの属性に分かれているんだ。炎、水、雷、そして氷。これ以外の他の属性魔法は全てここから派生して作られたことになる。そしてこのフレイムオリジンは、その基本属性の炎を司る存在そのものとなっているんだ。何が言いたいかわかるかい? この世界に存在する全ての炎魔法を操り、完全に我がものとする力がこのフレイムオリジンにはあるんだよ!!」


 よくわからんが、要は炎属性最強の存在になったってわけか。


「いくら君が炎の力を使おうと、このフレイムオリジンには届かない。どう足掻いたって私の勝ちは揺るがない。さあ、素直に降参して私の実験材料になるんだ。なあに、悪いようにはしないさ。衣食住は保証するし、なんなら性処理用の男だって思う存分集めてやる」

「誰がなるか。あと俺は普通に女が性愛対象だ」

「普通に……か。まあいい、別に対象が女だろうと男だろうと関係ないからね。とは言え君がそのつもりなら仕方が無い。実力行使で行かせてもらおうか」

「うぐぁっ……!?」


 一瞬の内にヤツのドス黒い炎が脇を掠め取っていった。そしてその一瞬で俺の腕は焼き斬られていた。


「ぐっ……速い……!」

「腕くらいなら再生させられるからね。最悪死なないくらいに痛めつけて持って帰るとしよう」


 どうする……ヤツの炎は間違いなく炎龍を遥かに超えている。ぶつけ合ったところで負けるのはこっちだ。かといって純粋な身体能力でどうにかなるもんなのか……?


 いや待て、確かアイツ……炎魔法を操りって言っていたな。プライムドラゴンは物質そのものを操っていたが、フレイムオリジンと化した今のヤツになら……可能性はあるか。


「獣宿し『蝕命』……!」

「今更何をしたって無駄さ。さあ、ちょうどいいくらいに焼いてしまえフレイムオリジン!」


 ヤツが放った炎が俺の目の前に飛んでくる。だが……。


「な、なんだ……なんで炎が……? 何かの間違いだ! もう一度やれフレイムオリジン!」


 何度も炎が放たれては、全て俺の前で霧散していく。やはり読み通りだ。あれは炎ではなく、炎魔法になっている。であれば蝕命で吸収できるってわけだ。


「どうなっている……確かにフレイムオリジンは根源に辿り着いたはずだ。なのにどうして攻撃が当たらないんだ……!」

「簡単な話だ。俺は魔法を無効化する力を持っているからな。ソイツの攻撃が魔法である以上、俺にはいくら攻撃しようが届くことは無いぜ」

「何だと……!」


 目に見えて動揺しているな。いい気味だ。


「形勢逆転ってところか。今度はこちらから行かせてもらうぞ!」

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