18 地下研究施設
翌日、アルフィーたちと情報収集を行い無事地下研究施設への入り口を見つけた。まさか王城の地下にあるとはな。あの爆発のせいで完全に確認を怠っていたぜ。
「覚悟は良いな?」
「今更逃げ出すことなんてありませんよ。最後までリーダーに付いて行きます」
「そうか。……ありがとう」
「俺も同じだ。どちらにしろ、この施設を放置していれば安全な場所なんて無いからな」
「よし。ならさっさと終わらせて祝いの酒でも飲もうじゃないか……!」
アルフィーを先頭に地下へと入っていく。壁掛けの松明が十数メートルおきに配置されているからか、暗くはあるが床や壁はしっかりと認識できる。それにしても警備も何も無いというのは逆に怪しいな。大事な施設なら数人くらい配置しとくもんだろ普通。俺たちみたいに鍵を破壊して無理やり入って来る輩のことを考えなかったのかね。
通路に入って二十分が経った頃だろうか。通路の奥の方に扉が見えてきた。他に分かれ道も無かったし、恐らくこの扉を開けないといけないんだろう。
「鍵穴はある。とりあえずピッキングをしてみよう。それで駄目なら破壊だ」
アルフィーは扉をピッキングで開けることにしたみたいだな。
「よし駄目だ。破壊しよう」
駄目だったようだ。
アルフィーは早々にクラークに交代し、ここに入って来た時の様に巨大な槌で扉を破壊させた。しかしその瞬間、彼は腕を抑えてうずくまった。
「うっぐぁ!?」
「クラーク!!」
クラークの腕には例の光る物体が刺さっていた。恐らく昨日フレイムドラゴンロードに使われたものと同じだろう。その証拠に腕がゲル状に溶けている。クソッ軽率に扉を開けるのは失敗だったってのか。まさか真正面から飛ばしてくるとは思わねえだろ。普通にここを普段使いしているヤツらはどうなんだよ。
「あっっぐあぁあっぁ」
「クラーク、こっちに!」
「駄目だ……」
「何故だ!」
クラークを扉から離そうとするダグラスだが、クラーク自身がそれを制止した。酷な話だが、その判断は正しいと言える。
「今俺がここから動けば……攻撃がそのままお前たちに直撃する……」
扉の前に崩れ落ちた彼は遮蔽物となって攻撃を防いでいる。ここまで目立った遮蔽物が無かった以上、彼が動けば後ろにまで攻撃が届いてしまうだろう。
「ではどうしたら!」
「俺に任せてくれ」
本当はこうなる前に前に出るべきだったかもしれないが、俺になんらかのアクシデントが起こればアイツらは全滅するだろうからな。
「お前に何が出来るんだ? 鎧も着ていないじゃないか!」
「鎧なら俺自身だ。獣宿し『剛鎧』」
剛鎧の力で全身が金属質へと変わっていく。これなら大丈夫のはずだ。あの攻撃は肉にしか効果を出さなかった。地面にも壁にも影響は無かったし、骨や牙までは溶かさなかった。
「ショータ、本当に大丈夫なんだな……!」
「ああ。任せてくれ」
クラークの前に出て、ゆっくりと進んでいく。その間にも攻撃は次々飛んでくるが全部俺の皮膚に当たって弾かれている。読み通り金属の体には影響を及ぼさないみたいだな。
「まさかこんな力もあるとは……」
「クラーク、大丈夫か!」
「ああ……片腕は使えなくなっちまったが、まだ動ける……」
三人は後ろから俺の影に隠れるように付いてきている。このまま奥まで進んでしまおう。攻撃は一直線に飛んできているからな。真正面さえ守れば大丈夫だ。
通路の奥まで進み切ったところに、謎の装置があった。どう考えてもこいつが攻撃を行って来ているだろうな。
「おらっ!!」
装置自体の耐久性はそんなに高くないようで割と簡単に壊せた。しかしこの装置がここにあるこいつだけとは思えない。まだ他にも絶対にあるだろうな。警戒を怠らないようにしないと、俺は大丈夫だが後ろの三人は死ぬ。間違いなく死ぬ。
そのまま角を曲がって歩き続けるとまた扉が現れた。さっきのこともある。ここは俺が開けるべきだろう。
「開けるぞ」
「ああ、頼んだ」
後ろのヤツらは俺が大きすぎて前が見えねえから一応扉を開けることを伝えておく。何かあっても対処出来るようにな。
「ほう、思ったよりも速かったな」
「……誰だアンタは」
扉には鍵がかかっていなかった。そんで扉を開けた先には一人の男がいる。さらに意味深な今の言葉。まず間違いなく俺たちは嵌められたな。俺たちの存在をわかった上でここまで導いたってのか。
「私はただの学者だよ」
「ただの学者がこんなとこにいるかよ」
「ククッそれもそうだね。詳しくは言えないけど、少なくとも君たちの敵ではある。それは確定しているよ」
今すぐに吹っ飛ばしてやりたいが、何かしらの情報は得たいんだよな。そうだ。とりあえず極炎龍について聞いてみるか。
「極炎龍……プライムフレイムドラゴンがここにいるってのは本当か?」
「それを知っているとは。やはりここまで招き入れたのは正解だった。確実に、君たちは始末しなければならないようだからね」
「知っているってことで良いんだな。ならさっさと教えて貰おうか」
「血気盛んだね。……だけど君の相手は私じゃない」
「何だと? ……っ!」
突然後ろから殺意を感じた。
「クラーク!?」
「あ……ぁ……すまねぇダグラス……体がいう事を……聞かねえんだ……」
振り返るとこれまた穏やかじゃないものが目に入ってきちまった。クラークの溶けていた腕が変色し、魔族のようなものに変質していやがった。
「おい、彼に何をしやがった」
「完成したばかりの新兵器だよ。今までのものは動物性の物体を分解するだけの効果しか無かったが、とうとう一時的に魔族へと変貌させる効果を付与させることに成功したんだ」
「ぁ……あぐぁ……」
クラークは言語能力を失っているようでもはやうめき声しか出さなくなっている。目から知性も消えているっぽいし魔族ってよりかはゾンビじゃねえかこれ?
「だけどまだ不完全でね。魔族とはいってもかなり下級の……アンデッドと言えば良いかな。そんな感じになっちゃうんだよね」
「そうか。随分とペラペラ情報を喋ってくれるんだな」
「学者としての職業病と言うべきかな。必要無いことまで頭が勝手にしゃべってしまうんだよ。でも関係無いだろう? どうせ君たちはここで死ぬんだから」
「待ちやがれ! クソッ……!」
取り逃したか。まあいい。今はクラークをどうにかしないといけないしな。
「アンデッドか。厄介だな」
「欲望のままに活動する獣……クラークすまない」
ダグラスがクラークに剣を振り下ろした。だが駄目だ。覚悟が無い。今の彼には仲間を斬るための覚悟が無かった。
「ぅぁ……」
「くそっや、やめろ……うわっぁあああっぁ!!」
「ダグラス!」
ダグラスが噛まれた。ゾンビものなら感染するがアンデッドだとどうなんだろうか。
「なあ、アンデッドって噛まれたら感染するのか?」
「いや、普通は噛まれたところでアンデッドになることは無い」
アルフィーの言う限り、アンデッドは俺の知るゾンビとは違うものらしい。だが目の前で起こったことはその情報を簡単に覆した。
「ぅが……あぁあっぁ」
「ダグラス、大丈夫か!」
「駄目そうです……リーダーだけでもお逃げください……」
「だが!」
「彼の言う通りだ。一旦ここから離れよう」
「くっ……」
ダグラスの方へと駆け寄って行こうとしたアルフィーを止める。情に流されるのはこの場において悪手だろうからな。
しかし離れるにしても部屋に入って来た扉はあの学者によって閉ざされちまった。大方ここに閉じ込めて同士討ちさせようって魂胆だろう。ただ、無理やり壁を破壊して出るのも不味い。ゾンビと化したこいつらを外に放ったら国中がゾンビパニックだ。下手をしたら世界が滅ぶ。
であれば、ここで倒すしかない。
「アルフィー、戦えるか?」
「……すまなかった。だがもう大丈夫だ。彼らはリーダーである俺がしっかりと処理をする」
アルフィーはいつのまにか覚悟の決まった表情になっていた。もう大丈夫だろう。俺もうっかりゾンビにならねえよう気を付けねえとな。
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