14 怪物と儀式
「これで最後……これが終われば私は解放される……。……ごめんなさいショータ、私のために死んで! ……え?」
「なるほどな。怪物の正体はアンタだったのか」
「どうして……まさか気付いていたの?」
「気づいていたも何も、これだけ死人が出てるのに普通に寝ていられるわけねえだろうが」
寝込みを襲ってきたのは最初に館まで案内してくれた女性だった。しかし引っかかる。最初に死体が発見された時、その犯人が怪物であることを仄めかしたのは彼女だ。わざわざ情報を与える必要があるだろうか。それこそやろうと思えば部外者の俺に全部擦り付けることも出来たはずだ。
「くっ……いいから死んでよ!」
「おっと」
手に持っていた鉈を振り回し、暴れはじめた。とてもじゃないがこれまで何人も殺して来た殺人鬼とは思えない動きだ。それに殺意を感じない。自分の意思でやっているというよりかは誰かにやらされているといった雰囲気だ。
「アンタの背後に誰がいるんだ?」
「な、何を言って……!」
「怪物は別にいる。そうだろ?」
「……」
暴れるのを止めて黙りこくったか。恐らく図星だ。彼女の後ろにこの殺人の犯人が……いや、もしかしたら村をこんなにしちまった輩との関係性もあるかもしれねえ。
「お願いです! 私を助けてください!」
「うぉっ!?」
急に抱き着いてきた!? いくら限界状態だからっていきなりそういうことするか!?
「ショータさんを殺さないと、私が殺されてしまいます!」
「それは……あなたも命を狙われているということか?」
「はい。全ては村長が仕組んだことなのです。数日前、この村に占い師がやって来ました。その方は村長と何かの取引を行っていたようなんです」
占い師……か。もしかしたらクライムにマジックアイテムを渡したヤツらと関係があるかもしれないな。
「その現場を見てしまった私は村長に捕らえられ、この一連の殺人の実行役になれと脅されて仕方なく……」
「逆らったら殺す……ということなんだな」
「はい。だからお願いです! どうか村長を止めてください! 村長は逸話の怪物を復活させようとしているんです! このままでは私もあなたも……いえ、村の外にも被害が出てしまいます!」
大方、怪物を復活させるための生贄集めの罪を全てこの女性に押し付けて、自分は罪から逃れようってところだろうな。
「ひとまず明日、村長に話を聞いてみようと思う。アンタの話が本当なのかはまだ確証が無いが、少なくとも三人が明日まで生き残っていれば逸話からは外れることになる。そうなれば犯人はボロを出すだろうからな」
仮に村長が犯人なら明日死人が出なかったことが判明した時にきっとボロを出す。そしてもしこの女性が犯人なら、なんとしてでも今日の内に俺か村長を殺そうとするはずだ。
「ありがとうございます……!」
「まあそういうわけだからアンタは寝ていてくれ。何かあっても俺が守ってやるから」
「いえ、そんな!」
「その方が俺が助かるんだ。妙なことをされる可能性がある以上、寝ていてくれるのが俺にとっても一番安全なんだ」
「……では」
よし、後は彼女とこの部屋に入って来る存在に気を付けていれば何とかなりそうだ。
「……昨夜は誰も死ななかったようだな」
「そのようですね」
結局あの後何事も無く夜が明けた。彼女も妙な動きをすることは無かったし、白と見て良いだろう。
さて村長、こっからどうする気だ?
「ふぅ……最後の最後にこの始末か」
「村長?」
お、早速全てを吐くか?
「はあ、お前にやらせた私が馬鹿だった。満足に殺人もこなせないとは」
それは流石に暴論過ぎるな。普通の村人に完全な殺人は出来ないだろうよ。それでもここまで見事に殺して来た彼女にはある程度の才はある気がするが。
「やはりお前に任せずに私自らが動いていれば良かった。所詮ただの村人に殺人など不可能……などと、そう思っていたのかねショータ殿」
「なっ!?」
「動かない方が良いですよ。このナイフには毒が塗ってありますから」
いつの間に後ろに! それに完璧に関節を抑えた拘束……この女性、ただの村人じゃないな。
「よくやったミネラ。これで儀式は完全なものとなる」
「はい。全ては我々の野望のために。……その、勝手ではありますがこの者を少し私に預けてくださいませんか?」
「何だと?」
コイツ、俺に何をする気だ……。
「ふむ、大事な生贄だが……死ななければ問題はあるまい。それにこれまで頑張ってくれたのだ。褒美としてくれてやろう。好きにするが良い」
「ありがたき幸せ」
「おい、勝手に話を進めるんじゃねえ」
「黙りなさい」
「くっ……」
このまま無理やり剥がすことも出来るだろうが、ナイフの毒の成分がわからない以上変なことは出来ない。仕方ないがここは従うしか無いか。
そのまま彼女に連れられて地下へと降りて行った。そんで入れられた部屋は見た感じ拷問部屋って感じか。ヤバそうな道具だらけでお世辞にも趣味が良いとは言えないな。
「それにしてもあんな簡単に私の話を信じるだなんて、貴方ってとても素直なのね」
「いやいやアンタの演技力が凄かったからだぜ。本当に無垢な村人にしか感じられなかったからな」
「ふふ、ありがとう。でもごめんなさいね。これから見せるのが私の本当の姿なのよ」
何だ、何をしやがる気だ……。
「貴方って口調は男勝りだけど、顔は凄く可愛いのよね。正直言ってかなり好みよ」
「なっ何を言って……」
昨日とは全く違う雰囲気を纏っている。何人も食ってきた魔性の女。そんな雰囲気が目の前のコイツからは溢れ出ていやがる。
「あどけなさの残る顔ではあるけれど、少女から女性になりつつもある。ああ、貴方が欲しい」
顎に触れる細くしなやかな指が、何故かとても煽情的に感じる。クソッ妙なもんでも盛られたか?
「でも残念。貴方は儀式の触媒として使うから私のものには出来ないの。だから……」
「お、お前何しやがる!?」
服を破りやがった。それもナイフを使って俺の肌には一切傷を付けないように服だけを……。
「っ……!!」
「あら、女性同士なのだから隠さなくても良いのに」
咄嗟に腕が動いちまった。下着まで奇麗に持っていかれたもんだからそのままでは胸が露出する。だがそれで何の問題も無いはずだ。俺は男なんだからな。……だが体は勝手に動いた。女の子が着替え中の無防備な姿を見られたかのように、咄嗟に俺の腕は柔肌を覆い隠していた。
「クソッどうなってやがる……」
「それじゃあ早速……」
ああ、このまま汚されちまうのか俺は。童貞を卒業する前に女として堕とされるという訳の分からないことに……。でもそれでも良いのかもしれない。このまま女を知らないまま死ぬくらいなら……。
「貴方のその可愛いおっぱいを斬り落としていくわね♪」
「……は?」
おいおいおい待て待て待て、とんでもなく厳ついハサミを持って何をする気だコイツは!?
「言ってなかったけど、私は可愛い女の子をいたぶるのが大好きなの。だから貴方も良い声で鳴いて頂戴ね♡」
滅茶苦茶にヤベーヤツじゃねえか!!
クソッ……女っ気の無かった俺の人生、初めて女性とエッッなことが出来ると思った矢先にこれかよ! いやそもそもこの状況で欲情するのもどうかと思うけどよ。それでも俺は女性とイチャイチャしたかった。妖魔との戦いに明け暮れた学生生活では彼女も出来ない。そもそもモテたことさえも無い。そんな俺だから例え敵でも良いとさえ思えたのに!
「それじゃあ右から……嘘、どうなってるの……?」
俺の乳房を斬ろうとしたハサミは強度が足らず折れた。当然だ。俺の体は並みの金属では傷つけることなど出来ないんだからな。
「俺の期待を返しやがれ! 獣宿し『肆牙』!!」
「な、何なのその力……!!」
もう良い。後のことなど知らねえ。俺の心を弄んだ罪、払ってもらうしかねえぞこいつはよぉ!!
「おらあっぁあ!!」
「何事だ!!」
適当に天井を破壊して出てきたが、どうやら丁度ホールの真下だったらしい。おかげで村長を探す手間が省けた。
「村長さん。何をしようとしてるのかはわからねえが素直に罪を認めろ」
「ミネラ、何をしている! さっさとこの者を拘束せよ!」
残念だが彼女は呼んでも来ない。なぜなら既に気絶させているからな。
「彼女なら来ないぜ」
「何だと?」
「あの趣味悪女なら下で寝ているからな。もうアンタを守る者はいない」
「ぐっ……ならば最終手段を使うしかあるまいな」
「おいおい嘘だろ……何故アンタがそれを……!」
クライムが持っていたものと同じマジックアイテムをあの村長は持っていやがった。だがこれではっきりしたな。少なくともクライムにマジックアイテムを渡したヤツはこの村とも何かしらの関係を持っている。後は村長にそれについて聞き出せたら良いんだが……。
「儀式には何としてでもお前の体が必要なのだ。我らの野望のために大人しく触媒になってもらおうか!!」
それはちょいと難しそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます