3 燃やされた村

「嘘……」

「おいおい、これはどうなってやがる……」


 村中が燃えていた。もはや生存者なんて見込めないような惨状だ。


「どうして……。お父さん……お母さん……」

「ひとまず俺が確認に行く。リーシャは一旦安全なところにいろ」


 リーシャを炎の届かない場所に降ろし、村への中へと飛び込んだ。しかし中から見ても外から見えた状況とおおよそ変わらないな。建物はほぼ灰になりかけているし、中には人の死体のようなものが転がっている。恐らくだがリーシャの両親ももう……。


「グアアアアアァァァ!!」

「何だ!?」


 村の奥からだ。何か大きな獣の鳴き声か? もしかしたらこの惨状となんか関係があるのかもしれないな。


 村の奥へと進むと、そこにはRPGでよく見るドラゴンそっくりな化け物が炎を吐きながら暴れまわっていた。確かにあんなものに襲われちまえばひとたまりもねえな。


「グルルゥ……」

「お?」


 どうやらこっちに気付いたようだな。面白い。そっちがやる気なら俺だって容赦はしねえ。村を襲った魔物とありゃあ手加減する必要もねえよな。


「獣宿し『焔』!!」


 全身を炎に包みドラゴンに向かって特攻した。ヤツが炎を吐くのなら、こちらが先に炎を纏っていれば無効化できるって寸法だ。


 読み通り、ヤツの炎は俺にぶつかるとそのまま霧散した。


「今度は俺の番だな!」


 腕に一際強く炎を纏わせ、そのまま振り抜いてやった。


「グァァァァァッッ!!」

「効いてる効いてる。ならこれならどうだ?」


 同じように足に炎を纏わせて蹴りを入れた。見た感じかなり堅そうな鱗を持っているみたいだが、俺の炎には勝てなかったみたいだ。蹴られたところが蒸発して中の肉が見えている。


「そろそろいけそうだな。お前の力貰うぞ!」


 獣宿しの一族に伝わる能力吸収。ヤツが生物なら妖魔と同じように力を吸い取れるはずだ。


 ヤツの体に手を触れ、俺の魔力を流し込んだ。


「グゥゥゥ……」

「ふぅ……」


 これまた読み通り、ヤツの能力を吸収出来た。


「……獣宿し『炎竜』か。焔より火力は低いが、羽があるのは便利そうだ」


 一応、鳥の力を持つ『鳥華ちょうか』を宿せば二人程度なら抱えて飛べる。だが、この力ならそれ以上の重さに対応出来そうだな。


 ひとまず危険は排除したし、リーシャの所に戻るか。




「ショータ様! 良かった……ご無事で……。ショータ様までいなくなってしまったら私……」

「ああ、俺は何ともない。だが村には生存者は残っていなかった。恐らくリーシャの両親ももう……」

「……やっぱりそうですか。うっ……どうして、どうしてこんなことに……」


 ああクソッ……人の悲しむ顔は何度見ても胸糞が悪い。俺はここでも全てを守りきることは出来ないのか……? 


「ひぐっ……」

「リーシャ……」

「私、これからどうしたら……ぐすっ」


 せめて、せめてこの子だけでも守らねえと……俺は俺が許せなくなっちまう。


「リーシャ、俺と来い」

「ふぇ!?」

「お前を絶対に守ってやる。だから俺と一緒に来てくれ!」

「……ショータ様ぁぁ!!」


 今リーシャには頼れる存在が俺しかいない。こうなっちまった以上、何としてでもこの子を幸せにしてやらねえと気が済まないな。


「ひとまずこっから離れよう。別の魔物が出てくるかもしれない」


 リーシャを背負い、さっさと村から離れた。さっきのドラゴン程度なら問題ないが、もっとやべえのが出てこないとも限らないからな。


「とは言え獣人の扱いがアレなのはどうにもならないのか。このまま野宿生活を続けるのも参っちまうが」

「それならタシーユ王国に行きませんか? あそこは多種族国家ですので獣人でも問題なく受け入れてくれるはずです」

「マジか! それなら早速そこに向かおう」


 リーシャの情報を頼りにタシーユ王国という国に向かって飛んだ。距離がそれなりにあったから早速『炎竜』の力が役に立ったぜ。


「ここが……」


 思っていたよりも大きな国だ。周りは高い壁に囲まれていて、魔物が外から侵入してくる可能性は低いだろう。そしてそれは人間相手でも同じだ。きっと多種族国家ともなれば色々なところからヘイトを買うんだろう。これだけ防御を固めないと安心は出来ないのかもしれないな。


 さて、国に入るための門は……まあそりゃ衛兵はいるわな。最初に行った街じゃああんなことになっちまったがここは大丈夫らしい。……本当に大丈夫だよな?


「ふむ、怪しいものは持っていないな。ようこそタシーユ王国へ」


 警備がザル過ぎないか? 服の下に何か隠し持っているかもしれねえだろうに。


「なあリーシャ」

「なんでしょう」

「門を通る時の確認がちょっとずさん過ぎる気がするんだが、治安は大丈夫なのか?」

「それなら心配いりません。この国の衛兵の方は透視魔法と鑑定眼を持っているので、変な輩はすぐに気付けるんです」

「そうなのか」


 いよいよ魔法とか出てきたな。いやまあ俺の獣宿しも広義では魔法みたいなもんだが。


「以前村を訪れた獣人の冒険者の方が言っていたのですが、冒険者になれば奴隷として攫われる可能性は少なくなるらしいです。なんでも冒険者協会というものに奴隷商人は目を付けられているのだとか。私はわかりませんが、ショータ様ならきっと冒険者になれるはずです。是非一度冒険者ギルドに行きませんか?」

「冒険者か」


 RPGの主人公がそんな立場になっていることがあったな。まあ俺の知る冒険者とここの冒険者が同じものである確証は無いが。ひとまず行くだけ行ってみよう。リスクが減らせるんなら少しの可能性も無駄にはしたくない。




「ああ!? お前今なんつった!?」

「てめえ如きにこの魔物は倒せねえって言ってんだ! さっさとその依頼をよこせ!」

「よこせと言われてやるかよバーカ!」

「あ、あの……ギルド内での喧嘩は控えてください……」


 ……なるほど冒険者ギルドね。一言で言うならば、荒くれ者のたまり場って感じだ。こんなヤツらを扱わないといけない受付の人も大変だな。


「リーシャ、俺から離れるなよ」

「は、はい!」


 明らかに緊張しているな。いや、それもそうか。この空気感、普通の女の子には荷が重すぎる。というか男だってきついもんがあるだろう。俺も獣宿しの一族で無く普通の高校生だったらこの空気には耐えられる自信が無い。さっさと冒険者になってこの空間からおさらばしよう。


「すみません、冒険者になりたい者なのですが……」

「は、はい! 新規登録ですね。でしたらこちらに手をかざしてください」


 これは……石板? まあ何かしらの意味があるってことだろうから言う通りにするか。


「ショータ・サクライ様ですね。種族は獣人。性別は女性……」


 あ、そうだった。俺今女になってるんだったわ完全に忘れてた。というかこの石板すげえな。何もかもわかるんじゃねえのか?


「そしてレベルは24ですね。……24!?」


 うん? 今聞きなれない単語が出てきたような。レベル? どういうことだ?


「ショータ様、レベルが24もあったのですか!?」


 リーシャも今までになく取り乱しているみたいだな。そんなに大事なのか。


「そのレベルってのがよくわからないんだが」

「レベルと言うのはその者がこれまでの戦闘によってどれだけの経験値を得たのかを示す数値です。それが24という事は、少なくともスライムであれば1600体ほどと戦う必要があるんですよ?」


 スライム……最初に倒したあいつか? でも一体しか倒してないが……あ。そういえばリーシャの故郷にいたドラゴン倒したな。


「ちょっと待ってください……ワイバーン討伐経験有りって……」

「ワイバーン?」


 ああ、あれワイバーンっていうのか。吸収した力が何で『炎龍』じゃなくて『炎竜』だったのか気になってたがそういうことか。確かにワイバーンとドラゴンって似て非なるものとして扱われること多かったな。


「ワイバーンを倒してレベルが24ということは……。サクライ様、もしかしてレベル一桁でワイバーンを倒したのですか!?」

「よくわかりませんが、そう言う事ならそう言う事なんだと思います」


 よくわからない事だらけだし、ひとまず流れに任せておくか。


「で、では少しお待ちください」


 奥の方へ入っていったな。なんか不味いことでもあったか?


「おいおい、お前みたいなひ弱そうな女がワイバーンを倒しただって? 一体どんな細工をしたんだぁ?」


 さっき喧嘩していた冒険者か。どうやら受ける予定だった依頼を奪われて機嫌が悪いみたいだな。


「俺にもわからねえよ。石板が出したんだからそれが真実なんだろ?」

「ふ、ふざけやがって……! どいつもこいつも俺をバカにしやがる! 俺を怒らせたことを後悔するが良いぜ!!」

「ショータ様!」


 遅い。この程度の速さなら簡単に避けられる。だが、後ろにはリーシャがいるな。仕方ねえから一発くらい受けてやるか。無駄だとわかれば下がるだろう。


「フンッッ!! どうだザマーねえぜ! ふぅ……殴ってすっきりしたら気が変わったぜ。お前は中々良い体をしているみたいだからな。誠意を見せてくれるんなら許してやらないことも無いぜ?」

「おいおい、何勝った気になっているんだ?」

「……は? おいどうなってんだ……確かに手ごたえはあったぞ!」

「ただ当てただけを手ごたえと言うな。それにお前は当てたんじゃない。当てさせてもらったんだ」


 妖魔に比べたらなんとも無い一撃だ。


「サクライ様……ひぃ!?」

「あ、心配はいりません。何ともないですから」

「で、ですが……」


 屈強な男に殴られている女がいたらそんな反応にもなるか。ただ俺は女でも無ければひ弱でも無い。これ、どう説明したら良いか……。


「ちっギルド長が出てきたか。覚えてろよ!」


 圧倒的小物感だな。まさかそんなテンプレ的な小悪党のセリフを吐く奴がいるとは思わなかったぜ。


「君がサクライという者かね?」

「ええ、そうです」


 ギルド長と呼ばれていた人が話しかけてきた。……何と言うか小さい。変な意味では無く全てが小さい。身長は俺の腰くらいか。あどけなさの残る顔からも長と呼ばれる立場の人には到底思えないが…何か内から溢れる凄みを感じるな。


「話がしたい。奥まで来たまえ」


 ……ひとまず付いて行くことにしよう。逆らったらどうなるかわからねえ。

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