超合体☆元素猫!

楓屋ナギ

第1話

 日曜日、オレはひとりでテンパ山の頂上を目指していた。

 本日はお日柄も良く、家族連れがごろごろ。整えられた遊歩道のなだらかな坂の途中で、オレは大汗をかいてへばりこんでいた。ひらひらスカートにぺたんこパンプスをはいた若い女性が軽やかに追い抜いていくのを見送る。ああ、運動不足。

「あ、見つけた」

 その女性が左手首につけたリストバンドの液晶画面を見て、はしゃいだ声を上げた。バッグからスマホを取り出し、遊歩道の案内板の方にレンズを向ける。

「ほら、水素猫」

「へえ、かわいいじゃん」

 若い男が寄り添うようにしてスマホ画面を覗き込んだ。

 道行く人の多くはオレたちと同じリストバンドを身につけている。これは『元素猫』の出現を知らせる端末だ。

 元素猫とは、位置情報ゲーム『超合体☆元素猫!』に実装されている擬人化ならぬ擬猫化された元素のことである。目の前にある現実の風景をスマートフォンの液晶越しに見ると、電子情報によって加えられた元素猫が映り込む。それを捕獲するところからゲームが始まる。

 元素猫の種類は元素の数と同じ118種類。少ないように思えるが、コンプリートするのはなかなか難しい。なぜなら現実世界にほとんど存在しないような元素はバーチャル世界でも滅多に出現しないからだ。ただし、場所や期間が限定されることはあっても、出現率ゼロ設定の元素はない。地球上にはないはずの元素もごくごく稀に現れる。あくまでこれはゲームだ。リアリティはほどほどでいいのだ。


 ――そもそも元素は猫の形をしていないのだから。

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