愚か者が勇者になった結果、世界が滅びそうなんですが?

@satotoshio

第1話

 ユキはシャワールームから出ると、タオルで大雑把に身体を拭き、ベタベタと居間の床に水滴の足跡をつけながら寝室にあるタンスの前まで歩き、引き出しを引いた。


 あ、しまった。


 引き出しの中を覗いてユキは舌打ちした。

 空っぽだった。

 最近、洗濯が億劫になっていたのだ。

 仕方なくシャワールームの前まで戻ってみると、そこには洗ってない衣服で山盛りになった洗濯かごがあった。

 ユキははぁ、とため息をついてから洗濯かごを漁った。

 気乗りはしないが仕方ない。

 ノーパンノーブラよりはマシなはずだ。


 汝の名は下着なり。


 そんなバカみたいな文句を思い浮かべながら、彼女は適当に掴んだ上下で色もデザインもバラバラな下着を身に付けた。


 ユキは昔からだらしない……というより、“女らしさ”に欠けていた。

 幼い頃も、“お人形さん遊び”や“おままごと”より“チャンバラ”や“カードゲーム”や“鬼ごっこ”が好きで、よく男子に混じって遊んでいた。

 それでも小学生の低学年くらいまでなら、せいぜい“珍しい”で済んでいた。

 だが、高学年以上──つまり思春期──になってもそうだと話は変わってくる。

 同世代の女の子たちが“自分が男から見て魅力的かどうか”を気にし始め、お洒落や化粧に興味を持ち、体型や肌のケアに気を遣い、流行には眼を光らせるようになる中、ユキは変わらなかった。

 そして、“友達”だったはずの周りの男達も変わっていった。

 かつては“ガキ”だと思っていた彼らは、いつの間にか自分よりも大人になっていた。


 垢抜けていく同世代の女の子達を見ながら、「いつか自分もああなるのかな」と漠然と思いながらも、何も変わらぬまま成長してしまった。

 自分だけが取り残され大人になれないんじゃないかという不安を抱えたまま、それでも時間は止まってはくれなかった。


 それで、結局私は大人になった。

 女らしくなくて、幼稚で、だらしない大人に。


 鏡に写る、しみったれた顔をした何も成長していない間抜けな自分の姿を見て、思わず溜め息が漏れ、ユキは陰気になりかけた──。


 “陰気は損気だぞ、しっかりしろユキ!”


 が、父親が励ました。


 そうよユキ、しっかりしないと。叱ってくれるお父さんはもう居ないんだから。

 それに、コージだってこの町に来てから随分良くなったじゃない?

 負けていられないでしょ!


 ユキはパチンと自分の両頬を叩いて気分を切り替えた……つもりになってから、さっさと身支度を済ませ、制服を着込み、サーベルとレーザーブラスターがしっかりベルトに固定されていることを確認してから、玄関のドアを開いた。

 今日はとてもいい天気だ。


 こうして彼女の、“兵士Y”としての1日が始まるのだ。

 

 

 

 


 

 

 

 

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