第11話 文化祭
体育祭がおわってから、白組は、カップルが増えた。
そして、シルビオ様は恋のキューピットとして人気だ。主に男子生徒に…。
ゲームでは確か近寄りがたいクールキャラだったはず。熱血野郎どもに囲まれてわいわい楽しそうだな。
ただ、シルビオ様はなぜか、白組の上級生にも総司令と呼ばれてる。
「総司令、文化祭どうする?」
三年の学級委員長が相談にきてる。確か、文化祭は、クラス単位の行事では?
文化祭で、ヒロインはメイドカフェのメイドさんをしていて、可愛かったのを覚えている。
攻略対象者達がメロメロになるのよね。
可愛かった。それに攻略対象者が勢揃いするライブ。神スチルだった。クラス単位なのに学年を越えライブしてたな。
あんまり忙しくない出し物をして、のんびり楽しみたいな。
「毎年、売り上げが大きいのは、美少女揃いの赤組のメイド喫茶か、青組のイケメンどもが繰り広げるライブなんだよ。」
三年の学級委員長がぼやく。
うん。
わかる。私も行こうと思ってた。
自分でいうのもなんだけど、白組はいまいち華がないもん。
「トム、収益率を見込むなら、粉もんだ。」
シルビオ様、いつの間に三年生を呼び捨てに?
「粉もん?屋台のあの変なやつか?」
味は良いんだけど、見た目が悪いもんね。この学園の生徒に受けるとは思えない。
「トムの家はノックス商会だったな。」
ノックス商会。貴族ではないが、影響力はその辺の貴族では太刀打ちできないほどの大富豪。
会頭が白と言ったらカラスでも白くなるといわれるほど。この国、いや、近隣諸国を牛耳る影のフィクサーと言われている。
「ああ、手広くやらせてもらってるよ。」
「会頭に会えないか?」
「じいちゃん?いいよ。総司令に会いたがってたし。今日は家にいるよ。」
ノックス商会の会頭に会おうと思えば数年先といわれていて、王でさえも一月はかかるというのに。
大きなお屋敷の奥に案内される。広い部屋の中に案内された私は、度肝を抜かれた。
新喜劇のセットのようなうどん屋さんがそこに鎮座していた。
ガラガラー。
「お邪魔します。」
「邪魔するなら帰ってやー。」
定番のフレーズ。もしかして、会頭も転生者?
ニコニコ優しそうな白髪のおじいさんが現れた。
しかし、眼光は鋭く只者ではない。
おじいさんはお品書きを持ってきた。
懐かしい日本語だ。
でも、お品書きの文字が少しおかしい。
外国人が間違えて書き写したような違和感がある。
「ここ、違いますよ。」
思わず指摘してしまった。
「おぬし、やるのう。」
おじいさんの雰囲気が途端にまるくなった。
うどんらしきものを出してくれた。
鰹節のいい香りのする澄んだ出汁が食欲をそそらない。
なんで、こんなに透明感のある綺麗な紫色なんだ?
シルビオ様がすかさず会頭に向き直った。
「会頭、人払いを。」
「うちの孫は大事な後継者、秘密は守るぞ。同席させたい。」
部屋には会頭と学級委員長、シルビオ様と私が残った。
「会頭は、転生者の文化に造詣が深いと聞いています。」
「うむ。そのお嬢ちゃんが…、ということか。」
「はい。」
「その貴重な情報と引き換えに何を欲する?」
「調味料の色を変えていただきたい。」
「なんだと、私の人生をかけた研究の賜物だぞ。この澄んだ紫をだすのにどれだけ苦労したことか。醤油は、『転生者サトウの日記』に紫と記されておる。」
確かに醤油はお寿司やさんでは、紫と呼ばれてる。
だから、ちょくちょく紫色のヘンテコな食べ物が存在するのね。
「マーガレット、醤油は何色だ?」
「黒よ。大豆を発酵させて作るから、濃い赤紫に見えないこともないけど、黒よ。」
ただ、今まで紫で見慣れてきた固定概念は、覆せないらしく。ノックス商会の高級路線ランドールブランドとして、売り出す事が決まったらしい。
文化祭にノックス商会とランドール侯爵家の共同研究の賜物として、発表されることで合意した。
「権威ある学園の文化祭での発表となるといい宣伝になるな。しかも、あのランドール侯爵家とタイアップ。」
会頭は上機嫌で、食材や機材、凄腕料理人達の提供を約束してくれた。
文化祭当日。
白組は全学年共同企画として、
「古典文学『転生者サトウの日記』を読み解く~サトウの好物を再現する~」の発表展示を行った。
そして、クラス単位の出し物として校庭に屋台を設置。
ノックス商会協賛の下、校庭が巨大なフードパークとなった。
文化祭としては異例の、各国大使やこの国の王までが足を運ぶ大変な騒ぎとなった。
疲れた。ノックス商会の誇る凄腕料理人がたくさんいるから、ゆっくり文化祭を楽しめると思ったんだけど…。
甘くはなかった。
列の整理や、食べ物の説明、食券の販売。ゴミの片付け。テーブルの清掃。
シルビオ様が的確に指示を出してくれたお陰で、混乱なくスムーズに乗り切ることができたけど。
白組全員ゆっくり文化祭を楽しむ余裕などなかった。
みんなくたくただけど、なんかやり遂げた連帯感がすごい。ヒロインのメイド喫茶どうだったのかな?
「皆様、お疲れ様でした。皆様と協力して作り上げたこの薄い本。私の宝物ですわ。みんなで並んでゲットしたサトウの好物を食べて萌え談義しましょう!それにしても、あなた、こんな素晴らしい才能を秘めていたなんて。」
「ええ、素晴らしい絵師様ですわ。」
皆が口々にヒロインを褒め称える。
ヒロインは、自分の道を歩むことにした。
神絵師と呼ばれた前世の特技をいかして腐教活動に勤しむことにしたのだ。
赤組伝統のメイド喫茶はなくなった。しかし、毎年大行列を産むことになる薄い本の販売展示会が産声を上げた瞬間であった。
調味料と共に伝えられた文化はやがてソースロード文化と呼ばれる事となる。
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