18話《トラside》
「おい。ちびっ子?大丈夫か?」
その時俺に天使が救いの手を差し伸べてくれた。
そこからは天使に『兄』に会いに来たという事情を、しどろもどろになりながら説明した。
ほら、俺も男だから可愛い子にはカッコつけたいからさ。
天使は俺の拙い説明を嫌な顔せずに聞いてくれ、兄の名前を聞くと自分達の友人だから合わせてやるとまで言ってくれた。
そこからは役得だった。天使の小さいけれど温かい手と手を繋いで溜まり場にしているというバーに案内してくれ、一緒にソファーに隣同士に座って兄を待った。
お腹が空いた俺を心配して、天使はオムライスをあ~んで食べさせてくれて……。その時の味が忘れられなくて、俺の好物はオムライスになった。
兄は天使の友人の恐ろしく顔面の整った男『クロ』から連絡をもらったようですぐに駆けつけてくれた。
兄が来たことで天使との別れが惜しい俺は……、
「しーちゃん。俺はあそこにいる『クロ』よりも絶対にかっこよくなってまた帰ってくるから、そのときは結婚して下さい!」
天使の前に片膝をついて跪きプロポーズをした。
俺のプロポーズを聞いた天使は困ったようにふわりと柔らかく微笑みながら「いいぞ」と返事をしてくれた。
たぶん、子供の俺に恥をかかせない様に気を遣ってくれて、本気でプロポーズしたとは思っていなかったんだと思う。
でも、俺は本気だった。
因みに『クロ』という男を引き合いに出したのは俺がプロポーズしている間、ゆらゆらと黒いオーラを纏わせながら魔王みたいな表情をしていたから。
あいつは天使の事を溶けだすような熱を孕んだ瞳で見つめていたから俺のライバルだ。
そこからは割愛するが、関西に転校し自分磨きをしながらあの街に帰れる時を心待ちにしていた。
やっと高校生となり『兄』が通っていた全寮制高校に入学するという名目で天使のいる街に戻ってきた。
しかし天使またの名を『緋鬼』、『しーちゃん』は街にはおらず、探し回る為に喧嘩を売られた相手にやり返していたら俺自身が『クロ』になっていた。
『緋鬼』と云われる奴はいたが俺の『
他のチームの奴等は可愛がっていたけど俺には関係ない。
まあそいつも突然消えたんだけど、それは俺にとっては些細な事で。
俺は『緋鬼』がいない街にはもう用は無かったけれどまだ未練が捨てきれなくて……、ずっと探していた。
全寮制の学校では一応副風紀委員長をしていたから入学式の警備を担当した時に俺は目を疑った。
髪の色は違うけれどあの時の天使が新入生として入学式に参加していたのだ。
しかも、新任の教師として入ってきた『朝生清晴』なんて髪色を変えた『クロ』だったのだから。
すぐに副風紀委員長の権限であの天使は誰なのか生徒名簿を調べ上げた。
『加賀美 詩音』というらしい。詩音だからしーちゃん?
でも、俺が小学生の時に兄と同じくらいの年齢だったはずで……。
それを裏付けように『クロ』こと『朝生清晴』は兄と同じ年齢だった。
わからない。顔が同じだけで、別人か凄くよく似た兄弟?
しかし俺の天使(仮)は魅力を抑えることが出来ずに、この学園の権力者である生徒会役員達全員を籠絡し、俺の友人の冷水までも虜にした。
次々にライバルを増やしていく小悪魔な天使(仮)に対して焦りを覚えた俺は最後の手段として『緋鬼』ならば喧嘩が馬鹿みたいに強いということを確かめることにした。
ある日人気の無い廊下に天使(仮)が歩いていたので、全力で振りかぶって殴りかかった俺。
すると詩音ちゃんは事も無げにヒラリと躱すと、俺を一瞬だけ射竦めるような殺気を込めて睨み付けた。
しかしすぐに殺気をおさめ、ぽよぽよした声と態度で俺に「やめてくださいっ!」と抗議をした。
凄い。この俺の拳を避けつつ殺気を放つ余裕まであるなんてっ!!
やっぱりこの天使は『俺の緋鬼』だ!
そこからは、中庭であの現場を見掛けて写真を撮り詩音ちゃんに確認したがはぐらかされ、もう一人の『緋鬼』が出て来て有耶無耶になってしまった。
しかも暗黒魔王である『朝生清晴』から熱い拳でキュンとしない方の壁ドンをされながら「俺の詩音に近付くな」と本気の忠告を受けた。
しかし神はいた。
ある日の放課後、風紀委員としての見回りをしていると
空き教室から話し声が聞こえてきた。
その声は俺が聞き間違えることは無い詩音ちゃんの声だったため教室のドアを開けて声を掛けようとしておれは――
息を呑んだ。
床に転がる屈強な男達。ピクリとも動かない様子から失神させられている。
ぱっと見、血がついておらず、綺麗に1発で意識を飛ばしたのだろう。
その奥には何事も無いように呑気に机の上に足を組んで腰掛けながら自身のスマホを弄る彼がいた。
窓から斜陽が差し込み、窓際にいた何時もの彼よりも大人びた横顔と全身が緋色に染め抜かれた姿は胸が躍って焦がれ死にそうなくらい美しく、正しく俺が探していた『緋鬼』そのものだった。
「しーちゃん?」
胸を突き上げてくる愛しさを彼に届いて欲しいと希うように俺は数年ぶりに彼を呼んだ。
彼は俺の声に気がつくとパアっと花が咲いたように顔を綻ばせながら笑い声をあげ、幸せそうに微笑みながら顔を向けた。
緋色に燃え立つ夕陽に後ろから照らされ、まるで後光を背負った様な彼の心からの屈託ない笑みの美しさに2度目惚れをし、何年も探していた初恋の相手が見つかった喜び――
心の底に堪えていた感情がほとばしるように涙が勝手に溢れ嬉し泣きした。
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