第2話

「「天使降臨っ!!」」


 朝生が両手で顔を覆い天を仰ぎだした。

 他のクラスメイトも同様に頰を赤らめながら前屈みになったり、天を仰ぎだしたりと反応は様々だ。


 転校生である百地も例に漏れず――



 ズカズカと詩音の元まで足を進め、詩音の犠牲者であるクラスメイトを横目に口元を弧に歪ませる百地。

 詩音の目の前まで来ると、ずいっと詩音に顔を覗き込むように近づける。

「なぁ!お前!詩音って言うのか?!クッソ可愛いな!」

「へぇあっ?!可愛って僕のことっ?!そんなこと無いよぉ!」


 詩音は百地から可愛いと言われて驚き、頰を赤く染め照れながら両手をフリフリしつつ否定する。


 そんな様子も他の生徒からすればあざといくらい只々可愛いだけだ。


「あのさ……、百地くん。僕とお友達になってくれる?」


 椅子に座ったままの詩音が百地のブレザーの裾を持ち、上目遣いで小首を傾げながら問い掛けた。


「ああっ!いいぞっ!お前は俺が守ってやるぞ!詩音!」


 一瞬ごくりと大きく喉を鳴らした百地だが、すぐに耳をつんざくような大きな声で口を開く。


「えへっ!ありがとう。百地くんっ!」


 百地の返事に詩音はつい嬉しさから反射的にゆるゆると頬を緩ませる。


「なぁ!詩音!俺のことも遙って呼べよ!」

「うん……。遙くん?」

「遙!」

「はるか……?」

「へへっ!詩音!」


 目をぱちくりさせながら百地の名前を呼ぶ詩音。

 それに満足したのか百地はモジャアフロで隠された目元はわからないが頬を赤く染めだらし無く口元を緩める。


「ふふっ!仲良しさんみたいでうれしいっ!」


 お互いの名前呼びを喜んだ詩音を見つめた遙は熱の篭った声で詩音の名前を呼ぶ。


「詩音……」

「なぁに?はる……」


 返事をしようとする詩音が最後まで名前を口にする前に遙は覆い被さるように唇を塞いだ。

 突然キスをされた詩音本人はあまりに突然のことにより目の前で起こっていることが理解できずにただ呆然とされるがままに。


 周囲の人間も想定外の出来事に時が止まったようにピクリとも動けなかった。


 途中で詩音も遙を押し退けようと抵抗するけれど遙は口を塞ぎ続け舌をねじ込む。


「っん。……ふ、まっ……て」


 遙の舌はさんざん好き勝手に詩音の口内で動き回った後、最後にちゅぅっと詩音の舌を吸い、唇を離す。

 満足気な遙は2人の唾液で潤んだ自分の唇をペロリと舐め、詩音から身体を離した。


 詩音は恥ずかしさと突然キスされたことに顔をかぁーっと真っ赤にし、大きな零れそうな瞳からだんだんと涙の雫が溢れ始める。

 詩音が瞬きをするとその瞳からポロポロ雫が流れだす。


「あ、の、……、ぼく、はじ……めて……で……」


 そう言うと詩音は勢い良く椅子から立ち上がり、周囲の視線から逃れるように口元を押さえながら教室の扉から走り去って行った。

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